7話 腹減った奴からかかってこい!
魔物が集まりやすい場所とはどこか。ドロップ品を家に置いて二人と別れた俺は一旦考えた。メタクラックは少し街の方に出稼ぎに行きたいらしく俺とは正反対へ進んでいった。開けた場所があるのでそこで狩りをするとのことだ。
対してヘルズは建物の多い住宅街へ行くらしい。少し目的地まで時間がかかるが、そちらで狩りをするとのこと。まあ街と言ってもみんなが想像するような細道だらけの入り組んだ街じゃなくて、田んぼがちょこちょこあって建物もそこそこ建てられた立地のいい場所だ。槍使いでも槍を振り回せなくて困るなんてことはないだろう。
問題は俺がどこに行くのかだ。正直二人とは鉢合わせしたくないし、別の方向に行きたいというのが本音。かつ、二人よりもたくさんの魔物が居そうな場所を目指したい。となると、自ずと答えは決まっている。
「ここら辺は俺の領域みたいなとこあるからな。二人には悪いが今回は俺が勝たせてもらう」
俺唯一のアドバンテージは、ここが俺の家だということ。二人はここ周辺のことをほとんど知らないため、直感で魔物が居そうな場所を探している。地図は持たせているが、見ただけじゃあんま分からんだろう。地図記号とかわかりにくいし。俺も小学校の頃地図見ても意味が分からず自分特有の記号作って覚えてたからな。どうせ二人もそんなもんだ。
「この勝負、絶対勝たなきゃな」
さて、行きましょうか。
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魔物が居そうな場所はどこか。これを考えるために、俺はまずやつらの今の状況を察するに至った。例えばやつらはどうやってこの世界にやってきたのか。考えられるのは元々魔物という生物が地球に存在していたという説。それか突然この世界にやってきたという説。この二つだ。ただ前者はほぼあり得ないと言える。
この情報化社会において魔物という生物が元々存在したなら、必ずどこかで目撃情報が上がるからだ。特に先ほど見た通りかなりの数の魔物が存在しているうえ、中には数十メートルの巨人も存在する。見つからないなんてことはまずありえない。
つまりやつらは突然この世界にやってきたと見ていいだろう。ならばやつらは今どんな状況なのか少し考えてみよう(※現在目的地まで移動中)。
ずばり、俺がもし魔物で突然この世界にやってきたとしたら、困るのは衣食住のすべてである。
例えば衣。もともと裸なら全く問題ないだろうが、何かしらの衣服を着る生物であれば服を探す必要がある。その服はどこから仕入れるのか。まあこれは二択だ。人から奪うか、魔物の皮から作るか。
魔物が魔物を倒したときドロップ品を落とすのかはまだ分からないが、例えば落とすとしてその場合は後者も可能だろう。ただしそんな危険を冒すより人から奪ったほうがマシだ。空き家とかもあるだろうし、ついでに食料や住居も手に入れられるかもしれない。やつらにとっての最善はきっと人の家を奪うことだ。
だがそれらは俺たち人間並みに頭が回るやつらが辿り着く最適解。さっき戦ったやつらはそこまで頭がいいとは思えたなかった。つまり、住宅街や開けた場所まで行く魔物は少数とみていいだろう。
それより考えるべきは食料問題である。やつらが本能的に今一番必要とされるのは食料だ。知らない土地に突然飛ばされて、最初に腹が減るのは生物として当たり前だからな。ほら、俺たちも最初朝食食べてただろう?つまり最初に求めるのは衣服でも住居でもない。食料と考えられる。
さて、そこまで考えれば簡単だ。俺がやってきたのは近くの畑である。うちのばあちゃんは農家だから、ここら辺一帯の田畑は全部うちの所有だ。中でも、先程の場所から二分ほど南の坂を上った先にはそこそこ広い畑がある。何を植えてるかは知らん。基本両親がとってくるから。
「どれどれ、宝箱を開けるとしましょうか」
畑はまさに食糧庫と言っていい最高の場所だ。さぞたくさんの魔物が宴を開いていることだろう。それらをすべて倒すことで俺は二人に勝ち、最高のフィナーレを迎えるのだ。最高の……
「……ってあれ!!?? なんか全然いなくね!!???」
意気揚々と畑の入り口にやってきた俺が目にしたものは、魔物がまったくいない見た目だけの畑であった。
