滅びた王国と姫と騎士 9
「あっはは…」
私、カリーナはその光景に笑っていた。いや、苦笑いをしていた。
辺り1面には地面にめり込んだ神風教信者達、そしておもいっきり息を切らしている神風教司祭のエルマンの姿。
「はぁ……はぁ……!、くそっ…なんなんだこいつっ!!」
整っていた髪は乱れ、服装は崩れ、顔は20年も老けたようにシワが寄っていた。
「どうした?、こいよ」
右手をくいくいっと動かし挑発する。ザルドは無傷で余裕そうな顔をしていた。
「リンの野郎もやられたのか…!、こうなったら!」
そう言うと両手で風を溜め始めるエルマン。それはどんどん大きくなり、気付けば3メートル程の巨大な風の玉が出来ていた。
「この攻撃を受けて生きた奴はいない!!」
「へぇ…」
大きな風の玉を見て感心しているザルドはさしずめ美術館の絵を見にきた客感覚だろう。その余裕の表情に怒りをマックスにし、丁寧口調も忘れたエルマンが仕掛けた。
「くたばりやがれぇぇ!」
手を前に出して巨大な風の弾を飛ばす。辺りの石柱や木々が揺らぎ、地面を根こそぎ削りながらザルド目掛けて飛んでいく。
そんな中で大剣を片手で持ち、余裕の笑みを浮かべて風の弾を迎え撃つ。
「ふっ!」
眼前に迫った巨大な風の弾。3メートルもあり、目の前が透明な荒れ狂う空間でいっぱいになる。先ほどのウィンドとは打って変わって威力も規模も桁違いの攻撃はエルマンの必殺の一撃なのだろう。
しかし、その攻撃を軽く息を吐いて大剣を振り下ろし一刀両断する。
「へっ?」
風の玉は半分に割れて石柱や木々を粉砕しながら左右に飛んでいく。
そのまま誰にも当たらず着弾してエルマンの技は空振りに終わり、残ったのは間抜けな声だけだった。
「あの風の玉を斬るなんて…」
ザルドの後ろでその光景を見ていた私は文字通り息を飲んだ。間違いなくエルマンは強い。少なくとも私が戦ったら苦戦するだろう相手であるのは間違いない。それを簡単にねじ伏せる圧倒的強さは兵士長時代から変わっていなかった。
「さてと、色々聞きたい事があるんだが?」
「わ、私はなにも答えないぞ!?」
大剣を軽々と振りながら威圧をする。一歩一歩前に出てくるザルドに引きつった顔をしながら必死に抵抗の声を上げる。しかし、それも無駄だった。
「じゃあ、死ね」
腰が抜けているエルマンの前まで行き、大剣を振り上げる。不適な笑みを浮かべながら振り落とされるそれはエルマンの老けた顔に迫り…。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ……………!!!」
森に響き渡るエルマンの悲鳴はそれはそれは恐怖に染まっていた。
カンバロッタ街、ギルド中心部宿。
ギルドのすぐ横に並列している宿で寝泊まりしているザルドの部屋にお邪魔していた。
「結局エルマンは何も漏らさなかったね」
「狂信者はそういう者だ」
大通りの屋台で貰った焼き芋を頬張る。焼きたての芋はやはり美味く、安くてお腹にも溜まるので私としては重宝したい食べ物だ。
因みに街の人達に事情を話すと、意外にもあっさり納得してくれた。
「すまなかった!、俺があんたらの居場所を話してしまったんだ」
七色宗教の話をして真っ先に私達の前に現れたのが厳ついギルド職員だった。
彼は自分のせいで危険な目に会わせてしまったと頭を下げて謝罪した。他の人達もまんまと騙されたことを申し訳ないと思っていた。
「気にするな、あんなの危険の内に入らねぇ」
そう言って格好つけるのはザルドであった。彼なりの優しさは不器用ながらも厳ついギルド職員や他の人達にも伝わり、せめての償いとして焼き芋無料券を貰ったのだ。
「さてと、これで七色宗教の狙いが分かったな」
焼き芋を口いっぱいに頬張り、ホクホク言わせながら先に食べ終わったザルドは言った。
それはエルマンの発言から察しは着いていたが…。
「モグモグ……んっ、どうして私を狙うんだろう?」
「十中八九お前の剣だろうな」
「剣?」
壁に立て掛けてある宝剣カリバーに目をやる。
確かにこの剣には炎を吸収する不思議な力があるが、それだけであそこまで動くとは思えない。
「まぁ、正確には宝剣カリバーとそれを扱えるお前自身だがな」
そう締め括ると机に置いてあった地図を広げる。
それは大陸地図でここ一帯の場所が書かれている。
「俺達が居るところはカンバロッタ街、南東付近だな。そこから東側へ進んでいくとアガン王国がある。ひとまずそこへ向かう」
地図を指でなぞりながら説明する。アガン王国までの道のりは整備されているので馬車を借りられれば2日で着く。
確かに八王国でもあるアガンなら七色宗教の情報も手に入ると納得したところで焼き芋を食べる手が止まる。
「…えっ?、いや…ザルド。あんたも来てくれるの?」
あたかも自分も着いてくるような説明の仕方に顔を上げるとザルドは一瞬考えてる素振りをして頬をかいた。
「あぁ…なんだ、俺も七色宗教と一戦まみえたしな。それに、知ってる奴が死ぬところなんて見たくもないからな」
その言葉を聞いて胸の内からよく分からない感情が沸き上がり、気付けばザルドに抱きついていた。
「ありがとう!!、ザルド大好きっ!」
「おまっ!?、…はぁ、こういう時だけ都合がいいなぁ」
ぎゅっと焼き芋を持ちながら抱き締める私になんともいえない表情をするザルドだったが、ふっ…と呆れた笑みを落とした。
サブタイトルの話も終わり、新しい幕が上がります。自分でも書いていてとても楽しみです。




