30話 サッカーにあるまじきカウンターとその末路
青春のクソページ対マッスルリアルは11対10とリードする形に。幸いなことに、防御力の高いゴーレムは一体たりとも討伐されることはなかった。おそらく俺たちがゴールを狙っていたからというのもあるだろう。それにより焦ったオーガは俺たちを追うことを優先してしまった。それ自体は別に悪いことではない。俺ら目線もし何かしらの状況でヘマをして足止めを食らっていれば後続に追いつかれていただろうし、その場合確実にもうワンゴール決められていただろう。とはいえ、そもそもの話俺らのこの作戦は一度ボールが敵に渡ってしまえば確実に一点入れられる諸刃の剣だ。ディフェンスが一人としていないからな。だからもし俺たちが相手の立場なら俺とメタクラックの二人でゴーレムをゴールを入れられるまでの間にゴーレムを二体以上倒し、念の為ヘルズをディフェンスに向かわせる。そうすれば点数差は小さくなるも11対12という形でリードは保てていたはずだ。
当然それだけの知能が向こうにあれば、の話で実際は先の脳筋戦法を見る限り向こうの知能はそこまで高くない。行ってしまえば大体中学生レベル。不測の事態に限れば対応策も限られてくると言ったところだろう。
「でもメタクラック、この後どうする? また同じ方法でやってみるか?」
「んー……いや、流石に対策はされると思うよ。今のは勢いでどうにかしたけど、おそらく次はそうはいかない」
「やっぱそう思うか」
”奇策”というのは普通の策ではない、ということ。でもそれは所謂人が普通使わない策という意味で、もっと言い換えれば対策されればそこまで強くない策ということ。今回は敵の対策が浅いことで完全にハマったが、次からはそうはいかないだろう。
「もう一度やってみればいいよ。失敗すれば作戦を練り直せばいい」
「それもそうか。次の作戦、考えてる奴いるか?」
「はいはい! じゃあ俺一個あるからそれやろう! 結構自信あるよ!」
「俺も一応一個は思いついてる。ヘルズは?」
「私も同様。だけど私のは今じゃないかな。成功するしないに関わらず苦肉の策って感じ」
苦肉の策か……ならたしかに今じゃないな。リードしてる状況だし。
今あるのは俺とメタクラックの二人の案だ。どっちがいい案か少し話し合う必要がある。
「なんにせよ、これはヘルズの作戦が通用しなかった時の尻拭いみたいなもんだ。あんまり気合い入れ込みすぎると不測の事態に対応できなくなるぞ」
「大丈夫だよ。そこは俺が何とかする。とりあえず、色々試してみよう」
現在は俺たちがリードしている状況だ。なら、慌てずにできることできないことを検証するってのもありかもしれない。
『ふむ。これで11対10で青春のクソページがリードしているという状況ですか。中々いい空気ですね』
『ゴウ、ゴウゴウ』
『ええ、もちろん、青春のクソページにとってです。オーガ総長からしてみればあまり状況はいいとは言えないでしょう。とはいえ、オーガ団長がいますから青春のクソページもそう一筋縄ではいかないはずです』
『ゴウ、ガウ』
『前半は残り25分。まだかなり時間があります。点差も1点差ですし、ほとんどないに等しいと言っても過言ではありません。ここからどんな展開になるのか、見ものですね』
さあ試合再開。
持ち点がある分、というか何となくこのダンジョンの雰囲気が知れた分どうやって動けばいいのかある程度つかめてきたこの状況。検証をする余裕もあるということで俺たちは一旦ゴールを決めるという認識を軽んじることにした。もちろん、ゴールは決めに行くが、まだ後半もあるからな。色々と細かな実験を行うなら今しかないという判断だ。
試合開始の笛が鳴ると、例にもれなくメタクラックからボールが渡される。さて、作戦はさっきと同じく10人で突貫作戦だ。これは敵の対策力を測ることも目的だが、もし同じ策が対応するならもう1点入れてしまおうという算段もある。というわけで最初同様一気に駆け出す。と、
「……!! こいつら」
立ち止まった。突っ切ろうと思ったが、そうもいかなくなった。
「囲まれたね。まあ、そりゃそうか」
「敵も思ったより馬鹿じゃない。ってことだよ。ちょっと面倒だ」
試合開始と同時にオーガたちによって俺たちは周囲を囲まれる。ヘルズの作戦において最も面倒な対応策。それがこの四方八方を囲む作戦だ。何故ならヘルズの作戦はボール管理とゴーレムの拘束で成り立っているのだから。その前者であるボール管理はボールが一つしかない以上守れるのは一人だけとなる。今の状況で言うと俺だな。したがって囲まれたとき俺以外が袋叩きにされ、ボールを取られてバットエンド……と、そうなるわけだ。
「予想通りではあるが……思ったよりも圧すげぇな。どうする二人とも」
二人を横目で見る。
「どうするも何も……こういう時は一択だよ。俺にパスしてくれ、浮かせる感じで」
「了解」
いくつか対応策を行われたときの対処法は考えていたが、どんな方法が最適なのか俺には判断が難しい。というわけで投げかけた問いだったが即答してくれたメタクラックが渡せというのでパスをする。浮かせる感じとのご要望なので、足裏で引き寄せてつま先で浮かせる所謂トーリフトで渡した。すると次の瞬間、メタクラックは思いっきり足を上げ、そのまま正面へと振り抜いた。
