11話 躊躇わないのは他人の家だからか?
夕食後、俺たちはリビングに集まった。報告会をしたリビングではなく、ドロップ品を放り投げた隣のリビングだ。そこでメタクラックと二人で集めたドロップ品の仕分けを行っている。
仕分けは魔石と異世界物の二種である。魔石はどんな魔物からも落とす確定のドロップ品、異世界物は確率で落とすドロップ品だ。前者を見ていてわかったことは、魔物の強さや性質によって大きさが異なるということだ。たとえば、最弱種であるスライムと、最後に倒したオークの魔石。見比べてみれば大体3倍ほどの違いがある。このことから魔石は強さによって大きさが異なるであろうことは何となく想像に易い。
そして、後者の異世界物について。これは中でも異世界のアイテムと異世界の食料の二つに分けられる。例えば、角の生えたイノシシを倒した時、落としたドロップ品は三つだ(ヘルズ談)。一つが魔石、一つが角、最後に肉が3キロ。前者二つはわかるとして問題は最後だ。面白いことに、ドロップ品の中には食料もあった。それも、霜の入ったうまそうな肉だ。食べていいのかは分からん。けど、ドロップ品であることを考えると毒はなさそうである。
ともあれ、このようにドロップ品というのは食料もあるわけで、メタクラック曰く魔物を倒せばその素材と食料も手に入るから一石二鳥。倒さない手はないね、とのこと。俺ももしこの肉がちゃんと食えるものなら、食べない手はないと思うし、食料問題も解決する。最悪、近くの畑に行って食えるもの全部取ってこようとか思ってたので運がいいというほかない。まああくまでこれが食えるなら、な。
「メタクラック、これ全部集めるのはいいんだけどさ。誰が食うの?」
「そりゃもちろん最下位のキュウタだよ。最下位なんだから毒見くらいしないと」
「やっぱそう? 不安だなぁ」
これが最下位の務めだと思うと泣けてくる。三人の中じゃドベは人権がないからな。何かしらの罰則がないと成り立たないのだ。今回で言うと、ドロップ品の三割を共有分に捧げる他、食料を毒見するという役目。この肉とかならまだいいんだが、中にはやばそうなキノコとか、どこで作られたのか分からない液体とかあるからな。そう言うのは正直飲みたくない。メタクラックが美味しく調理してくれるならまだ食えなくもなさそうだが……
「安心しなよ。初見で食えなんて俺も言わない。あくまで先駆者が試したモノだけを試すつもりだ」
「その先駆者が俺ってことじゃねえの?」
「違うよ。ほら、テレビを見ればわかるだろ? 何も先駆者が俺たちである必要はない」
メタクラックが指で指す方向にはテレビが映されている。見てみれば、そこに映っているのはドロップ品とそれに対する分析結果を表にまとめたものだった。例えば猿からドロップする糞には僅かな治療効果があるとか、兎からドロップする玉には投げつければ爆発する効果があるとか、そう言うのだ。
「なるほど、先駆者ってのはテレビの奥の先輩方ってわけか」
「そう言うこと。俺たちだって流石に何も調べず落ちたもの食うほど馬鹿じゃない。最低限、安全の保障されたものだけを食べるつもりだ。例えば……こいつとかね」
「ん?」
メタクラックが何か投げてきたのでキャッチする。液体の入った瓶だ。今日朝スライムを倒したときにドロップしたメスシリンダーみたいな容器に入った水色の液体の瓶。とりあえず家に置いて先駆者が試すのを待とうとか言って家に置いた異世界アイテムの一つ。
「テレビによればそれは回復ポーションなんだと。今飲んでみなよ」
「それ大丈夫なのか?」
「実際にテレビの奥で試してたの見たし大丈夫でしょ。ってかどうせずっと置いとくわけにもいかないんだしさ。今のうちに飲んどけば?」
「あー。まあ、たしかに」
このままずっと置いておくと場所取られるからな。今のうちに飲んどいたほうがいいのは間違いないだろう。それに、もしこのポーションが本当に回復ポーションなら今の俺にとって大変おありがたい。なんたって今現在も横腹がズキズキ痛むうえ、無茶したせいで筋肉痛がすごいからな。いつまでもビビってちゃこれが腐ることもなくもない。情報もアイテムも新鮮なうちに、だ。
