29話 ヘルズの奇策、あるいはただの鬼畜
試合が再開されるまでのわずかな間に現在の状況を整理しておく。まず得点は10対1。その差は9。ワンゴールが10点で討伐が1点によりこのような結果となった。俺たちが一発逆転を狙うならやるべきことは一つ、ゴールを決めること。そうすれば10対11となり、逆転することが出来る。
ちなみに、さっき俺たちが討伐した相手選手は新たにリポップし投入された。このことから何体倒しても追加の補充が行われるため人数不利という概念はなく、こちらのゴーレムもまたいくらでも追加が行われるということだ。まあ、そうは言っても何体も倒すとなればそれなりに労力が必要になるし、コスパも悪い。やはり討伐は二の次と考えるのがいいだろう。
ともあれ、そんな俺たちが新たに作った作戦ーー否、ヘルズが即興で作った作戦はあまりにも歪で、異常である。その正体は全員フォワード。防御無視の完全攻撃特化のフォーメーションだ。俺たちの背後には7人のゴーレムが立ち尽くしている。その後ろには誰もおらず、かなり離れた場所にゴールキーパーが一人突っ立っているだけだ。
「準備はいいね二人とも。開始と同時に爆速で決めるよ」
「わかってる。ミスはしない」
「ボール管理だけはちゃんとしよう。一度取られたらゲームオーバーだ」
作戦は一度きり。この策は対応されればそこで終わりだからな。二度はない。絶対に。だからこそミスは許されないし、ボール管理も完璧にする必要がある。
審判が笛を鳴らした。メタクラックがボールを渡してくる。試合再開だ。さて、試合再開の笛は作戦開始の合図でもある。俺たちはすぐに三人同時に駆け出し、相手コートへと攻め入る。
『おーっと!? 開始早々青春のクソページが全員前に出ます! まさかそのまま一点突破するつもりでしょうか!!』
目の前には敵のオーガ。当然ながら俺たちの侵入を簡単に許すはずもなく、かと言って先ほどとは違い今度はこっちが全力で向かっていったことにより彼らは街の姿勢となり待ち構える。このまま突っ切るのは難しいだろう。やつらは壁だ。単純なフィジカルはもちろん何よりその脂肪は俺たちの数倍なんてもんじゃない。相撲取りに向かって小学生が何をしようと変わらないように、そこには絶対的な上下関係が存在する。
『ガウ……ゴウゴウ』
『ええ、このまま突っ切るのは自殺行為です。オーガの体は青春のクソページの選手とは比べ物にならないほど強靭ですから。となればできることは二つ、ボールの持ち主がうまくかわして抜き去ること。またはオーガを討伐し、前に進むこと。選手の補充には時間がかかります。その間にゴールを決めるのは十分可能と言えます』
俺たちに残された選択肢は解説のとおり。躱すか、倒すかの二択。とはいえ、前者は不可能だ。そもそも俺たちはサッカー選手でもなければサッカー経験者でもない。まともなドリブルなんてできない上、リフティングすら数回が限度の初心者の集まり。つまり選択肢は自ずと後者となる。倒す、この一択だ。もしオーガを倒せば俺たちは少しずつでも前に進める。少し時間はかかるだろうが、ゴーレム全員と俺たち三人でかかればそこまで時間はかからない。だからこその完全武装。全員で蟻んこの様に集まり強者を食らう。それが、俺たちの狙い。
「かのように見えるだろう?」
そう。一見そう見えるが、実はそうじゃない。たしかに一体一体倒せば確実に前には進めるだろう。ただそれは先ほど言った通りかなりの労力と時間がかかる。一々そんなことをしてるとボール管理もおろそかになるだろうし、結果的にこちらのゴーレムもすり減って多分点数的にはイーブンが続く。ヘルズもメタクラックも多分それはわかっている。だからこそ。
誰も予想しないからこそ、俺たちが狙うのは後者ではなく……
「メタクラック!! 今だ!! やれ!!!!」
「了、解ッ!!」
目の前に迫る敵選手を前に、メタクラックが横に走ってきたゴーレムの手を掴んだ。そして掴んだそれを思い切りやつの体めがけてぶん投げる。柔らかい感触と共に、ゴムのようにしなり投げられたゴーレムは相手の体に引っ付き、どっかの田舎にいそうな虫のごとく張り付くとその手足を十全に使ってホールドし、瞬間接着剤のごとく離れない。
