28話 ナーフとファウル定義
「まあ、決められたのはしょうがないね。予想の範疇だよ」
メタクラックが腰に手を当てつつそう言った。俺もこの状況は予想していたので特に驚きもないし落ち着いている。まあ当然か。初めてのダンジョンだし、人が今まで数えきれないほど死んでいるのはテレビでやっている。こうした危機的状況……命を落とすようなものではないが試合に後れを取るのは誰だって懸念することだ。とはいえ、予想はそれが起きた時にすぐに立ち直るためにする行為でもある。今は次の作戦について考えるのが先だろう。
「もともと、何が起こるか分からないってことで作戦はほぼ立てずに参加しているからね。こうなるのは至極自然なことだ。でもおかげでいくつか分かったこともある。一旦整理しようか」
試合が始まるまで少し時間がある。その間にメタクラックが分かったことと今後の出方について話すようだ。
「まず一つ目だけど、うちのゴーレムは向こうのオーガ団員に対し防御力は強いが攻撃力は劣っている。だから討伐される可能性は多分低い。けど、攻撃力で負けてるから抜けられる可能性が十分ある」
これはさっきのワンゴールで決められたことにより分かったことだ。俺たちがフォローに入っている間、オーガは5体ほど前線を上げゴールを決め切った。こっちは俺たち抜いてゴーレム8体。それに対し5体のオーガにゴールを決められたわけだ。もちろん俺たちが口を開かなかったことで連携が取れなかったというのは理由として挙げられるが、それにしたってゴールを決めるまでが随分と早かった。このことからうちのゴーレムはオーガよりも弱いと考えるのが自然だろう。ただし、何体かは攻撃されているにもかかわらずゴーレムが死ぬことはなくピンピンしているという事実から防御力はそこそこ高いことがうかがえる。特に自然治癒の効果もあるようで怪我した部分がだんだん回復しているのが見える。討伐されにくいという点では良い点だと言えるだろう。
「もう一つはゴーレムの攻撃性だ。あいつらは正直パス回しというより邪魔する敵をひねりつぶすことを優先して攻めてきているように思う。実際そのせいで俺とヘルズは後れを取った。その隙を狙われて攻め込まれたって感じだしね」
これもまたさっきの事実をもとに導き出した答え。俺たちがゴールを決められた理由は紛れもなく初動の差だ。俺が一旦パスを回そうか考え始めた瞬間からやつらはまるで最初からそうするべきだと言わんばかりに殴りかかってきた。おそらくそれがやつらの大元の作戦であり、これは試合終了までほとんど変わらないと見える。でもこれは最初から身構えておけば対応できることだし、そこまで気にすることでもないだろう。当然、それ用の作戦をこちらは準備する必要があるだろうが。
「そこに関しては私に良い作戦がある。任せてくれないかな」
「え、いやそれ今から言おうと思ったんだけど」
「多分メタクラックくんは前線にあげるゴーレムの数を増やそうって作戦を考えてるでしょ。そこは私もそう思う。ただそれだけじゃゴールを決めるまでは至らないと思うんだよね。あくまで延命措置って言うか……多分時間経過で適応される」
「……それよりいい作戦があるってこと?」
「うん。少なくともワンゴールは決められるはずだ。そのあとは違う作戦を立てる必要があるけど」
「十分だ。じゃあそれで行こう。キュウタもオッケー?」