というわけで、コルクを手で無理やり開けて、それを飲むことにした。これで死んだらメタクラックを恨もう。一緒に地獄でサンバでも踊ろうじゃないか。
コク、コクと液体が喉を伝う。味は、ちょっと薬っぽいけど若干甘いシロップが入ってるような薄味だ。苦みも少々、なんか小学校の時に飲んだシロップの味が思い出される。けど、ほとんど無味に近い。温度は普通の水と同じ常温程度。
「どう? うまい?」
「ん~なんか……ほぼ無味無臭だな。ちょっと苦みがあるけど、シロップの甘みも感じなくもない。花の蜜をちょっと吸ったような感じか。温度は常温。ま、普通の水みたいなもんだな」
「へぇ、つまんないね。体の方はどう?」
「さあ、すぐに効果が出るって感じはしないけど。でも、ちょっと気持ち楽になったか? 正直誤差だな」
「なるほど効果は今一つと。テレビの言う通りそれ以上も以下もないって感じね。ま、そんな都合よくはいかないか」
「もともとがスライムだからな。もっと強い敵を倒して得た回復ポーションの方いい効果がありそうだ」
例えばスライムの上位種とか、どこぞの四角い世界の魔女とか。こういうのはそれなりに骨のある敵でないといいアイテムを落とさないという特性がある。その法則で言えばスライムは最弱種。踏めば死ぬような蟻んこみたいな魔物だ。得られるアイテムはやはり渋い。
「まあ、効果が薄いだけでもあるに越したことはないでしょ。とりあえずあと三本くらい飲んどけば?」
「おっ? くれんの? さんきゅー!」
微々たる回復量であっても、回復することに変わりはない。俺はあれからスライムを一体も倒してないし、回復ポーションも持っていないのだ。メタクラックからもらった追加の三本を飲み干すと、再び作業を開始した。と、その時後ろの障子が開いた。
「入るよお二人さん。……え、なに飲んでんの? 薬?」
ヘルズが何食わぬ顔で入ってきた。こいつは今回の報告会で一位ってことで貯金するドロップ品も少なく、俺たちよりも断然速く仕分け作業を終えている。なので、くつろいでくるとか言って二階に上がったのだ。
ちなみに、二階には部屋が三つある。一つが俺の両親が使っていた10畳くらいの寝室、そして対面には7畳くらいの部屋が二つ。一つは物置部屋で、もう一つが俺の部屋だ。俺の部屋は俺が使うとして残りの二つは誰が使うのかじゃんけんで決めることになった。その結果、一番大きな部屋をヘルズが使い、物置部屋をメタクラックが使うことになった。報告会といい心理戦といい、ちょっと強すぎませんかねヘルズさんや。これで不正をしてないとか言うんだから疑わしい。
「ヘルズ、外の様子はどうだった? 何か異変とかあった?」
「ん~特にはないかな。けど、夜は魔物の種類が変わるみたいだね。夜目が効く魔物が徘徊してるって感じ。でも襲ってくる様子はないよ。外から光は漏れてるけど、それがかえって怖いのかな? あるいは、私ら三人にビビッて襲ってこないのか。前者はともかく、後者も結構あり得るね」
「生き物特有の本能ってやつか。野生の勘って便利だね」
ヘルズはリビングのベットに腰を下ろしながら、こっちに視線を寄せる。どうやら休憩がてら外にいる魔物について色々と調べてたみたいだ。そりゃ、今この家は無防備な状態だ。勝手口以外は鍵を閉めて物で塞いでいるとはいえ、無理やり中に入ってこようと思えば余裕で入れる。多分小学生でも入ろうと思えば入れるはずだ。だからこそ、魔物への警戒は常にしておかなければならない。
「それよりさ、あれ試してみたの? メタリックくん」
「あれって?」
「あれはあれだよ。押し入れの奥にある異世界物」
「いや、まだだけど」
「じゃあ試してみようよ。機能するならやつらの警戒もしなくて済むでしょ?」
「まあそれはそうだね」
二人が何やら変な話をし始めた。異世界物?いったい何の話だ?
