1話 崩壊世界の三者面談
「んあ? なんだこれ?」
それはある日のことだった。早朝、鳥のさえずりを機に目を覚まし、リビングのカーテンを勢いよく開けたのだが……そこには見知らぬ光景が広がっていた。
見知らぬ光景……というのも、誰もが見たことのない光景と言い換えてもいい。外にいるのは俺たちが……否、地球人が見たことのない生物が右往左往していた。
道路を歩くこん棒持ちの物騒な小人。その顔は鬼のように皺だらけで今にも襲ってきそうな顔をしている。
空中を歩くかわいらしい小動物。ただの白い兎……のように見えるそれは宙に浮き、転がるように移動している。
おまけにその背後には巨大な人間。いいや、人と思われたそれは大きさからして人ではない。背丈は3メートルくらいだろうか。世界で最も背の高い人間が2メートル後半くらいであることは何となく知っているが、それを優に超える竹持ちのデブ巨人が彷徨うように歩いている。
暫くそんな光景を目にして目をこすった。どうやら今見ている景色は夢ではないようで、一向に冷める様子も、寧ろ目が覚めていくのが分かった。
「なるほど現実。これ夢の類じゃないファンタジーかよ……」
困惑するのは当然として、一瞬でそれを受け入れられたのは俺特有のゲーム脳ありきか否か。ともあれ、今見ているこれがいつも見るは穏やかで晴れやかなルーティーンの朝とはかけ離れたものであることを理解した俺は、すぐにカーテンを閉め踵を返した。すげぇ、すげぇぞ!マジかよ!夢みたいだな!と、テンションを上げつつ階段を上がる。そして先程寝ていた二階の自分の部屋へ戻ると友人二人を叩き起こした。
「なぁお前ら! 外がすげぇことになってるぞ! 起きろ!! 損はしねぇ!」
「んあ? なんだよ、こんな朝に。まだ眠いんだけど」
「そんなこと言ってる場合じゃねえって! 外がファンタジーになってんだよ! 寝坊は命に関わるぞ!」
「言ってる意味が分からない。寝たいから寝るよ」
ぐっすりと目をつむったまま、まるでコバエでも払うかのように相手にしない友人Aことメタクラック。思えば昨日は5時くらいまでひっきりなしにゲームをしていたのでまだ眠いのも当然だろう。なにせ時間はまだ7時半。あれから2時間半しかたっていないのだ。普段なら俺もぐっすり夢でゲームしている時間帯である。
「騒がしいね二人とも。深夜テンションは深夜までって親に教えてもらわなかった?」
「ヘルズ」
ゆっくりと起き上がりながら伸びをするのは友人Bことヘルズ。彼女もまた俺たちと共に昨夜ゲームをして気絶するように寝た友人の一人だ。いつもは忙しいとかで中々会えないのだが、昨日はたまたま予定が空いたため俺の家で遊びつくした。メタクラックと同じゲーム仲間である。しめた、起きたなら彼女に説明しなければ!
「聞いてくれよ、世界が大変なことになってるぜ! よくあるローファンタジーゲームみたいだ! 魔物とか外をほっつき歩いてんだよ!」
「何それドッキリ? それともドラ○エの話? 嘘つくならもっと真実味を混ぜた言い方しなよ」
「いやマジなんだって!」
なぜ二人とも信じてくれないのか。本当にとんでもない光景が広がっているというのに。そのむず痒さに俺へと信憑性のなさと世界の信憑性のなさもあって何とも言えない気持ちになるが。ともあれ一般的に考えて今世界が超常現象めいたことが起きているのは変わらないため、それを言い訳に気持ちを抑える。
ヘルズは起きた(起こされた)拍子にそのまま顔を洗いに一階へ。俺はそれを見てすぐにメタクラックも無理やり起こした。相手は男だ、そしてゲーマー。少し考えた後、色違いのポケ○ンが出た!と耳元で叫べば跳び起きる。あ、ほら起きた。
「ど、どこ!? 色違いのポケ○モン! もしかして俺の好きなケーシィか!?」
「こっちだ! 下で見られるぞ!」
「りょうかい、すぐに行く!」
男っていう生物はどうしてこんなにも単純なのだろう。それともゲーマーだから単純なのか、あるい廃ゲーマーだか単純なのか、あるいはそのゲームが好きすぎるのか、単に馬鹿なのか。なんにせようち二つくらいは当てはまっているだろうメタクラックに同情は隠しきれない。
ともあれ、俺はメタクラックより先に一階へ降りる。一階には既にヘルズが歯磨きをしていた。それも、早朝ということもあって部屋は暗く、カーテンを開けたようだ。ここからでも見える。やはりさっきの光景は決して夢ではないと。
ヘルズはヘッドギアを外すように片手で頭を触っていた。そこにあるのは寝起きで跳ね上がった乱暴な長髪だ。それでも艶やかに光って見えるのは彼女の体質なのか女の子の特性なのか。ふとヘルズが昔「私の髪は世界中から愛されるためにあるからいつも綺麗なんだよ」と言っていたのを思い出したが、首を振った。
「ヘッドギアはしてねえよ。安心しろ」
俺とは違い、世界の変化を夢ではなくフルダイブ型MMORPGだとでも思ったであろうヘルズに言う。人は非現実的なことが起こると夢のせいか、他の何かしらの都合をつけて納得するというものがあるが、それが今現実かどうかを確かめるというよりはその時の混乱に落ち着きを求めるが故のものだと聞いたことがある(メタクラックの持論抜粋)。おそらくそれに近い処理をヘルズも行っているのだろう。彼女は不意に俺の頭をコツンッと叩いてきた。
「……え、なに?」
「叩いた感触はあり……か。握力もあるし、キュウタの声も聞こえる。どうやらゲーム関係でもドッキリでもないみたいだね」
手間がかかりすぎる、とヘルズは踵を返した。特に驚いた様子はない。いや、もしかすると俺が来る前には驚いていたのかもしれない。とにかくヘルズは外の状況を現実に起きたことであるとしっかりと理解したようだ。
歯磨きが終わったのかヘルズは洗面台へと歩いていき、メタクラックとすれ違う。彼は外の状況に目を通し、しばらく制止した。パソコンの処理中画面に似た何かを感じる。頭を殴られた。
「……いてっ、なに?」
「叩いた感触あり……ね。なるほどキュウタの言うことも嘘じゃないのか。これはゲーム関係でも夢でもないな」
それはいいが二人して俺を叩く必要があるのか聞いてもいいか?
自分の頭がそんなに大事か?俺の頭よりも大事なのか!?
色々と聞きたいこともあるが、ともかくだ。この世界が何やら超常現象の真っただ中にあることは二人とも理解できたみたいだ。




