旅の始まり
「んっ……」
朝の日差しを感じ目が覚める。
暖かな太陽の光りと熱を持ったふかふかの布団、昨日までの野宿生活とは違い、とても快適だ。
「………」
あまり寝息も発てずに地面で寝ているのはザルドである。
あのあと泊まるところのない私に借りているこの部屋を貸してくれて、さらにはベッドも譲ってくれたのだ。
「俺は地面で寝る。1日位なら平気だ」
風呂から上がり、髪の毛を渇かしていた私にザルドは言った。
こちらを見ようとはせずにベッドの横に寝っ転がると敷き布団を1枚だけ羽織り寝てしまう。
「そんなの悪いよ。部屋まで借りてるのに」
「だから1日だけだ。それ以降はお前が床だ」
それ以降と言われても恐らくそんなことは起きようがない。
これからは部屋も2つ借りるだろうし、その資金もバジリスクの報酬でたんまり貯まっている。
つまり、これ以降は床で寝ないと分かってる程で行動しているということだ。
「ザルドって結構優しいよね」
そう思うと笑みがこぼれる。
端から見たら愛想悪くて怖いかも知れないが、素直じゃないだけで本当は優しいのだ。
「何言ってるんだが、お前も髪の毛渇かしたら寝ろよな」
寝る位置を整えながらそう言うと再び寝てしまう。私はタオルで髪を渇かしつつ目だけザルドに向ける。
地面は1枚のカーペットが引いてあるだけの硬い床、とても寝やすい環境ではない。
「んー……」と人差し指を顎に当ててあからさまに何かを考えてる素振りをした後、手をポンと叩いて私は声をかけた。
「寝るには寝るけど、せっかくだし一緒に寝る?」
意地悪な笑みを溢しながら言ってるのが自分でも分かる。
別にふざけてる訳ではないのだが、ザルド相手だと何故かそうなってしまう。
髪を渇かし終わり、ギシッ…という音と共にベッドに腰かける。
「寝ねぇよ」
寝返るように身体を反対に向けるのに対して、今度はもう少し粘ってみた。
「そんなこと言わずに……ほらほら」
横で寝ているザルドをベッドの上から見ながら、手招きをして空いているスペースに誘い込む。
ふざけてるように見えてしまうかもしれないが8割は本心だ。
一緒に寝たいからとかではなく、やはり硬いカーペットの上で寝かせるのもなんか悪い気がしてしまう。
「しつけぇぞ…。朝は浅いんだから変なことばっか言ってると追い出すからな」
しかし、ふざけてるように聞こえてしまい適当にあしらわれる。
これ以上言うと本気で怒ってきそうなので私も寝ることにした。
「わかったよ、おやすみ」
「おやすみ」
あの後すぐに寝てしまったけど、ザルドはきちんと眠れたのだろうか。
時刻は6時。
昨日は10時半には寝たので結構眠れているはずだが…。
「起こした方がいいかな」
6時には起きると言って眠ったが、まだ起きない。
ザルドは意外と時間にはルーズでオルウェン王国の時も寝坊した私をガチギレしたのはいい思い出だ。
なんて思っていたら瞼が少し動く。
「んっ……ふはぁぁぁぁ」
ゆっくりと目を開けて上体を起こす。
反射のように出る欠伸に逆らわずおもいっきり腕を伸ばす。
「おはよう、ザルド」
「ん、おはようさん」
まだ少し眠そうにしているザルドに声をかける。
それに返事を返しつつ大きく息を吐きながら立ち上がり、掛けてある時計に目をやる。
「6時3分……まぁいいや」
独り言を漏らすとそのまま洗面所に向かい顔を洗い始める。
その光景に私は少し驚いていた。
「珍しい…!、いつもなら焦るなり落ち込むなりするのに」
「兵士の時ならともかくとして、今は冒険者だからな。少しくらいは妥協するさ」
顔と歯を洗い終わったザルドは指でお前も洗えとジェスチャーを出す。
それに従う感じで洗面所に向かった私も顔と歯を磨く。
「そういえば、馬車はいつ頃来るの?」
「七時には一般用の馬車が来るはずだ。とりあえずそれに乗ってアガン王国を目指す」
シャコシャコと歯磨きをして口をゆすぐ。
こちらから話しておいて聞くのは半分程度というのはいささかどうかと思ったが、女は何かと忙しいのだ。
「髪の毛少しボサッとしてるからシャワー浴びるね」
「あいよ」
タオルと着替えを用意してシャワー室へ入る。
オルウェン王国の時も王家ということで髪の手入れは大事にしていたが、こうなった今でもやはり髪はやはり気になる部分なのだ。
「とりあえずは平気だな」
バックの中身を念入りに確認するのはザルドであった。
冒険者になってからの習慣で一度入れた荷物を出発前にもう一度確認するという二度確認をしている。
忘れ物は怪我に繋がり、最悪取り返しのつかない事態へ追い込まれるからだ。
バックの中身はというと。
財布(十万ノース)
地図(大陸地図)
携帯食料(三日分)
水(三日分)
タオル(二枚)
ポーション(各種合わせて六本)
等々。
物はたくさんあるに越したことはないが、多すぎても荷物になるだけなので最小限に抑える。
「さて、後はアイツを待つだけだな」
バックの中身も確認したザルドは準備満タンでカリーナを待った。
午前七時半。
馬車庫道中にて二人の男女が走っていた。
「てめぇシャワー長過ぎるんだよっ!?おかげでこんな時間になっちまったじゃねぇか!」
「はぁ!?ザルドだって、ごめんもう一回荷物確認させて、とか言って結局二十分位かかってるじゃない!!」
朝の街に響き渡る二つの怒声。
この時間帯は各所の店が開き、客足も多くなる時間だ。
そんな時間に仲良く並列し互いに文句を言い合う光景を見た住民は…。
「仲がいいなぁあの二人」
「新婚さんかしら」
等と言い、穏やかな気持ちになるのだった。
馬車庫。
「……お客さん大丈夫かい?」
「はぁ…はぁ…おきになさらず、走ってきたものですから」
息を切らすカリーナは手を振り、大丈夫アピールをする。
なんとかラストの馬車に乗り込むことが出来た二人は既に満身創痍だった。
「ったく危うくアガンに行けない所だったぜ」
深くため息を落とすザルドはドカンと肩に背負ったバックを馬車床に置いた。
席は長椅子で互いに向き合うように設置されており、二人はそれに習うように向き合い座っていた。
「何が、やっぱ後ポーション二本欲しいよ。そのせいで時間くったじゃない!」
「アガンは物価が高いんだよ、それに時間をくったというならシャワー三十分の方がなぁ…」
(大丈夫かこの二人……)
ガミガミと馬車の椅子に座りながら互いを怒り続ける二人に馬車の人は呆れ顔を見せた。