「押し入れって……何かあるのか?」
「キュウタはまだ見てないの? 押し入れの変な扉」
「扉?」
はて、まったくもって身に覚えのない情報に、頭を傾げる。うちの押し入れには服が入っているだけで、扉なんてものはついてないはずだ。あと使わなくなったぬいぐるみが入ってるくらい。ヘルズの言っている扉には心当たりがない。ただ、ふとメタクラックの朝の言葉を思い出した。
「あ〜そう言えば朝にメタクラックが面白いもの見つけた、みたいなこと言ってたような。もしかしてあれか?」
「そうそれ。キュウタがお古の服貸してくれるって言ってここ教えてくれたでしょ? その時見つけたんだよ」
「なるほど、納得」
結局、あの時メタクラックはお古の服じゃなくてクローゼットから俺の服とってたけどな、というのは一旦置いといて、どういう案件かは理解した。今朝は色々と立て込んでたのもあって細かいことはサラっと流したのだ。
実際その時は大した要件じゃないから後回しにしたのかと思ってたけど、どうやらそう言うわけじゃなかったんだな。ヘルズはベットから降りると襖を開けた。
「おっ、まだちゃんとあるね。異世界物」
「そりゃ逃げはしないでしょ。生き物じゃあるまいし」
「えっ!? なんだこれ!? 白い扉!?」
そこにあったのは押し入れの奥についた白い扉だ。見た目は神棚に少し似ているだろうか。材質は木製のように見えるが、両開きで大きさは縦横30センチほど。壁にかけられるかのように取り付けられている。まさしく異世界物だ。こんなものはうちの家にはない。もちろん改修されたというわけでもないだろう。
ヘルズは何度か見ているのか特に驚いた様子はなく、その扉を開ける。中はぼやけたような、時空が歪んだ白い光景が広がっている。奥は見えない。ただ、壁というわけでもなく、寧ろどこまでも続いていそうな感じだ。あまりの異質な光景に思わず眉をひそめた。ちょうど、後ろのテレビにこの異世界物が映し出されていることに気づいた。
『シラト、それがこの異世界物の名前です。中に魔石を入れれば家の敷地内に透明なバリアのような物を張ることができ、魔物から身を守ることが出来ます。魔石を手に入れた方はすぐにシラトへ入れましょう。なお、この効果は魔石の大きさによって時間制限がありますので、お気を付けください」
こいつはシラトというらしい。中に魔石を入れることで周囲に結界を張り、魔物から身を守ることが出来るんだとか。本当にそんなことが叶うのが疑わしいが、ポーションのこともあり、向こうが信憑性のない嘘をつくメリットもないので、どっちかわからない。
「入れてみようか。この魔石」
ヘルズはこちらに向かってニヤリと笑いかけると、俺の返答を聞く前にシラトへ魔石を入れた。一応言っておくがここは俺の家であってヘルズの家でもメタクラックの家でもないんだが……よくもまあ当たり前のようにホイホイ行動できるもんである。
多分メタクラックも何も言わないところを見るに既にテレビからこの異世界物について詳しい話は聞いていたんだろう。けど、媒体が魔石であることと規模がでかいことを考慮して今まで入れてなかった、と偏見で推測できる。まあ、どのみち入れなきゃ話が始まらないって言えばそうなんだが。
「「「!!」」」
その時、何か家の周りが静かになったような気がした。まるで外と中で音が遮断され方のような、薄い膜が張られたような感じだ。僅かに違和感を感じたって程度だが。
「……感じた? 今たしかに何か張られたよね?」
「外の雑音が聞こえなくなった感じだ。成功したのかな」
「さあな」
分からない。というのが正直な感想だ。けど全員が何かを感じ取ったということは、張られたその何かが気のせいではないのは間違いない。それがテレビの言う通りバリアという名の結界なのか、それとも魔物の仕業なのかは分からないが。なんにせよ、何かが起きたのはたしかだろう。
「外に出てみればわかるか。戦闘の準備をしよう」
ヘルズはそう言うと、障子を開けて二階へと上がった。寝室のクローゼットに服があるのでそれを取りに行ったのだろう。もちろん、外に出るようの服だ。結界とやらがちゃんと張られているのか、ちゃんと機能しているのかを確かめるために。
「相変わらず行動が早いなアイツ。まあどうせいつかは試すつもりだったし早いに越したことないんだけどさ。俺もさっさと着がえよー」
「お、おう。じゃあ、俺も……。戦っても長期戦にならないだろうし、そこまでガチじゃなくていいよな?」
「いいんじゃない? 少なくとも俺は作業着着るだけだし」
「じゃあ俺もそうするか」
ヘルズとは違い、俺とメタクラックはリビングに戦闘服をハンガーにかけて置いている。洗濯しようと思ってたんだが、音がでかいのでできなかったのだ。
ささっと着替えて戦闘準備。結界が本当に張られてるってなら戦う必要はないのであくまで念のために。
テレビを信じて怪我しましたとか、最悪死にましたなんてことになれば死にきれないからな。本音を言えば体中痛すぎて動きたくはないけど……自分の命がかかわっている以上、動かないわけにはいかないだろう。