「こういう時はね、思いっきりぶっけっとけば良いんだよ!!!」
ボールはものすごい高さで相手コートへと飛んでいく。というかコートのはるか先まで飛んでいった。常人なら感心するレベルの飛距離だ。まあ今はレベルがあるからそこまですごいってわけじゃないが。ただ、コートを出たとこで相手のゴールキックとなり、その代わり俺たちは無敵時間を得ることに。
『うわぁ、卑怯者ですねぇ三人とも。そういう時は「何だと!?」って顔して素直に一点決められるのがオチじゃないですか』
「んなベタな展開俺が許すわけないでしょ。そもそも、この作戦が対策されるのなんて予想できたことだ。なら対策に対処する策も用意するのが当たり前だよね」
「当初の目的じゃコート外まで飛ばす予定ではなかったけどな」
「なんであそこまで飛ばしたの? 筋力自慢?」
「ちげぇよ。ぶっ飛ばしたほうがゴーレムも減らずに済むでしょ!? ほら、さっさと解散! ゴールキックはすぐに始まるよ! 作戦は白紙だ。一旦ボールを取る!」
了解。と返事をして俺たちは定位置に戻る。もともと俺たちが考えていた作戦はカウンター型の作戦だったのでメタクラックも俺も大した作戦を立てていない。一先ずはボールを取ってそこからまた何かしらのアクションを起こす。
ゴールキーパーが地面にボールを蹴ると勢いよくこちらに蹴り飛ばしてきた。こちらと言っても俺の方じゃない。着地点は……
「おっ、こっち来た」
紅の長髪をした女。ヘルズだ。ボールは見事に彼女の方へと飛んでいき、そしてこっちボールへ。と思われたが……
「ガァアアアア!!!」
「え? っとぉ!? っぶな!? なに!? 暴力的すぎない!?」
着地点にて。待ち構えるヘルズに向かってここぞとばかりに大剣を振りかざすオーガはまさに倫理観も道徳の心も一切感じられない。ヘルズが転びながら咄嗟に回避すると、ボールはオーガのもとへ。オーガは右を軽く一瞥し、受け取ったボールをそのままドリブルして直線状に走ってきた。
「いいトラップ……」
「言ってる場合じゃねえ! 立ってボールに走れ!!」
「言われなくとも!!」
ヘルズが立ち上がり走って行く。とその時、ヘルズに向かってオーガたちが一斉に集結していくのも同時に目に入る。後続だ。オーガ団長を先頭に団員達も前線を上げている。それもディフェンダーも含め10人全員。
「キュウタ、もっと走れ! 間に合わないぞ!」
「わかってる、分かってるが……」
何か違和感がある。ディフェンダー含め全員がこちらに走ってくるのはまだわかる。だってそもそも俺たちが全員後手に回ってんだからそりゃ前線も上がる。だからやつらは普通のサッカーをしていると言っていいだろう。背後に目線を送る。魔物が全員左寄りに走っている。見たことのある作戦だ。ってかさっき俺たちはこの作戦をやっていた。
「そうか、メタクラック! こいつら多分……」
「ああ、俺も今気づいた。あいつら俺たちとおんなじことするつもりだ!」
その予想通り、ゴーレムがやつらのボールを奪おうとすると、ボールを持ったオーガの背後からもう一体オーガが走ってきて、ゴーレムに向かってタックルをかました。その巨体に似合わない速度と柔軟性、反射神経、それにゴーレムが対応など出来る筈もなく簡単に絡め取られる。
「アメフトかよッ。あれじゃ止まらない」
メタクラックが走りながら言う。
「どうするキュウタ!? 一回囲んでみる!?」
「いや無理だろあれ! もうかなりスピード乗ってるし、囲んでも引き離される! 脇締めるぞ!」
「……! なるほど、その発想はなかった」
普通サッカーをしてるならまず最初に思い浮かびそうなもんだが、しかしそうは言ってもアメフトをしている重量肉弾列車と化したオーガ車両は最早槍とかそう言う次元ではなく、ロケランのような破壊力と共にゴーレムたちを破壊している。そのまま自爆してくれたら御の字だが、そこはロケランではなくロケットの要領。一体一体がゴーレムよりも強いくせに容赦なく突っ走ってくるし、ゴーレムを弾くのではなく拘束してくるってのが何とも腹立たしい。まだ弾かれるだけならゴーレムも再びフォローに入ってくれる可能性があるし俺たちも何かと時間稼ぎに意味がありそうだが、それもさせてくれないわけだからな。ただ、幸いなことにやつらは10人全員で肉弾列車をしているわけではなく、速攻ということもあって追いつけなかったのだろう4体を置いてけぼりにした6人ほどでツッコんできているのでまだギリギリやりようはある。その上ゴーレムが二体はがし、残り4体。それでも相当な速さを保っているせいでそうすぐゴール前まで来てしまう。
「ゴーレム! 出来るだけ時間を稼ぎつつやつらの皮を剥がせ!!」
メタクラックの命令通り、ゴーレムが次々とオーガのもとへと走る。付け加えるなら、オーガ一体につき2体ではどうかという思惑のもとメタクラックが追加命令したのだが、それでもゴーレムに攻撃性がないからか、あるいは体重がないからか、一体のオーガに抱きしめられる形でいとも簡単に持ってかれた。
くそっ、2体でも無理なのか!?ずっと思ってたけどこっちと力の差あるのおかしくね!?
