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Arms Creator-アームズ・クリエイター  作者: 御子柴奈々
第3章 Qualia-Nature or Nurture-
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第90話 偽物-Artificial- 4

 世界大会。それは各国の代表達が集う、世界規模のクリエイターの国際試合。現代では、その知名度は他のどの大会よりも高い。


 そして、その大会の名は理想郷アルカディアと呼ばれている。誰もが目指す、理想の場所。クリエイターとして、その中でも選手アスリートとして生きるのならば誰もがたどり着きたい理想郷。だが、その場所にたどり着くだけで満足するものはいない。


 真の理想はその頂上にある。理想郷アルカディアで優勝した者だけが辿り着けるのだ。皆が求める理想の場所に。


 また優勝者には報酬が与えられるが、それを知るものは過去の優勝者以外いない。まるで誰かが情報を操作しているかのように、その詳細は全く知られていない。莫大な富か、名声、はたまた秘密結社への仲間入りなど様々な憶測が未だに飛び交う。



 そして、とうとう全世界が驚愕する理想郷アルカディアが開催されるのだった。





「おい、詩織! やっぱすごいな! 次で準々決勝じゃねぇか!」


「そうだね〜。でも、司君も同じでしょ?」


「そうだけどよ……高校時代のお前を知ってるとな、今こんなところにいるのが信じられなくてな〜。俺を含め、二人でこんなところまで来るとはな」


「まぁ、私は予定通りだけど〜、司君は意外だよね?」


「おい! 高校の時は五分五分だったろ!」


「そうだね〜、あはは!!!」



 選手控え室にいる二人はこうして他愛のない会話を繰り広げていた。そして、詩織は司の言葉を適当に流してその場から移動する。



「おい! どこ行くんだよ?!」


「ん? そりゃあ、試合を見るんだよ。次の試合で私と戦うことになる人は見ときたいしね。それに、このままいけば司君と当たるかもね」


「……そうだな」



 二人は控え室を出ると、そのまま選手用のモニタールームへと移動するのだった。




 今年も開催された理想郷アルカディア。すでに大会は終盤に入っており、準々決勝までトーナメントは進んでいた。



 日本代表で残っているのは3人。



 有栖川諒。石川司。そして、一ノ瀬詩織。



 詩織に関する懸念は大会前に散々飛び交っていたが今は見る影もない。これまではクリエイターの世界では近接武器こそが至高であり、最強だった。ユニーク系では勝てるわけがないと誰もが思っていた。だが、詩織はそれを覆してしまった。その圧倒的な力で。



 どの試合も完封。無傷の勝利。攻撃を受ける様子は微塵もない。一体どうすれば一ノ瀬詩織に勝てるのかと周りはささやき始めていた。



 だが、彼女が初めて苦戦する試合は悲しくも親友との試合だった――――





「司君……とうとうここまで来たんだね。私たち」


「そうだな。そして、今度こそ負けねぇ。俺も不完全ながら辿り着いたからな」


「ふふふ。私が特訓したおかげだからねぇ〜?」


「ふん、お前も俺で練習してただろうが」


「そうだね……」



 試合開始前に互いにCVAを展開しながらそんな話をするも、その始まりは唐突にやってくる。



「じゃあ、やろうか」


「おう」


「「――クオリア」」



 二人が同時にそういうと、互いの身体から大量の粒子が生じる。そして、詩織はそこから重ねて『ある』言葉を紡ぐ。



完全固有創造クオリア、完全開放。武器創造クレアツィオーネ……発動」



 その言葉を聞いた後、司はどうやって戦ったのか覚えていない。



 覚えているのは自分が何か扉のようなものを開けた感覚だけだった。





 § § §




「ははははは!!!! これこそが! 私たちが目指す場所! クリエイターの頂点!!!」



 アウリールは依然として興奮が収まらない。熱狂的なまでの歓喜。彼にとってクオリアがどれほどの価値を持つかは知らないが、司はそれを見ながら過去を想起する。



(は、余計なこと思い出しちまったぜ……詩織、お前は本物だ。そして俺は、結局どうしようもない出来損ないだ……)




