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第36話 隠り世の面影、宵闇の誘い

祭り当日。朔から暖色系の洋菊の浴衣を貸してくれた。

袴同様、どうして浴衣までもっているのか桃果は不思議だったが、

また朔が「理由は聞かないでくれ」という表情をしていたので

あえて聞かないことにした。


祭り会場は妖怪と人で賑わっていた。

出店している店々が立ち並び、各々の店から流れてくる匂いや音が

桃果の心を躍らせて来る。

「あ!狛ちゃん見てみて、あのお店可愛い!飴細工だって!」

可愛い形に作られて並べられた色とりどりの飴に釣られて桃果がお店に向かってくる

その時、桃果も知らず知らずのうちに狛と逸れてしまった。

桃果は飴に夢中で気づかない。


「あれ……狛様と仲良くしてる……人間でしょ?」

狐の女性妖怪が桃果を見つけ、祭りに一緒に来ていた数人に問いかけた。

「あ、おにぎり屋の娘じゃん!人間のくせにいつも狛様と一緒に居るなんて……ねぇ?」

猫の妖怪も賛同するかのように答えた。

「狛様は皆のものなのに……!」

それぞれの嫉妬が言葉を強くしていく。

「ねぇねぇ、あいつ追い払っちゃおうよ!」

2人の隣にいた一つ眼の妖怪女性も賛同して行く。

「そうしよ!そうしよ!」

その言葉の中に操られてる事を3人は気づいていなかった。


「あ、あれ……っ?狛ちゃん居なくなっちゃった……どこにいったんだろう?」


やっと狛の姿が居なくなった事に気づいた桃果は辺りを見渡すが、狛は居ない。


「どうしたんですか?」


桃果が振り向くと浴衣を着た3人の女性妖怪がそこに居た。


「あ、あの……っ、狛ちゃ……猫又の友人を探してて……」

「ひょっとして、猫又の狛様かしら?」

「は、はいっ!そうです」

(狛ちゃん、狛様って呼ばれてるんだ!すごい……)


桃果の知らない狛の一面に驚く。


「それならこの周辺を警備するからってあの大木の方へ行ったわよ?」

「本当ですか!有難うございます!行ってみます!」


教えてくれた方向へ桃果は駆け出す。

その姿を追った3人の女性妖怪たちは急に頭が冴えたかのような感じに戻っていた。


「あれ……私達、今何をして……?」


先程の3人の女性妖怪たちと分かれ、狛の元へ目指す桃果に

もふが小声で囁いて来た。


「なぁ……あいつ等の事を信用するのか?」

「えー?親切だったよ?優しそうだったし!」

「俺は何だか引っかかるけどな……」

「狛ちゃんがこの辺の警備をするって事?急にお仕事になったとかじゃない?もう、もふは人を疑い過ぎだと思うけどなぁー!」

「お、俺だって桃果の事位は信用出来るぞ!」


とうかのおにぎりは旨いからな!そう、もふは何故か自身満々で話していた。


数分後。

息を切らして飛び込んできた狛に3人の妖怪の女性たちは黄色い声で色めき立った。


「狛様!?どうして私達の所に?」

「お前たち……肩に小さい妖怪を乗せた人間を見なかったか?」

狛の問いにおずおずと一つ目の女性妖怪が答えた。


「それなら大木の結びの結界の方へ――」

「……結びの結界だと?どうして?よりによってあんな場所に?」

「さぁ……?」


女性妖怪たちはそれぞれ顔を見合わせて首を傾げる中、

狛は横にあったお面屋の猫のお面を眺めていた。

白く、目元が赤で縁どられ猫の足跡が2つ付いた可愛らしいお面だった。


(あいつに……似ている)


昔一緒にいた猫の妖怪を思い出しながら狛は呟いた。


* * *


眩しいほどの提灯の明かりから離れ、歩く下駄の音を月明かりが照らしていた。

先程まで賑わいを見せていた人々の熱気からは遠ざかったここは

虫の音だけが優しく響く。

桃果はもふを連れたまま、教えてくれた案内の先を目指していた。

すると、目の前が開けた場所になり、見上げる程の大きな大木が現れた。


「うわあ、大きい……!」


大木には赤いしめ縄の様な者があり、見かけないしめ縄に桃果は大木に近づいた。


「ここの大木って結びみたいなのがあるんだねー!祀られてるのかな?」


大きいねー!と、はしゃいでいる桃果を他所にもふは大木を見て内心慌てた。

白毛に冷や汗がぐっしょりと滲んでいる。


「と、ととととと桃果……ここは不味い。離れた方が良い……」

「え、どうゆう――」


そう言いかけたその時、桃果の腕が後ろから引っ張られ、口も塞がれた。

悲鳴も出せないまま桃果は暴れたが、もふが「桃果、狛だ!」と答え、

落ち着きを取り戻した桃果の姿に狛は安堵の溜息を零した。


「どうしてここまで来た?ここは腕引きの縄張りだぞ?」

「腕引きって……?」

「百足の妖怪だ……いつもなら結界で封じていたが、祭りの間は結界が弱まってある一定の距離は動けてしまう」


と、狛は突然桃果の頭に何かを被せた。


「暫くはこれを被れ。今は誤魔化せられたほうが良い」

「これって……猫のお面?」


先程、おめん屋でみつけた白猫のお面だった。

桃果が被るには丁度いい大きさだった。


「あの妖怪は知能が低いが人間と分かると少し厄介だ。

お面で顔を隠したら分からない」

「どういう事……?」

「やつらは人間が好きだ……良くない意味でな。知らない内に惑わせ気を奪い取る。幽世は妖怪と人間が共存し合える世界だが、中にはこうした妖怪も居たりする」

「私、狛ちゃんに助けられないままだったらどうなってたの?」

「気を全部奪われ死ぬかあるいは……気ごと喰われるな」


狛の言葉に桃果は背筋が寒くなった、その時だった。


『これはこれは鎮守庁の猫又様だ……』

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