風ばかりが通り過ぎている。どういうことだ?なんで魔物がいない?混乱しつつ畑の中へと歩いてみる。
「柵が壊れた様子はないな……中も荒らされてなさそうだ」
畑はおばあちゃんが山からイノシシやタヌキなどから守るために金属製の鉄格子みたいなのを張っているが、それらに傷が入っている様子はなかった。試しに鉄格子の奥に行っても敵の姿はない。というかそもそも荒らされてないんだから当然だ。でも、だとすればどうして……
畑を見ているとその理由に気づいた。
「あ、そうか。この畑まだ何も育ててないのか」
気づけばわかる俺のドジ具合。そう言えばここは両親が野菜を取りに来るエリアとあって何を育てているのかわかっていない。俺はてっきり畑には旬の野菜を植えてその都度育てていくものだとばかり思っていたが……多分そうじゃないのだ。この畑は元から植えるものが決まっていて、今は時期じゃないから何もできていないのだ。
「……くっ、ここで親の仕事を一切手伝わなかったことの弊害が来るとは!! こうなるならちゃんと手伝っておけばよかったぜ!」
完全な失敗だ。自信をもってここなら勝てるとタカをくくっていたのに、収穫はゼロ。まずいな。この様子じゃ他の畑も同じような状態の可能性が高い。いや、たとえ作物ができていたとしてもわざわざ探すとなればかなり時間を取られてしまう。その間もしあいつらが魔物を次々倒していたとしたら俺はドベ確実。結果的に取り分の2,3割を明け渡すなんて可能性も浮上してしまう。
「落ち着け、何か策はあるはずだキュウタ! ここは俺の庭……近くにそれらしい場所があればまだいける…」
考えれば考えるほど、二人みたいに街の方に出た方が魔物を狩れるんじゃないかという考えが浮上してくるのは気のせいだろうか。いや、俺の考えは決して間違っていないはずだ。ただ、今回は畑が予想を裏切っただけ。つまり魔物が食料を探しているという点に関しては間違いはないはず。じゃあまた他に食料のある場所を探すか?
「……一体どこにそんな場所…」
食料云々の前に、魔物が集まりやすい場所ってことだもんな。魔物が集まりやすい場所……魔物が集まりやすい場所……色々と過去の話を思い出す。
『さっきメタクラックくんは外の敵を仮名として魔物と称したけど、世間でも同じ呼び方をするようにしたらしい。そして、彼らは人見ると無差別に襲ってくる言わば通り魔だ』
たしかヘルズがそんなこと言っていた。俺はそれを聞いて妙に納得した。ゲームだと魔物はすぐに襲ってくるからそう言うもんだって前知識があったのはそうだが、それ以外にも生物学的に別の生き物だから排除しようって思考が働くんだろうと思ったのだ。
「そうか。狙われてるのは俺たち人間。あいつらは俺がいる場所が分かれば襲ってくる?」
食料の話を何度も思い出しているが、きっとやつらにとって俺たちも食料なんだろう。したがって俺そのものが、やつらにとって格好の獲物ってことじゃないのか?もしそうならこの考えはかなり使える。だって俺の場所さえやつらに伝えればやつらは勝手に群がってくるんだから。
「試してみる価値はあるな。場所移動するぞ!」
ここじゃ狭すぎて魔物がごった返してしまう。広々とした戦いやすい場所に移動してそこで戦おう。
「よし、いい感じだ。ここなら見晴らしがいいな」
戦場の選択は、見晴らしがいい場所である。魔物がもし大量に引き寄せられた場合俺は確実に囲まれる。障害物ありだと不覚を取ることもあるだろう。ってことでやってきたのは坂野原運動場である。
うちは近くに運動場があるため、子供の頃子供会でソフトボールをしたりドッチボールをしたりとよく練習に使われていた。最近だとクラスメイト(ほぼ全員知らない)とサッカーをするなんてこともあった。看板は兎の光線で思いっきり穴ぶち空けられてて消し去ったが。まあそれは過ぎたことだ。
「お茶は遠くに準備してるし、スパイクも履いた。タオルもあるし、準備はこんなもんでいいだろ」
運動場とあって地面は砂だ。アスファルトでもなければコンクリートでもない。というわけで家から昔買ったスパイクを持参し履き替えた。休憩もしたいのでタオルとお茶も持参。食糧管理はメタクラックの役目だしなんか文句を言われるかもだが、お茶くらいなら大丈夫だろう。それらは運動場の端にあるベンチ下に置いた。
