2話 思う立ったが吉日、日延は凶日
『超常現象……ですか』
『ええ、今世界で起きていることはまさにそう言わざるを得ません。中には今起きているこの現象を宇宙人が起こしたある種の侵略ではないかとも言われているそうです。どう思いますか、神崎さん』
『そうですね。普段なら笑い飛ばしていましたが、今はそんな気も置きません。実際私はこの現象を、この世界にいないーー所謂宇宙人や妖怪、はたまた神様と言われるような超人的な技術や力を持った生物が起こしたものだと思うんですよね。寧ろそうとしか考えられません』
『やはりそうですか。なんにしても専門家に聞いて答えが分かるということでもなさそうですからね。そう言った言葉で片づけるのも当然かと。ーーあ、今現地で取材する原アナウンサーに中継が繋がったようです。原アナウンサー!?」
『はい、こちらはですね。現在ーー』
っと、映し出されるのは東京の新宿だ。左上にliveと書いてある通り映っているのは現在の状況である。街には逃げ遅れたと思われる人達が大勢いるようで化け物たちに追われているのが見える。他にも巨大な生物が建物を歩いていたり、その拍子に電柱が折れ、道路が隆起し、ビルがプテラノドンのような化物の巣になっていたりとまさに阿鼻叫喚。しっちゃかめっちゃかの魑魅魍魎と化している。というかこれテレビで映していいの?人とか死んでる気がするんだけど。
「まるでゲームのバグが重複したみたいだね。ほら、増殖バグみたいな」
人の不幸は蜜の味というが、流石に人の死はゲロの味である。メタクラックは当然の様に食パンにジャムを乗っけ口に頬張っているが、(両方俺が俺のために買ったもの)それがかえって俺の心も落ち着いてきた。
「宇宙人ねぇ……バカみたいな空論並べる暇あるなら帰ってトイレにでも隠れてる方がよっぽどこの世界のためじゃないかな!」
「それはそう。人の不安を煽っては欲しくないよね」
二人の言うことは尤もである。この世界が変わったのは誰の目にも明らかだ。別に今更どうしてこんな世界になったのか、なんて理由を聞いたところで、じゃあ俺たちが解決しますねなんてなるわけがないし、そもそもそんなことに気を使っている暇なんてない。今大事なのはズバリこれからどうするべきなのか、だ。
「というか、さっきから思ってたけどよく二人とも朝食食えるな。こんな呑気にして大丈夫なのか?」
もともとメタクラックと俺は学校である。時間は8時半からなので今から走れば間に合う時間だ。当然、外は危険なので行くわけないんだが。対してヘルズも仕事がある。こいつはモデルなので朝から仕事に出る手筈だったのだ。こちらも当然キャンセルにはなるだろうが。メタクラックは何を言ってるんだと言わんばかりに肩をすくめた。
「焦っても仕方ないからね。ほら、急がば回れとか働かざるもの食うべからずとか腹が減っては戦は出来ぬとかいうでしょ。まずは食事からだ。あ、ちなみにこれキュウタのなのは知ってるから一々言わなくていいよ。いつか借りは返す」
「以下同文」
「ず、図太いなお前ら! せめて若干の謝意は残せ!」
俺とて鬼ではない。たかだか一食二食でとやかく言うつもりはないし、そもそもこんな世界で食料を取って来いなんて鬼教師も青ざめるようなことを口にするつもりはない。
でもなぁ、流石にもうちょっと申し訳なさそうに食ってほしいよね。せめて許可取るとかさ。これが仲良くなりすぎて礼儀のれの字もなくなった俺たちの絆と思うと、複雑な気分だ。
食事は俺も三人同様食パンを食った。最近は米が主流だったからいつもよりうまい気がした。農家に感謝だ。あとパンを作ってくれた工場の人。
「さて、問題はこれからどうするかだね。誰か意見ある人とかいる?」
食事後、リビングに集まって俺たちは今後の行動について考えることにした。俺の家は2LDKなのでリビングが二つある。そっちに昔買ったホワイトボードがあるってことでそれを押し入れから数年ぶりに引っ張り出してきた。
