闘技場編 トラウマはR18
「優勝はザルドぉぉぉぉぉぉ!!!」
司会の一言で闘技場一体に歓声が広がる。
建物や地面を揺らさんとする位の声が一人の男に降り注いでいた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
膝をつき、息を切らして、視界がぼやける程に満身創痍の私を見下ろす男は何も言わず出入り口から出ていく。
「強い…!」
その男はまさに屈強だった。
技術だとか駆け引きだとかそんな小細工は一切使わず、己の拳だけで闘技場の女王であった私を殴り倒したのだ。
そんな私の心は悔しさは強さへの嫉妬心が募り始め、倒れたい気持ちに鞭を打ち顔を上げる。
「ザルド!ザルド!ザルド!」
観戦者から上がる声はまさに最強の証、名実ともにアガン王国に認められた男はそれでも何も言わず闘技場を後にする。
そんな後ろ姿を眺めているうちに、とある感情があらゆる想いをはけ退けて上がってきた。
「なんだこのもやもやは?」
最初はわからなかった。
しかし、それを理解するのに時間を有することはなかった。
次第に大きくなっていくその感情が私自身を支配していき、ついに声を上げる。
「彼が欲しい…、彼の子供が欲しい」
独占欲。
闘技場で呟かれるそれは自分への誓いの言葉のように並び、自分の物にしたいという欲が芽生え始めたきっかけを作り出した。
彼の隣で武を極め、彼の子供を産み、その子供と武を極め、そんな毎日が欲しいと本気で思ってしまった。
「ザルドが欲しい」
リーゼはザルドの強さに惚れてしまった。
惚れてしまったら止まらない。
顔を赤くして、群衆の前だというのに秘部を濡らし、息を上げる。
感情が発情が止まらない。
それはまるで飢えた獣のように瞳孔を小さくし、出入り口に消えていくザルドに狙いを定める。
「ザルドの全てが欲しい」
それがザルドとリーゼの最初の出会いだった。
「んっ……ちゅ、ちゅくちゅく………んンん、ぬちゅ…」
生暖かで柔らかい感触が唇を襲う。
甘い吐息を漏らしながらザルドの唇を貪るリーゼは唾液の水音を出しながら6年ぶりの感触を堪能する。
「はぁ……はぁ………ザルド、口を開けてくれないか?」
「嫌に決まってるだろ!?、頼むから退いてくれ!」
その閉じた口を開けてくれと懇願するリーゼは街中にも関わらず火照りきった身体を下半身に擦り付けてくる。
馬乗りからのキス、他人から見たら羨ましいと思うだろう。
褐色肌のリーゼは巨乳が目立つ露出度の高い服を身に纏い、顔も整った綺麗なものだ。
そんな人が襲いかかってきたら男なら真っ正面から受け止めるだろう。
「俺はお前が嫌いなんだ!」
しかし、ザルドは違った。
なぜなら、6年前のトラウマが残っているからだ。
それを思い出すだけで身体が震える程だ。
そんな女からの再度のキスを当然のように腕でガードして数十メートル先でもんもんとしているカリーナに声を上げる。
「カリーナ!?………カリーナさぁん!、ちょっと手伝ってほしいんだが!?」
「ザルドと知らない女がキス…!?、しかもこんな街中で……これがラブコメってやつ!?」
「そんなラブコメあってたまるか!」
顔を赤らめて口元を手で抑えるその仕草は乙女そのものだが、今はその反応はいらない。
それよりも早く助けて欲しいとザルドが何度か声を上げるが妄想タイムのカリーナには届かず、どんどんリーゼの唇が近付いてくる。
「なぜそんなに拒むんだ?、私はお前の事を愛しているのに」
「一方的な愛ほど重いものはないし、そもそも俺がお前を好きではないからな!?」
「…………ツンデレか?」
「違うわ!?」
そんなこんなで更に力を入れてきたリーゼとの距離は互いに息がかかる程までになり、正直自分の口臭を気にはじめてしまう。
リーゼの目はマジであり、自分の息なんか気にならないと言わんばかりに近付けてくる。