今持っているのは腰に付けたバールと彫刻刀とスクレーパー。手には出刃包丁を二刀。リーチはそこまでないが俺の戦闘スタイルには合ってる。そして最後、魔物を呼び寄せるための道具であるメガホンだ。
簡単にストレッチする。突然来ても動けるように、屈伸と長座体前屈。ゲーマーながら体を鍛えるなんてしたことはないが、ストレッチは毎日やっている。おかげでゲームのアバターくらいには体が柔らかいはずだ。
「準備完了。それじゃあ始めようか」
メガホンを手に持ち、スイッチを入れる。あー、あー、としゃべってみれば驚くほどに響いた。近くに障害物がないというのもあるだろう。やっぱりここを選んで正解だ。おまけにこの運動場は山の上にある。魔物がもし近くにいれば必ずやってくるはずだ。俺は息を整えると、早速叫んだ。
「たのもーーー!!! ここに食料が一人、ゲーマー伏宮京太郎!! 痩躯ながら、裸踊りして待ってるぞ!!!! 腹減ったやつからかかって来い!! 先着順だぁぁあああ!!!」
一体どこまで響いているだろうか。伏宮人生最も大きな叫びが、坂野原市へと響き渡る。街まで響いたかもしれない。数キロ先まで聞こえてきたかもしれない。そんな爆音に自分でも驚いた。とはいえ、まだまだそれでも終わらない。
「今日俺は朝ジャム付きの食パン食いましたぁあああああ!!!! こんななりでもうまいもん食って生きてるぞぉおお~~!!! そんな俺が食いたいかぁぁああああ!!??? だったら声のする方にーー全身全身ぃいいいぉおおおおおおあああああ!!!」
叫び、叫び、叫び続ける。
そして、一通り叫んだ後、一旦休憩。メガホンを置き深呼吸をする。俺の声がどこまで響いたのか分からないが、森の方向から鳥の群れが大量にパタパタと羽を広げ飛んできた。魔物じゃなく、もともとこの世界にいた鳥だ。
それを一瞥し、森の入り口ーー獣道の出入り口を凝視する。距離は150メートル程先だろうか。奥に入ったことがないが、一度夢に見たことがあった。その獣道から大きな猪が走ってきて追われる夢だ。子供ながらに悪夢だと思った。
今はそれが待ち遠しく思っているのはやはりゲーマーとしての性だろうか。あるいは大人になって感性がぶっ壊れたからだろうか。どちらにせよ、いいことではない。
地面が僅かに揺れるのを感じる。森がざわめき始めた。遠くを見る。背後には巨大な壁が反りたち、森がある。そっちから魔物が来れば音でわかる。だからこそ、正面を凝視し続けた。
黒い何かが見えた気がした。霧か、いやミミズみたいなものか。一瞬何かが見える。何か、嫌な気配だ。そして次の瞬間。
ブワッ。
っと、大量の魔物があふれ出るように走ってきた。
「……っ!? 1、10……20……いやもっとか。ヤバイな!! 調子に乗りすぎたか!!???」
後続もあるであろうその魔物の群れに、心臓が飛び跳ねるのを感じた。完全に百鬼夜行のそれである。予想していたのは数体ずつを何ラウンドかに分けて戦うというものだったが、その予想をはるかに超える数の魔物がいくら丼のいくら乗せ放題みたいに溢れてくる。
そいつらはこちらの存在に気づくと一直線に走ってきた。運動場は入り口から獣道まで段々と高い壁になっているのだが、その段差から滝の水のごとく落ちるように、ただ一直線にこちらに走ってくる。
どいつもこいつも知らない奴らばかりだった。戦い方は?魔法持ちはいるか?肉弾戦でいけるか?休憩する暇はあるか?ゲームなら最早逃げる術はないだろう。何ならゲームオーバーの文字が頭にちらつく。
「いや、問題ねえ! 押し込まれないように、だ。集中!!」
この緊張感。自分がここまで死に対して鈍感で、高揚感を覚えるとは思っていなかった。跳ね上がる心臓を押し込み、刃を構える。そして、やってくる魔物の群れに、俺は刃を光らせるのだった。
一方その頃ヘルズとメタクラックは……
「ふっ、あははははは!!! なんか聞き覚えのある声聞こえた気がするんだけど気のせいかな? なにやってんだよあの阿呆は!? 下手したらここら一帯の魔物が集結しちゃうよ」
「嘘でしょ! 考えてもやんないよそんなこと! 多分これメガホンだよね!? キュウタのやつ大分無茶して……流石に助けに入ったほうがいいかな!?」
奇しくも叫び声がはっきり聞こえた二人は、知り合いの声故、一度振り向く。その足元にはそれぞれ魔物のドロップアイテムが転がっていた。




