滅びた王国と姫と騎士 8
ザルドと神風教が戦闘をしている最中、カリーナもまた聖火教と交戦していた。ダンジョンから少し離れた場所、森の中で複数の信者に囲まれながら善戦していた。
「こいつっ!?」
手の平に収まる程度の火の玉を作る聖火教の一人はそれをカリーナに向けて放つ。
[ファイヤ]と呼ばれた基礎属性魔法は対人対魔戦で良く使われる初級の魔法であり、生身の人間に当たれば焼け死ぬ。魔物でも皮膚に重度な火傷をおう。
しかし、当たらない。
「はぁ!!」
木々を足場に右へ左へと飛び回り、火の玉を避ける。まるで極東の忍のように動き回る標的に苦戦している聖火教信者をまた一人斬る。
身体に斜めの深い切り傷を負った信者は血渋きを上げてその場に倒れる。
「はぁ…はぁ…」
息が上がる。額から汗が流れる。ファイヤを避け続けることで辺りの木々に当たり引火、それにより森一帯が火の海となっていた。
聖火教と交戦してから10分、二十人から三十人いた信者を全員倒し残すは後一人を残すのみとなっていた。
「まさか全員倒すなんて驚いた」
炎の中から現れるのは一人の女。黒髪で隠れる瞳から覗かす殺意の籠った目、黒く細長い長剣、聖火のエンブレムを腹部に着けた服。
聖火教司祭リンが私の目の前に姿を見せた。
「さっきから見当たらないと思ったらこそこそと隠れてたの?、とんだ腰抜けね」
「貴様を確実に殺すためだ」
私の挑発にも乗らず長剣を前に突きだす。漆黒の剣先は不気味に光り、リンの瞳が剣に移ったかのように殺意がひしひしと感じられた。
「はぁ…」
そのリンの態度に私は大きなため息を溢す。それは呆れて溢したのではなく、どちらかと言えば怒りに近い。
ため息を落としきった後、鋭い眼光でリンを睨み付けた。
「さっきから被害者ぶってるけど先に仕掛けたのはあんたの妹で、あんたらのせいで私の国は滅んだの。民は死んだの。つまり、あんたが私に怒る資格はないってこと……わかる?」
手振り素振り丁寧に教えてやった。聖火教司祭であるリンと出会ってからずっと気に入らなかった。私の国を壊して民を殺して、でも妹が死んだら逆怨み。
苛立ちが込み上げない方がおかしい。
それなのに、
「全て我が神が与えたお告げであり、貴様の国が滅ぶのは決していた。お前達オルウェン王国の民共は私達七色宗教の前に膝を着き、殺されるのを待っていればよかったんだ」
平気でこんな事を言い出すし…。
もはや怒りを通り越してよくわからない感情が生まれてきそうだ。悪質な宗教にどっぷりはまった信者の末路はきっとリンみたいな人間になるのだろうと二度目のため息を落とした。
「仮にも最大級の宗教なのに…。こんなことあまり言いたくないけど、人を殺しても良いと考えてる宗教の神ほどろくな奴はいないよね」
「どういうことだ…?」
「つまり、あんたの神はろくでなしの駄目神ってこと。…わかる?」
言い終わるか終らないか位で漆黒の剣先が私の眼球の目の前に迫る。ゼロモーションからの突然の突きに身体を翻すことでなんとか回避するが、ツゥーと頬にかすり傷を負い、血が流れる。
そして、直撃しなかった長剣はそのまま勢いに任せて背後の木に突き刺さった。
「フゥー!…フゥー!…」
うるさいと感じる程の荒い呼吸をして木に刺さった剣先を引き抜く。
「貴様は…私の妹を殺し、神をも侮辱した。殺してやる!」
肩から呼吸をし、鼻息を荒くして怒りを爆発させるリンは完全に興奮状態だった。
瞳をガン開きして白眼は血管が浮き出ており、まるで魔物そのもの。
こわっ…と思いながらも最後のトドメの言葉を口にした。
「自分達のしたことは正当化して相手を悪者にする。あんたらの宗教の教えはガキの考えそのものだな」
「だぁぁまぁぁれぇぇぇ!!!」
宝剣カイザーを構えた私は怒声を上げながら迫り来るリンの長剣を真っ正面から受ける。