「いいよ全然。俺じゃそれらしい作戦思いつかねえし」
メタクラックの作戦は何となくわかる。多分今回の現状からゴーレムのディフェンス力が敵の攻撃力を下回っていることを考慮してディフェンスから数体俺たちと同じラインに上げて連携力を上げようって魂胆だろう。そうすることで誰かがオーガに対応したとしてもパス回しで交わして抜くことが出来る。何も絶対戦わなきゃいけないってわけじゃない。俺たちのクエストは試合に勝つことだからな。討伐は二の次でいいわけだ。
「じゃあ作戦は一旦任せるって感じで、情報共有に話を戻すよ。俺から伝えたいことはあと二つ。一つが俺たちの体に起こってる身体異常について。もう一つがファウルの定義についてだ」
「え、分かったの? ファウルの定義」
「どっちも気になるな。前者も違和感感じてたし、後者も重要だ」
今の一瞬で本当にその二つが分かったのかは疑わしいが。とりあえず耳を傾ける。
「時間がないから手短に話す。まず前者の身体異常についてだけど、多分これはレベルが下がってるね。いや、というより統一されてるって感じかな? ステータスを開けばわかるんだけど多分10くらいになってる」
メタクラックがステータス、と言ってステータスを開くと、中身を見てやはりと言わんばかりに頷いた。俺たちもステータスを開いて詳しく見てみる。するとレベルの部分に南京錠の絵文字が書かれ、横に10の数値が書かれていた。本来は12レべであることを考えると下方修正されているのがよくわかる。レベルが一つ違うだけでもかなり感覚がズレるからな。二人はたしか13くらいだし戦えば明らかな違和感を感じるはずだ。
「本当だ。道理で動きが鈍いわけだ」
「普段のイメージとだいぶ違ったからな。俺たち三人のレベルに合わせて下げてるって感じか」
「いや、多分もともとこういうものなんだと思うよ。レベルが90くらいになると最早サッカーなんて出来なさそうだし……というか超次元サッカーみたいになってここら一帯吹き飛ばせそうだしね。これは当然の処置だ」
なるほど。言われればたしかに。俺たちはあくまでサッカーをして試合に勝つ必要がある。であれば、レベルの統一はある意味何よりも必須事項と言えるだろう。
「それより、一番の問題はもう一つのファウルについてだ。これは推測も兼ねてになるんだけど、多分ファウルは特定の人に対してのみ適応されるってのが正解だ」
「というと、前にヘルズが言ってた三つ目の推測か?」
「理由は?」
「単純だよ。試合開始直後、俺とヘルズはすぐにオーガに強襲されたのに対し、キュウタにはまったくその様子がなかった。つまりキュウタには魔物が攻撃するという選択肢から外されていたことがうかがえる。そこから逆算すると、キュウターーもといボールをキープしている人に対しては攻撃することが許されていない。つまりファウルを取られるから攻撃できないんだ」
「いや、でも俺は最終的に攻撃されたし」
「ボール回してからね。パスした瞬間あいつら突ってこなかった?」
「!!」
来た!
たしかにパスを回した瞬間あいつらは俺に向かって走ってきた。何体かは俺を無視して素通りしたがその中の一体が剣を振りかざしてきた。あれはてっきり俺がボールを持っていたから慎重に動いているだけかと思っていたが、実際は俺がボールを手放したことによりファウルを取られることがなくなったから攻撃を仕掛けてきたってことだったのか!
