14話 弱者の蛮行
「くっ、お、おい今のズルだろ!? ネットに当たってたって!!」
「バドにネットインは関係ありませーん!! まごうことなき俺の勝ちでーす!!」
魔物が現れて一か月。おそらく世界は闇に沈み、地球中で苦痛や悲痛、はたまた絶望の悲鳴が跋扈しているであろう今日この頃。そんな魑魅魍魎とした世界でも友人がいれば少しは耐えられるだろうか。
答えはイェス!特に外道仲間がいればなお良しだ。何故ならば、彼らは余計な些事はぜーんぶ投げ出して、今を生きることに楽しさを感じることが出来るこの世界の異端。時代が違えば病気か悪魔に取りつかれたヤベェ奴なので異端審問官も尋問してしまう可能性すらある彼らは、世界が変わっても変わらず全力で楽しむことに勤しんでいる。
さて、そうは言っても世界が変わったからって変なことをしているわけではなく、現在は三人でバドミントンをして遊んでいる。うちは庭の真ん中端辺りに左右で鉄パイプが埋まっているんだが、そこにバドミントンの棒を突っ込んでネットを掛ければコートが完成する。線は適当に引けば、早速勝負開始だ。ちょうど俺持ち前のスクリュースマッシュがコート際を弾き、勝利を収めたところである。メタクラックは悔しそうに、小さな背中を見せながらコートから退陣した。
「クッソむかつくッ!! なんなのアイツ!? どこ打っても返されるんだけど!」
「これでメタクラックくんが30戦中13勝17負け。もっと本気でやりなよ。このままじゃ引き離される一方だよ」
「ご忠告どうも。ってかあいつに反射神経で勝負したら勝ち目ないんだよ。特にルールがあると策略もそれなりに絞られるし、パターン掴まれたら一気に持ってかれる。相変わらずの化け物だ」
「それは同感」
バドミントン勝敗結果。
メタクラック vs キュウタ:30戦中13勝17敗
ヘルズ vs キュウタ:30戦中10勝20敗
メタクラック vs ヘルズ:30戦中16勝14敗
総合
1位:キュウタ:37勝/60戦
2位:メタクラック:29勝/60戦
3位:ヘルズ:24勝/60戦
「ん? 60戦中24? あれれぇ~? おかしいぞぉ~? 勝率40%しかない弱者が紛れ込んでるんだけど!? え!? 俺よりも低いの!?」
「あちゃ~気づいちゃったかメタクラック……そう。こいつは勝率40%。それもギリギリ40%だ。もしお前か俺にさらに一度でも負けていれば40%すら切っていた。でもあんまり言うと可哀想だからな。ここはあえて、一回だけ煽って終いにしてやろう」
「……なるほどたしかにそうだ。よし、じゃあここは一言。心を込めて優しい励ましの言葉で喝を入れてあげよう!」
せーのっと、メタクラック。それに合わせて、
「「雑魚乙!!」」
今日も今日とて戦いの敗者は負け犬の烙印を押されるのだった。
「チッ、野郎共が! ちょっと勝ち点重ねたからって調子に乗る」
「おっと、遠吠え発見!! ファンの男女中高生に聞かせてやりたいね!」
「負け面も写真に撮っておかなきゃな! 今日はこれを枕の下に忍ばせて寝よう! いい夢見られるぞメタクラック!!」
「だな!!」
「ふぅ。落ち着け私。ステイクールだ。今すぐこいつらを殴り飛ばしたいけど、そしたらもっと煽られる」
敗者がしてはならないこと、それすなわち煽られたことに対し手を出してしまうことだ。ただでさえ敗北という烙印を押されたにも拘らず、ゲーマーというちっぽけな誇りを持った自分に泥を塗るという蛮行、それが敗北者が勝者に手を出してしまうということに他ならない。
言うなれば、ヤンキーが一度負けたにも拘らず仲間連れてリベンジを試みるような……あまつさえ負けてしっぽ巻いて逃げ出してしまうような、あまりにも情けなく、小物感がこれでもかと匂う行為なのだ。
それを理解しているヘルズは深呼吸をしてどうにか下郎二人の煽りに耐える。顔を見ればこれでもかと見下したような顔、声を聴けばストレスで手が出そうなほど軽薄。何もかもを見ないように、顔を背けながら取り繕うのだ。
それが敗者たるヘルズに出来る精一杯の虚勢である。
「んじゃ、俺風呂入るんで。二番三番風呂は適当に入ってください」
「チッ。わかってるよ、さっさと入って来い!」
「なるはやで頼むよ、結構汗掻いたし」
「はいはい、弱者は口答えしないでもらって」
勝者の特権は自由に物事を決められること、弱者にその権利を侵害されるなどあってはならないことだ。というわけで、敗者二人を尻目に一番風呂に入るのだった。