どうして俺が出会う女はこんなに馬鹿が多いんだ。
「俺はツンデレじゃないし、お前の事は本当に嫌いで……って近い近い近い!!!」
ついにザルドの景色をリーゼの顔が覆い、柔らかそうな桜色の唇が目の前に迫ってきた。
リーゼの吐息が口元にかかり、息がしずらくなる。
ドクドクと速まる心臓の鼓動はトラウマから来るものか、それとも興奮しているのか、あるいは両方か…。
「ザルド……受け止めてくれ」
そして何も出来ずあたふたしている内に互いの唇はまた重なった。
今度はそれだけではなく、リーゼが舌を出し口を閉ざしているザルドの唇に押し当てている。
「うわうわうわうわ!!えっろ!?」
蚊帳の外のカリーナは更に顔を赤くしてチラチラと顔を覆った両手の隙間からこちらを覗いてくる。
「ザルド……はぁ…はぁ…ザルドぉ」
舌から溢れる唾液でザルドの唇が瞬く間にコーティングされていき、いつしか唾液でテカテカになっていた。
しかし、意地でも口を開けないザルドは目を瞑り、懸命にこのr18に耐えていた。
「……どうして答えてくれないんだ?」
そしてとうとう諦めたのか唇を離して、悲しそうな顔でこちらを見てくるリーゼは唾液で濡れた唇を拭った。
馬乗り状態なのは相変わらずだが、話を聞く気になってくれたのは好調だった。
「だから言ってるだろ? 俺はお前の事が好きじゃ……」
「あの女のせいか?」
「えっ?」
そうしてゆっくりと加尾を向けた先にはもんもんとしているカリーナの姿があった。
現在は妄想の世界であんなことやこんなことが起きているため、見られている事にも気付いていない。
「あの女がいるからザルド、お前は振り向いてくれないのか?」
「いや、違うけど」
場違いな解答に即答で否定したが、どうやらザルドの答えは関係ないらしい。
自分が好きな男と一緒にいる、これだけで理由は充分だった。
殺気の籠った視線をカリーナに向けているのがその証拠だ。
「あの女を殺せばザルドは……」
決断したリーゼは速かった。
ザルドの静止を聞く前に地面を蹴飛ばし、数十メートルの距離を疾風の如く駆け抜け、妄想の世界にいるカリーナの背後に回った。
「死ね」
冷たく放たれた死刑宣告はカリーナの頭を中段蹴りで吹き飛ばした。
アガン王国に響き渡る肌と肌がぶつかり合う音は、普通出せる音の範疇を越える程の威力を放ち、その衝撃が凄まじいことを物語っていた。
辺りの霧が吹き飛ばされ、カリーナが力なく倒れる。
勢いをつけたまま蹴った一撃は完全に相手を絶命させられる程のものであり、端から見てもカリーナの死は免れなかったであろう。
「えっ?…あっ……へっ?」
しかし、その蹴りは片手一つで止められていた。
突然のことで何が起きたのか理解していないカリーナは尻餅をついて言葉にならない言葉を並べるだけで精一杯だった。
「なんで?……ザルド」
掴まれた利き脚を見てリーゼは困惑していた。
自分は振り向いて欲しいがために邪魔者を消そうとしただけなのに、どうしてそれを邪魔するのかと。
「って思ってそうだから言ってやる」
尻餅をついているカリーナの後ろから手を伸ばし、顔に届きそうだった蹴りを止めたザルドが言った。
「カリーナは俺を信頼してくれた唯一の人だからだよ」
カリーナは友達で俺のことを信頼してくれた、性欲まみれのお前と違ってな。
そう後に付け加えると掴んだ手に力を入れて、そのまま身体を回転させて後方へと投げ飛ばす。
「…!?」
軽々と持ち上がる自分の身体に驚きを隠せないでいたリーゼは反応を一瞬遅らせ、そのまま受け身もろくに取れず投げ飛ばされた。
「はぁ……さてとこうなっちまえばこちらのもんだ」
パキッコキッ!と指を鳴らし、あからさまな威嚇をするザルドは一歩前へ出ると地面に倒れているリーゼを上から見下ろした。
「覚悟しろよ、歩く18禁野郎」