「そう言うことね。じゃあボールの持ち主と、恐らく審判は討伐対象にならないのか。ようやく腑に落ちたよ」
「あくまで推測だよ。間違っている可能性はある」
「いや、そもそも論敵の作戦が”相手を攻撃しながら進軍する”なら中央の心臓部であるキュウタくんを真っ先に狙わないはずがない。彼を倒すことが出来れば私らは簡単に囲まれちゃうからね。それこそさっきだってキュウタくんのフォローなしじゃ私もメタクラックくんも軽傷を負っていた可能性がある。と考えれば、メタクラックくんの推測は間違いないと言っていいと思うよ」
「だって。よかったねメタクラック」
「ああ。間違ってないことを祈るよ」
まだ確かめたわけじゃないから実際のところは分からないが。とはいえ、俺も二人の意見を聞けばもうそれしか考えられないというのが正直な感想だ。あと強いて言えば相手のゴールキーパーがどっちなのかってのも気になる点ではある。もし敵のゴールキーパーが討伐対象になるなら一度倒して確実にゴールするって手もあるからな。そこは検証するべきかもしれない。
『あの~そろそろ戻れまーすか? あまり長居されると棄権とみなしますよ?』
「はいはい、ご忠告どうも。とりあえず今言ったのが俺の分かった情報だ。その上でヘルズ、お前はゴールを決められるんだな?」
「うん。私に二言はないよ。寧ろありがたい情報だ。作戦が刺さりやすくなった」
ヘルズはそう言うと悪趣味な笑顔を作る。この顔は何かとんでもない悪知恵を働かせている時の顔だ。一体どんな作戦を考えているのやら。味方ながらちょっと怖いね。
実況解説。
『さて、現在チームマッスルリアルが10対1とリードしているわけが、この盤面どう見ますかオーガ総長?』
『ゴウ、ゴウゴウ』
『なるほど、リードはされているが、特に悪い状況ではないと。何故そう思うのです?』
『ゴウ! ゴウゴウ! ゴウ!』
「ほう! 言われてみればたしかにそうですね! 青春のクソページは今回初めてこのダンジョンに参加しました。となればノウハウを知らない彼らがこのような流れになるも仕方ないと言うほかありません。ただ褒めるべきは切り替えの早さです。ゴールを決められそうだと判断すると瞬時に作戦を切り替えた。最初は自分たちがゴールを決める算段だったのでしょうがそこから情報収集に移したわけです。ゴールを捨てるという判断の速さ、そしてその中でも最善手を取らんと仲間のフォローに入りすぐに情報共有を始めるという冷静さ。これには私も感心せざるおえません、とオーガ総長は言っているわけですねぇ~』
『ゴウ!』
『ええ、そうですね。褒めるべき点は多いものの、青春のクソページがゴールを決められたのは紛れもない事実。ここからどういう対応を見せるのか。そこが今回の試合において肝になります』
情報収集は次の作戦の糧にするために存在する。だからこそのトライ&エラー。今回は情報収集という一点に集中させたため不利になったが、状況的には問題ないと捉えられる。
『さて、話し合いも終わり青春のクソページはそれぞれ先ほどの配置についていきます。少し長々と話していましたが初めてのダンジョン攻略ということでこのくらいは許容してあげましょうーーーーーって、ん? んん~~!!?? な、なんだあれは~~~!!?? どういうことだぁ~~!!??』
実況ゴブリンは青春のクソページのフォーメーションを見て思わず立ち上がる。
『……ゴウ?』
『気でも狂ったのでしょうか……そう言わざるおえません! なぜ彼らは、こんなフォーメーションを組んでいるのでしょうか? たしかにフォーメーションの変更は試合中いつでも可能ですが……いやしかし、だとしてもこれは……』
実況解説が見たものは、あまりにも異常で、かつ見たことのないフォーメーションだった。いや、そもそもこれはフォーメーションと言えるのか。それすら怪しい。そう思えるほど、ハチャメチャな配置を組んでいた。そんな中、当人であるヘルズが腰に手を当てながら偉そうに胸を突き出す。
「どうせ人数有利でゴール決められるならさぁ……もうディフェンダーとかいらないよねぇ!!」
それはあまりにも無鉄砲で、しかし、極論の極致を極めた戦術である……。
「流石に思い切りよすぎて怖いな。これ本当に成功すんのか?」
「やるしかない。まあ、トライ&エラーってやつだね。実験実験」
それに対し、軽く腕を伸ばしながら体をほぐすキュウタと、相手コートを静かに見据えるメタクラック。
「何を言うか二人とも! エラーなんて私が起こさせないよ! レッツワンゴール!!」
「テンション高ぇなこいつ」
「俺たちを足に使えるから嬉しいんじゃない? ま、なんにせよ成功はさせるさ」
「おう! そうだな!」
気合十分。
そんな気迫を感じる青春のクソページチームだが。実況ゴブリンはその意図を全くと言っていいほど理解できない。
『全員フォワード……ディフェンスなし……? 超攻撃特化の10人の槍』
青春のクソページ10名。その全員が前線へと狩り出ていたのだ。