『な、投げたぁああああ!!??? メタクラック選手、ゴーレムを投げつけ相手選手にくっつけた!!! オーガ団員は突然のことで身動きが取れません!』
「はっはっはー!! 甘いんだよでぶっちょ! 動けるデブはね、ちょっと身動きとりずらくしたら常人の何倍も木偶の棒になる!!」
「おうよ!! その巨体が仇となったな!」
「俺うっめー!! やり投げとか得意かも!!」
「いや、それを言うならボール投げーーって、喜ぶのは後だ!! ヘルズ、左から来てる!! ボール渡すぞ!!」
「はいよ!!!」
今後は左から一体迫ってきた。ってか一体どころじゃねえ。ゾロゾロと何体ものオーガたちがこちらに走ってきている。とりあえず俺は持っていたボールをヘルズへと渡す。俺がずっとボールを持っているのは悪手だ。何故なら、ボールというのはゴールを決める絶対の権利であるという以上に、その持ち主に不用意な真似ができないという免罪符の代わりをしてくれるのだから。
左にいるヘルズにボールが渡ったことにより、オーガの勢いが一気に収まる。攻撃できないよな。だってお前左から来てるし、攻撃しちまったらファウルになるもんな。そうなれば結果は最初と同じ。今度は俺の横にゴーレムが走ってくるのでその腕を掴み、思いっきり投げつける。近くまでやってきたオーガはそれを避けられない。最初と同様、ゴーレムはオーガにまとわりつき、完全に敵の身動きを停止させる。その繰り返し。
『なっ、なんということだ……オーガがことごとく止められている。こんな策があったのか……いや、だとしてもこれほどの……』
『ゴウ……ゴウゴウ、ゴウ』
『やっていることは単純です。まず、敵の位置を三人で把握し、敵に最も近い選手にボールを渡す。それによりボールの持ち主にはファウルという罰則に身を守られる。それを恐れたオーガは勢いを無くしどうしても防御姿勢を取らざる得なくなり、そこにゴーレムを投げつけ身動きを封じその隙に抜き去る。ルールをうまく使った精巧な策。強いて言えば、人の心は確実に捨てている残忍な策とも言えますが……いや、今回の参加者が三人であることでゴーレムという意思のない人形が補充されています。それをうまく運用しているともいえる』
『ゴウ』
『何より、ボール回しのうまさ。あの策に下手なドリブルは必要ありません。ただ、ボールを渡す順番、タイミング、それらを一括管理しているキュウタ選手のセンスには目を見張るものがあります。あの策には相当な空間把握能力と反射神経が必要でしょうからね……』
『ゴウ、ゴウ』
『!! たしかに。でもこれはオーガ団長が完全に防御姿勢を取って振り払えば!!』
繰り返し。という行為には穴がある。もし仲間が何度も同じ行為でやられていたとすれば、それを見た生物は何かしらの策を立てようとするからだ。例えば、フグを食った仲間がその毒で死ねば、それを知ったほかの魚がフグを食わないように。生物は一様に学ぶ生き物である。
「……! メタクラック! 正面のやつ両手をクロスしてる! 多分くっついた瞬間振り払って襲ってくるつもりだ!!」
「了解! じゃあプランBね!!」
ボールは現在俺が持っている。それを見てオーガは通例通り待ちの姿勢へと変わる。ただ今回は姿勢が違った。まるで投げてくるのはわかってる、だがすぐに振り払ってボールを奪うぞ!と言わんばかりに腕を交差させていた。
そうすることでもしつかまれても振りほどけるだろうし、たとえ振りほどけなくともある程度体の自由は効く。獣にしてはよく考えた方だろう。
「だから何だよって話だけどな!!」
問題は、そんな阿保な珍回答、俺たちが予想してないわけないだろって話だが。メタクラックは今度、右に走ってきたゴーレムを掴むと、そのままオーガへと投げつける。オーガは一瞬ニヤリと笑い、予想通りだと待ち構えるが、しかし次の瞬間地面にダイナミックキスをかました。馬鹿め、ガキの浅知恵が通用すると思うなよ?