今更ながらオーガとゴーレムで能力値が全く違うのは理不尽が過ぎないだろうか。と、悪態をついたところで意味はないのはわかっているが嘆かずにはいられない。普通こういうのってnpcの能力はどちらも同じだろう。その上で参加者であるプレイヤーが敵のnpcの実力を上回って勝つとかじゃないのか。はたまたこちらにとって有利な条件で戦えるようハンデらしきものがいくつかあっていいんじゃないかと思うのだが、それは烏滸がましいだろうか。これがもしゲームなら俺とてそこまで思うことはないが、現実である分、不公平は身にしみて感じてしまう。ともあれ、ゴーレムのお陰でオークたちは残り一体となった。その代わり、ゴール目の前まで来てしまったのはもう許容範囲というしかない。
こちらのゴーレムはあと2体。だが、それを向かわせてどうこうなるかと言われれば不明だ。特に、向こうのオーガ団長だか班長だか知らないがあいつは普通の個体より能力値が一段高い。今の俺一人で勝てるかどうかってくらいの実力だ。となれば、ゴーレムなんざ向かわせたところで意味がない可能性がある。
「来るぞ!! 全員構えろ!!」
そこで、俺は奴の目の前で壁を作った。これはサッカーだ。やつらの目的は、ゴールを決めること。ならゴーレムが吹き飛ばされようとゴールさえ守ればいい。ただ守ると言っても完璧に退路を塞ぐのは不可能。だから、俺たちはゴール左をわずかに開けつつ右を閉める!
オーガは近くまでくるとシュートを放った。一番最初に見た通り丸太のように太い足から繰り出されるそれはまさに触れれば大怪我でもしそうなほどの速度をもってこちらへと迫ってくる。軌道は予想通り左。ゴールキーパーの正面。キーパーは両手でそのボールを捕らえる。バンッというボールから出るにしてはあまりにも大きく、驚異的な威力を持っていたのだろう音が聞こえて、ボールは目の前にポトンと落ちた。ゴール下の白線から数センチ手前。キーパーはその威力にゴール線の中に倒れ込む。
吹き飛んだってわけじゃないが、でも後退してしまうレベル。一体どんな威力があればボールを完全に捉えたキーパーが押し込まれてしまうのか。サッカーの常識をそこまで知らない俺も、これが異常であることは何となく分かる。ともあれーー、
「あ、あっぶねぇ!! ギリギリセーフ!!」
「正攻法で止めてこれか。それもこの人数で壁作ってようやく止まったって感じ」
別にゴーレムにぶつけて威力を弱めようなんてことはしていない。ただ決めにくいようにこれでもかとボールの射線を切ったのにも拘らずこの窮地。もし俺たちが壁を作っていなかったらボールの速度にキーパーが追い付けずに入れられていただろう。それだけの確信があるほどにとんでもないシュートだった。ゴールキーパーはすぐにボールを掴み立ち上がる。
「ともあれ止まったのはラッキーだったな。でも、ボールを渡すとかなりヤバいってのは今ので十分分かった。できればこっちが常にボールを支配したい」
「特にボールを無理やり取れないってのが大きいね。実質ボールの持ち主は無敵タイムだ。あの巨体で突っ込んでこられたらファウルなしじゃ止められない。いや、ファウルしても止められるかどうか……あんまり試したくはないかな」
オーガの肉体は生物的に強い。そんな奴がボールを持ったら突っ込んでくるだけで脅威だ。せめて三人ゴーレムを向かわせるか、あるいは俺とメタクラック、ヘルズの内二人がいないと止められそうにない。
「ってかヘルズはどこ行ったんだよ? 途中から見えなくなったぞ」
「ああ、言われてみればたしかに。俺も最初の方しか見てなかったし……」
汗を拭うメタクラックと共に周囲を見渡す。目の前にはまるで戦時中なのかと思えるほどに乱雑に倒れるゴーレムとオーガの群れが見える。全部ワンゴールのために作られた軌跡だ。とてもじゃないがサッカーで見る光景とは思えない。とはいえ、問題はヘルズだ。いつもなら毒ずく彼女の姿を探す。
……いた。
サッカーコートの、俺が見失ったあたりに、彼女は横たわっていた。静かに、眠るように。
疲れて寝ているだけか……と、一瞬そう思ったが、違う。
「え……ヘルズ?」
彼女は血まみれになって、地面に倒れていた。