カーテンは閉めている。外にいる化物が俺たちの存在に気づくと襲ってこないとも限らないので出来るだけ気配は最小限に。もちろん同じ理由で窓や玄関、勝手口など出入り口は完全に封鎖した。鍵をかけること然り、重い棚やクローゼット置くこと然りーーーあ、でもクローゼットはヘルズが今後使うかもって言って使ってない冷蔵庫にしたんだったか。まあそれはいいや。とにかく安全確保はばっちりってことで。
「ちょっといい?」
ヘルズが手を挙げた。
「どうぞ」
ホワイトボードの横に立つメタクラックが指さし棒で当てる。
「なんでメタクラックくんが仕切ってるのかな。まるで私が君より下みたいじゃん」
「え? いや別にそんなつもりないけど。嫌なら変わるよ。俺仕切りたくないもん、面倒くさいし」
「私も嫌だよ。ただ私はこの二人より上だってことを言いたかったんだ」
「失せろクソクレーマーが!!」
「引っ込んでろ銭ゲバが!!」
「冗談だよ。続けて」
一体何がしたいのか。プライドだけは一丁前なヘルズには俺もメタクラックにもツッコまずにはいられない。たしかに今の様子を見るにリーダーはメタクラックに見える。俺もヘルズも隣合わせでソファに座ってるし、先生的な立ち位置にメタクラックが座ってるからな。
でもそんなことはどうでもいい。俺は他人の意見に適当に自分の意見を介入させる楽な仕事をしたいし、ヘルズも多分そう思っているからだ。だからこそこいつの横やりには聞いて呆れる。
「まずは外にいる敵をどうにかするのが先じゃないか? あれが居たら逃げるも何もないだろ」
茶番なしに、最初にやるべきことだ。これからのことを考えると、やっぱり最初は食料がどうなるのかが一番気になる。よくあるだろ、コンビニとかで何人かの人が自分の食料だ!て、争うやつ。そう言うのが一番面倒だ。だからまずは食料問題、ひいてはそのために化け物をどうにかするのが先ではないか。
「どうにかってどうするの?」
「そりゃ倒すんだよ。それ以外ないだろ?」
「どうやって」
「拳で」
「ひょろひょろの高校生が何言ってるのか。せめて武器持てよ妄想厨」
「なにをー!? 俺だって鍛えてる!」
「どこを?」
「ゆびだよ!」
「どうやって?」
「ゲームで」
「はい、お疲れさん」
まるで俺のあっさい思想を露見させるための誘導尋問でもされたかのような流れるキャッチボールに、一度立ち上がった腰と怒りをソファに下ろす。言われてみれば今の俺は骨と皮だけの痩躯だ。何が出来ると言われればゲームしかできない。フィットネス系のゲームでも触っておけば体も柔らかかっただろうが、そう言う健康系のゲームには何分興味がなかったからな。現実とゲームは最低限分けましょうってことで。
「べつに戦うって選択肢は悪くないんじゃない?」
っと、落ち込む俺を励ましているわけではないだろうがヘルズが足を組みながら言う。
「だからどうやって戦うんだよ」
当然の疑問だ。
ヘルズは不意に俺と目を合わせた。
「たしかキュウタの父親は建設関係の仕事をしてたよね」
「ああ、それがどした?」
「ならあるんじゃない? 戦うための武器がさ」
「「!!」」
……言われて気づく、とはいやはや恥ずかしい限りだが。たしかに、うちは父親が建設業に身を置いているため、武器になりそうなものは家にある。俺も父さんがどういう仕事をしているのか具体的な内容は耳にしたことはないが、玄関の裏口には父さんが仕事で使うものや一旦家に置いておこうということで部品や会社の貸し出し品が大量にあるのだ。中には威力だけはやばそうな赤いハンマー(血ではなく赤い塗料と思われる)や地元のヤンキーがヒャッハー!と言いながら殴るために使いそうな鉄パイプもある。それらを使えば少しは役に立つだろう。二人が「どうなんだ」と言わんばかりにこっちを見てくるので頷いておく。
「よし、そう言うことならやることは決定だ。俺含め三人とも役割を与えるからそれぞれ役割分担しようか」
武器を集めるのが俺の役割として、残り二つは何なのか。そう言う細かいことを考えるのは面倒なので後で考えるとして、とりあえず俺は戦うための武器を集めるため勝手口から外に出ることにした。流石に勝手口を空けたら目の前に化け物が居ました、なんて状況はごめん被りたいが……うん、やめよう。こういうのはフラグっていうんだ。立つ気は合っても旗は立ててはならない。何も考えず、勝手口を開けるのが重要なのだ。




