滅びた王国と姫と騎士 3
ザルドを追って向かった先は、古代遺跡のような門構えのダンジョンだった。壁画のある柱が数本並び、石畳の一本道は真っ直ぐ暗い入り口へと延びている。
「この中にザルドが…」
ギルド職員から貰った地図には目的地までのルートと簡単なクエスト内容が書かれていた。ギルドに依頼を申請する時は、最低でも目的地の場所とやってほしい内容を書く必要がある。
「内容は、ダンジョンの奥にいるバジリスクの討伐及び素材回収と」
内容を確認し、地図をポケットにしまう。そしてダンジョンの入り口に立つとそこから魔物の気配がひしひしと感じられた。魔王が消えた現在においても魔物はたくさんいる。特にこういったダンジョンと呼ばれる地下迷宮には。
「よし、行こう」
魔物の巣窟であるダンジョン、そこに足を踏み入れるのは初めてだが脅えてはいられないと私は暗い入り口へと入っていった。
同時刻3階層
「「ギィギャァァァ!!」」
魔物の声が反響する。数は数十体、男の周りを囲むように現れた緑色の小人であるゴブリンはこん棒や短剣を携えていた。
己の得物を地面に叩きつけ、舌を出してはケラケラと笑うゴブリンにため息を溢した男は背中に携えていた大剣に手をかける。
「ゴブリンに用はないんだけどなぁ……」
そう言いながら大剣を抜いた男は円を描くように得物を振るう。
「ギィギィギィギィ……ギ?」
笑っていたゴブリン達は突如黙り、次の瞬間には頭を吹き飛ばしていた。何が起こったのか理解できない低級の魔物はそのまま地面に屍を並べた。
血溜まりが出来る中で男はおもむろに地図を取り出し、今回のクエスト内容を再確認する。
「バジリスクは下の階層、暗くて水気のある場所を好む」
大剣を振り降ろし、ゴブリンの血を壁に飛ばした男は先を急ぐ。
1階層
「うぅ……暗いのは苦手だなぁ」
ダンジョンに足を踏み入れたカリーナは辺りを見渡しながらザルドを探す。しかし、灯りも無いもないダンジョンでは音や感覚に頼るしかない。
ガサガサガサガサガサガサガサッッッ!!
「えっ、なに!?」
突然の物音に後ろを振り返るも辺りは暗くなにも見えない。鞘から剣を抜き、臨戦態勢になるも何処から来ていつ来るか分からない敵に神経がすり減る。
「来るっ!」
が、だてに10年修行をしてきたカリーナは敵の放つ殺気を肌で感知し剣を振るう。
ガンッ!と硬いもの同士がぶつかり合う低い音と共に姿を現したのは大きなムカデだった。全長3メートルにもなるムカデは天井に張り付き、獲物を待ち伏せしていたのだ。
「チィィィィィ!」
甲高い虫特有の音を出しながら顔の左右に着いている鋭い刃で剣を抑えるムカデに一歩も譲らない状況だった。
「力は拮抗、押し返せない……なら使うか」
本当はあまり使いたくないけどと前置きをおいて剣から炎を出す。オレンジ色の綺麗な炎が暗いダンジョンを照らし、ムカデの身体を燃やし尽くす。
「チィィィィィィィィィィ……」
天井から落下し、バタバタと百足を暴れさせたかと思えばすぐに動かなくなり生き絶える。
魔法と呼ばれる人智を越えた力を使った私は軽い怠さを感じ、頭を抑える。
「ただでさえ魔力回復も出来てないのに…、はぁ、本当に疲れる」
だが、いつまでも休んでる場合ではないと先を急ごうとしたその時、突如足場が歪んだ。
「えっ?」
ガクンッ!と身体が下に落ちる感覚に襲われ、足元を見ると膝元まで地面に埋まっているのがわかった。しかも、
「沈んでる!?」
ズブズブッと音を立てて暗い地面に身体がどんどん沈んでるのを理解した私はなんとか脱出しようと足を動かすも効果はない。
「ヌププププ」
そして特徴的な鳴き声と共に現れた魔物に私は目を丸くした。
「マッドスライム」
身体に巻き付くように姿を見せたマッドスライム、通称沼スライムは危険な魔物として世界的に有名である。そもそも物理攻撃が効かないスライム事態が危険なのだが、それよりも一回り危険なのが沼スライムなのである。
「自信が作り出す暗黒の沼に対象を沈めて溺れさせる。その被害は年間で数百にも及ぶ」
スライムは相手を窒息させることで有名な魔物であり、この沼スライムも沼に沈めて溺死させることで有名な魔物だ。
「くっあぁぁぁ!?」
そうこうしているうちに腹まで沈み込んでしまい、気付けば辺り一帯が暗黒の沼地と化していた。
逃げ場がない状況に焦ってしまい、身体をくねらせることでなんとか脱出しようとするが逆効果となってしまった。
「むやみに動いても沈むスピードが上がるだけ……どうすれば」
身体をくねらせたことで胸元まで沼が迫ってしまった。しかし、このままでは窒息してしまう。焦る気持ちと平常心を保とうとする気持ちで頭がおかしくなる。
額から汗を流し、なんとか打開策を模索する。
「魔法を使ったら出れるかも知れないけど、マッドスライムは倒せない。また捕まってしまったら今度こそ終わりだ」
スブブブブッと沈んでいく身体はとうとう胸を飲み込み、残すは上に上げている手と頭だけとなってしまった。
ヌプヌプと楽しそうな声を上げるマッドスライムの光る目が真下から見えて、まるで瀕死の獲物を狙う肉食動物のようだ。
「いや、まてよ。マッドスライムの沼は身体の一部、つまり体内ということになる」
スライムに物理的攻撃は効かないというのはあくまでも表面の液状部分の話である。内部にある核を破壊すればどんなスライムでも死に至る。それはマッドスライムでも同じこと。
「これをやるしかないけど……失敗したら死ぬな」
鎖骨、肩と沈んでいき、とうとう首筋までも沼に飲み込まれてしまったカリーナは大きく息を整える。
「大丈夫、私なら出来る。私なら…出来る」
顎先に沼が到達し、反射的に顔を上に上げたカリーナは深呼吸のように吸っては吐いてを繰り返してなるべく気持ちを落ち着かせ、国宝の剣を強く握りしめその時を待った。
そして、
「ヌププププ」
ラストスパートとばかりにマッドスライムはカリーナを沼の中に引きずり込ませる。耳が沈み、目を横に向ければ暗黒の沼が目に入るくらいまで沈み込み、そのまま上を向いていた顔を沼で侵食していった。
「すぅぅぅぅ………んぐっ」
スブズブ……ズブブブブブブッ……ボチャン。
沼が顔を侵食する前に大きく息を吸い、覚悟を決めたように目をつむるとそのまま沼の中へ沈んでいった。残された手も剣を持ちながらゆっくりと沈んでいき、後に残ったのはカリーナが吐いている吐息の泡と少しへこんだ沼地であった。
「ヌプヌプヌププププププププププププッッ!!!」
久しぶりの食事なのかマッドスライムは嬉しそうに声を上げ、暗黒の沼と共に地中へと潜っていった。そして、そこには何も残らず、まるで最初から何もなかったかのような硬い地面が広がっていた。