「こっちはそんなパターン20個くらい予想してんだよ!! 胴体がダメなら足に投げつける!! 足がダメなら顔面に投げつける!! やりようなんざいくらでもあるわ!!!」
「おっほー!! 完璧!! やっぱ才能マンだよ俺!! これボール投げのセンスあるんじゃね!?」
「それを言うならボウリングでしょ!!」
和気藹々とした空気感になるのは俺たちのいいところだろうか。緊張なしに、うまい感じに作戦が実行できている。
『……』
その何でもありの突貫作戦に解説(実況)ゴブリンも顎が外れそうなくらい口を開いて呆気に取られる。作戦は穴だらけに見えて、かなり繊細かつハマれば確実な策だった。ボール回しによる誘導、報告、対策、投げつけ、そしてーー。
「2時の方向、今度は動いてねえ! 多分投げた瞬間何かしらのモーション取る気だ!!」
「こっちは体操座りしてるよ! 多分足も体も全部守るつもりだ!!」
「じゃあやることは一つだな!!」
「「だな!」」
右のオーガと左のオーガによる待ちの姿勢。一見どうすればいいのか混乱しそうなもんだが、この場合一つだけ重要なことを押さえておけばいい。それはやつらがゴーレムを投げつけられる前提で構えているということ。まあ、そりゃそうだよな。お仲間全員それでやられてんだから。その対策に頭を使うのはある意味当然だ。だって生物は学ぶ生き物だから(二回目)。というわけで俺たちが選択したモーションは一つ。
「あっ、お疲れ様でーす!! そのまま座っとけばぁ~?」
「頭で私たちに勝負してる時点で負けなんだよ脳筋くん!! 格下相手に労力は裂いてあげないんだからぁ!!」
「無視!! 素通りできるって強者っぽいよな!」
「「わかる!」」
フル無視である。だって相手がおびえて待ってんだもん。対応したって時間の無駄でしょ。まあ、とはいえすぐに追ってきそうだから立ってた奴にゴーレム一体向かわせてそこは時間稼ぎしてもらうけど。とまあ、そんな感じで走ること数十秒か数分か。時間の感覚なんて数えてないからわからないが、とりあえずゴール目前へと迫った。
相手は残り三体、その奥にゴールキーパー。一応背後から抜き去ったオーガの群れが迫ってくる音が聞こえるが、もう遅い。
「目の前だ。ゴーレム!! 真ん中にツッコめ!!」
ここまで来たらもう作業。ゴーレムは命令通り真ん中のオーガに向けて走った。オーガはそれに対応、その瞬間普通に抜き去る。もうやつらはこちらの手中だ。何すればいいのかわからなくなって普通に走らせるだけでも簡単に掴まっちまう。その調子で残り二体も使い物にならず放心状態。あとはゴールキーパーのみ。
「ヘルズ! メタクラック、もっと横に広がれ!!」
そう言って俺がパスをする。と思いきや、混乱したキーパーを前に思いっきりシュートをかます。誰が美味しいとこ誰かに譲るかよ。せっかくここまでデカいチャンス貰ったんだ、俺が決めず誰が決める!
ボールはまるで弾丸のごとく直線上に発射され、正面左へと飛んでいく。そしてそれはキーパーに捉えられることなく、ゴールネットを大きく揺らした。
『ゴ、ゴーーーール!!! 青春のクソページ!! キュウタ選手のシュートがゴールネットに突き刺さりました!!! 10本の槍は残り三本となりましたが、されど確実に敵を穿ち、ゴールに届き得ました!! これにより青春のクソページの得点は11点、逆転となります!!』
「がああああ!! くっそ! 俺がいれたかったのに!! 最後踊らされた!!」
「ああいうのは立役者の私に花を持たせるのが普通でしょうが!! 何でキュウタが決めんのよ!!」
「いやいや、苦労人が一番報われるべきでしょうよ。この快感でチャラだぜ!」
「「クッソムカつく!!」」
ふふふ。この快感やいなや。誰かに譲るなんてもってのほかだ。やっぱサッカーは最高だな!!
攻撃は最大の防御である。受け身は基本負けだからやめた方がいいよ(ヘルズ論)
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