8話 バカの末路は想像に易い
目の前に迫る魔物の群れ。それは一体や二体どころではなく、十数体を相手どることを強要された。まるで浜辺に上がる波の様に走ってくる魔物に対し、持っていたスクレーパーを投げつけ、大地を蹴る。
敵の脳天にそれが突き刺さった。その後、すぐに次の魔物へ包丁を刺し、更に半円をあがくように振り払う。血が円を描いた。ゲームと言えど、血は現実そのものだ。
先ほどの戦闘でわかったことは魔物の血が紫色であるということ。何かしらの病気……というわけではないだろうが、それが魔物と人の違いの一つなのだろう。
再度周囲を見渡す。既に周辺は囲まれつつあることを確認し、すぐに離脱するため背後に走った。囲まれると背後も気を使わなければならない。できれば背後は何もいない状態で戦うことを意識して戦う必要がある。背後の魔物の攻撃を躱し、足の剣を斬る。倒れた。さらに隣にいる魔物に彫刻刀を一本取り、目に突き刺す。
「ギャアアアア!!」
「……っ。痛覚ありか。ラッキーだな!」
魔物という存在についていい情報を仕入れた俺は、同じように数体の魔物を戦闘不能にし、サイドに転がす。これで戦いやすくなればいいが……多対一において重要なのは囲まれないことだ。囲まれたとて背後を警戒すればどうにかならなくもないが、ゲームとは違い三人称ではなく一人称なためそううまくはいかない。
「お前らを障害物にすればいくらかましだろ!」
そこで重要なのが、戦闘不能にした魔物を障害物にして戦うということ。俺の周辺にあえて殺さずに生かした魔物を転がせることで、魔物は勢いを無くすだろうという算段だ。成功するか否かは分からないが、少し狼狽えているように見えなくもないので成功だろうか。とりあえず、近くの敵から掻っ捌き、数を減らしていく。
十数分が経過した。大体20体くらいは倒しただろうか。しかし、魔物の数は一向に減らない。
「まずいな……やっぱり数が多い。呼び過ぎた!!」
わざとではないが……想定以上の数に精神がこれでもかと削り取られるのが分かる。もともとただのゲーマーだ。視点操作はお手の物だが、精神的疲労は計り知れない、それは戦っていても直に感じる部分だ。でもそれを意識する暇なく、動き続けなければならない。
「……っ」
汗を振り切り、刃が光る。空を切る音がいくつか増えてくるが、それでも敵の攻撃に細心の注意を払いつつ、回避し続ける。
「……切れ味が落ちてきた」
幸い、いい点を挙げるとすればこの世界にレベルアップというご都合設定が盛り込まれていることだ。戦闘の中で何度もレベルアップの文字が脳裏をよぎっていった。その都度体はわずかに回復するし、五感も嗅覚も優れているのが感じ取れる。おかげで肉体的な疲労はどうにかなりそうで安心した。
逆に予想外なのは武器破損だった。目の前の魔物を切り伏せ、更には投げ、それを抜いてまた切り伏せる。っと、そこで明らかに切れ味が落ちていることに気づく。
そしてそれは、3メートルほどの巨体の豚を相手にした時、首元めがけて振った刃がゴムの様に跳ねることで、攻撃を許すという致命的な結果を生んだ。
「やべっ」
気づいたころにはもう遅く、豚のこん棒が俺の横腹を直撃する。痛みと共に二階から落とされたスーパーボールのごとく吹き飛んでいく。痛い……。というのを久しぶりに感じた気がするが、だからと言って立ち止まるわけにはいかず、頭を上げた途端、やってくるのは雑魚種の群れだ。
休む暇がない。肉体が強化されているおかげでどうにか動けていたが、本来なら今の一撃で死んでいただろう。レベルアップ様様だな。
「……」
周囲を見渡す。さて、にしてもどうするかだ。魔物は後30体くらいだろうか。今倒したのが30体近くなので大体折り返しくらいだ。問題は、さっきの攻撃で横腹がズキズキと痛むこと。そして数十メートル以上吹き飛んだことで戦闘不能にした障害物がなくなったことだ。
その時、遠くで兎が光線をためているのが目に入り、途端に横に回避すると、看板を焼いた光線が俺の隣を過ぎ去った。
「そう言うのやめないか!? 初見じゃなきゃ掠ってたぞ!?」
一度きりだか何だか知らないけど、魔法が飛んでくると対処がしずらいのが正直な感想だ。特に範囲攻撃だと防御という選択もできないし回避も難しい。加えてどんな特殊効果があるか分からないから掠りたくもないという無理ゲー。
「こりゃ中々骨折れるぞ、色々」
物理的にも心労的にもそれなりに負担がのしかかるであろうことを理解しつつ、更に魔物へと飛び込んでいく。