ギィン!!!と金属と金属がぶつかり合う音が響き渡り、交じり合う剣からは火花が飛んでいた。
「殺してやる!殺してやる!」
到底司祭が言う言葉ではない言葉が私の目の前で飛びかい、唾と共に怒りと怨みが飛んでくる。
「うるっっさいっ!!」
拮抗していた状態からの蹴りは見事に腹にめり込み、ゴホッ…!と息を漏らしたリンはそのまま後方の木まで飛んでいった。
おもいっきり背中を打ったのか咳を溢し、その中には血も含まれていた。おそらく臓器の1つがやられたのだろう、普通なら起きられない状態だが執念がそれを拒んだ。
「き…さまを、殺して…やる」
呪いのように呟きながら立ち上がるも、立つのがやっとなのか長剣を杖のようにしてなんとか重心を支えている。
もう立つこともままならない。そう思った時、
「しねぇ!」
片足に力を入れて跳ねるように爆走。長剣が地面に擦れながら私に接近してくる。しかし、先程より遅く動きもわかる。
宝剣カイザーを構えて迎撃準備、そして予想通り長剣を振り上げてきたリンの斬撃を受け流し、顔面に一発殴りをお見舞いする。
「がはっ!?」
もろに顔面にくらい再度吹き飛ばされて木に背中を打つ。胃から込み上げた血液を口から吐き出す。
「ゲホッ…ゴホッ…」
しかし、倒れない。視界がぼやけ、今にでも倒れそうになるが立ち上がる。
そんな中で。
「燃えろ…カリバー」
カリーナは唱えた。
相手は重症を負っている。しかし、そんなことは関係ないと宝剣カイザーの刀身を赤く燃え上がらせた。赤く、紅く燃え上がるカイザーの炎はまるで生きてるようにうねり動く。
それは、聖火教信者達が使っていた[ファイヤ]とは全く別の物だとリンは霞む視界で感じていた。
「炎を喰らえ」
カリーナの一言で動く炎。当たりが火の海の森で独りでに動き回るそれは辺り一帯の別の炎を飲み込み、消し去っていく。
「その…炎は…」
何かを知ってるのか血が溢れる口から言葉を発しようとするも、上手く言葉が出ず、咳き込んでしまう。
そうこうしていると、辺りの炎は消えて後には少量の煙だけが残っていた。
「今ここにあった炎を全部喰らい、溜め込んだ。今からこのカイザーをお前にぶつける」
紅い刀身から漏れ出る炎は血のように赤く、まるで鮮血のような色合いだ。他の炎とは異なる変異体の物体。リンは先程までの殺意も忘れ、その炎にくぎ付けとなっていた。
「貴様の…炎は、国を…いや…世界を」
手を伸ばし、その美しく感じる炎を掴もうと一歩前へ足を運んだ時。
「さようなら」
宝剣カイザーは振り落とされた。リンの視界は白い光りに包まれ、細胞の一つ一つが焼け切れるのを感じ、しかしながら痛みはない。そんな不思議な感覚を味わいながら骨の1つも残らず消えていった。
「ふぅ…」
リンのいた場所には何も残らず、痕跡の1つもなくなった。だが、人が消える程の威力を出したにも関わらず、辺りは聖火教が燃やした木々があるだけで変わった様子はない。
「制御は出来るようになったかな」
普通の炎とは違う別物の炎。それは、カリーナにもわかっていた。
この炎を知った最初の頃は怖くて恐ろしくて封じ込めようとしたが、今となってはオルウェン王国で特訓しといて良かったと思うようになった。
「あの時、私が逃げていなければ…」
だからこそ、オルウェン王国を救えなかった事を後悔する。力があればあの時もっと頑張っていればと…。
それに。
「国を…いや…世界を」
リンが言おうとしていたことはなんだったのだろうか。怒りに任せて振り落としてしまったことは後悔していない。だが、あの時に聞いていれば何かこの炎の事がわかったかも知れない。
「でも、今はザルドに合流しよう」
力のことは後回し。先にやるべきことはオルウェン王国の再建なのだからと自分に言い聞かせてザルドがいるダンジョンに足を向けた。




