第5話―1 奈落に呑まれし斧狼:1
《『コトにぃ、今日はなんの日か、モチロン覚えてるよね?』》
《『はぁ? ……コトにぃのバカ! もう知らない!』》
琴葉、別にお前の誕生日を忘れていた訳じゃない。
ただ、お前のいつも以上に喜ぶ顔が見たかった。
ごめん、琴葉……。
《『コトバ、さっさと起きな』》
琴葉の姿をしたワドラ、声も琴葉に似ている。
そうだ!
琴葉と父さんと母さんが待っているはずだ。
だから俺は必ず。
《『だからさー、さっさと起きなよー!』》
ああ、さっさと起きるよ。
「コトバ君、ゆっくり眠れた?」
う……ん、アリシェラか。
「ああ、数時間分の疲れのせいかな。アリシェラは休めたのか?」
「ええっと、少しだけ……かな。奈落流刑地だから、天から光が入ってこないからね」
「確かにな……」
ここに来てから見た光は、俺のステータス画面の光とアリシェラの灯明のスペルズ魔法の灯りだけだ。
『ガァァァ! 『ザザッ』ス! ガァァァ! ナラク……オル『ザザッザザッ』オー! ガァァァ!』
ん? これは?
ステルスソニックスキャンが拾った斧狼の声?
アイツがなぜ人の言葉を話せるんだ?
「アリシェラ、あの斧狼っぽい声を聞いた」
「えっ? アクスウルフは近くにいそう?」
「声はハッキリとは聞こえなかったからな、この周辺には恐らくいない」
「そうか……、そういえばコトバ君が眠っている間、小屋の机の上で、これを見つけたよ」
何かの日記か? 文字が読めない!
「あー、もしかして、コトバ君は文字が読めない感じかー」
「ああ……アリシェラ、頼めるか?」
「了解、コトバ君」
アリシェラが居てくれて良かったよ。
「えーとなになに、奈落流刑地に落とされて、じ――」
「ん?! 奈落流刑地に落とされてだと?」
「うん、この日記帳にはそう書いてある、続けるよ……自分が奈落――」
[奈落流刑地に落とされて]
自分がこの奈落流刑地に追放されてから、一体どれだけ経っただろうか。
オルタシェイラには、禁断の処刑魔術があると言い伝えがあったが、まさかオルタシェイラ国王として、即位する時に受け継がれし魔術だったとは、我ながら盲点であった。
あの日、オルタシェイラ王がオルタシェイラ王国の兵力不足を埋めるために、異なる理を持つとされる世界の者達を呼ぶ禁断の魔術を研究していると風の噂で聞いた。
なぜオルタシェイラ王が、そのような狂気的な考えを生み出したのか、禁断の魔術を誰から教わったのか。
それは、一人のオルタシェイラの魔導戦士であり、現在は奈落流刑地にいる自分には分からない。
ただ、この奈落流刑地は恐らく、死者の邪なる怨念が集まり出来た箱庭であり、ここここ、ののの――
「うーん、日記はここで終わっているわね」
なんだ最後の乱れ方は……。
この魔導戦士は何を書きたかったんだ?
「ありがとうアリシェラ、一つ聞いてもいいか?」
「うん、なにかな?」
「オルタシェイラにも魔導戦士がいたのか?」
「オルタシェイラに魔導戦士? えーと確か、オルタシェイラにも優秀な魔導戦士がいて魔導戦士隊もあることで有名だったわ、でも」
「でも?」
「でも今は、コトバ君と同じ様に違う世界から召喚された者達によって編成された、オルタシェイラ勇者隊のみだったような」
……アリシェラの話とこの日記の話から考えると魔導戦士隊は邪魔、だからオルタシェイラ王が、この魔導戦士を奈落流刑地に追放した理由にもなるな。
『ガァァァァ!』
斧狼の咆哮か。
さっきの場所から近づいてきているのか?
「どうするの? コトバ君」
「数時間前にも言っただろ? 今はあの斧狼野郎に勝てる見込みはない、ただ、この小屋からは出た方が良さそうだ」
「……なるほど、分かったわ。でも小屋から出た後、どこへ向かうの?」
俺の考えが確かなら、それは……。
「俺達以外にも奈落流刑地に流れてきた者が使っていた、別の小屋が恐らくあるはずだ、そこを目指そう」
「分かったわ、コトバ君」
◇奈落流刑地 小屋前◇
「アクスウルフはいないみたいね。それじゃっ、行きましょうか?」
「ああ、行こうか」
こんな真っ暗闇な世界に追放された人間が、俺とアリシェラだけな訳がない。
だからこそ探す、あの斧狼を倒すヒントを!
第5話―1 奈落に呑まれし斧狼:1 完。
第5話―2へつづく!
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