 そして、粒子が収束すると司の傷は完全に治癒していた。だが、それ以外に変わった様子はない。それに疑問を覚えたアウリールは再び口を開く。




「おや? 外見に変化はありませんね? 完全到達者は何かしらの変化があると認識しているのですが……?」


「御託はいい。かかってこいよ」


「では、参りますよッ!!!!」



 憑依ベゼッセンハイトを発動している状態では、基本的なパフォーマンスが底上げされる。スピードは神速インビジブルに匹敵し、パワーは鬼化オーガを優に超える。特に右腕から繰り出される技はあらゆるVAをも凌駕する。


 そのため、司はボロボロになったのだが今回は違う。


 彼は意を決して、ある能力を発動したのだ。



未来予知プレディクション完全予測線テリオスライン完全領域フォルティステリトリー支配眼マルチスコープ俯瞰領域エアリアルフィールド痛覚消失アノルジィージア、発動」



 そして、司は『同時に6つもの』VAを展開。しかもどれもが高ランクのものである。



 その発動を知ることのないアウリールは、司のすぐそばまで迫っていた。




「ハアアアアアアッ!!!!!!!!」



 一閃。レイピアによる鋭い突きが司の頭部を狙うも、フランベルジュにより捌かれる。さらに重ねて突きを繰り出すも、すべて先読みされているかのように対処されてしまう。



 アウリールには先ほどの声は届いていないが、彼は気がついていた。相手が高ランクVAを同時展開しているのは間違いない。そうでなければ、ここまで対応されることはないはず。さらに、これは『完全』なクオリアではないことにも気が付いてしまった。



「……あなた、本物ではないですね」



 一旦距離をとったアウリールは先ほどの興奮とは逆に、冷静にそう尋ねるのだった。



「誰が本物って言ったよ……実際、俺がたどり着いた世界は……偽物アーティフィシャルだ。それでも、紛い物な俺でも知ってるんだよ。本当の強さの意味をな」



 司が辿り着いた先は、クオリアの根幹ではない。彼が辿り着いたのは未だに第一段階。そこから先はまだ届きえない領域。だが、強さとはどこに『至って』いるかではない。強さを決定付けるのは、本人の思考力と身体能力である。どこまでいってもそれは変わらない。物理的なパワーで力を示すものもいれば、その思考力でパワー以上の力を発揮するものもいる。



 要は使い方なのだ。有り余る力を制御できなければ、最高のパフォーマンスは発揮できない。一方で、足りない力でも使い方次第では潜在能力以上のパフォーマンスを発揮出来る。


 だからこそ、司は知っている。本当の強さとは何かを。そして、一ノ瀬詩織を見てきた彼はよく知っている。彼女の強さはクオリアに完全到達していることではない。クオリアを自分の制御下に置くこのできるあの精神力と自制心こそが強さの根幹なのだと。あとは些末な問題に過ぎない。



 彼はクオリアに辿り着いて知った。おそらく、自分はどれだけ努力しても今より先の段階には届かないかもしれない。ならば、今ある能力で戦い続けるだけだと。


 もう、迷いはない。あの頃のような劣等感もない。



 見据えるはただ一人。アウリールローゼンベルク。彼を殺すことだけ。他に何もいらない。その結果にたどり着くために身体と頭を動かせばいい。シンプルが故に、成すことも単純。



 本物か偽物かなどはどうでもいいのだ。それは主観的な問題である。要は強ければいい。相手を凌駕できる強さがあれば何でもいい。司はそう思っているが、アウリールは違う。



 彼はクオリアを崇高なものだと、神の領域にある事象であると、『今まで』そう思い込んでいた。いや、未だにそう思っているのは変わらないだろう。



 だが、目の前にいる男は圧倒的に足りない力でも自分に迫っている。自分の力を超えている可能性すらも垣間見える。それほどまでに、今の一連のやりとりで司の根幹にあるものを感じ取ったのだ。



 アウリールは初めて出会った。どこまでも諦めずに己を磨き続ける、真の礼を払うに値する人間に。





「……偽物と思いがっかりしましたが、それは私の勘違いだったようです。あなたは本物だ。その心のあり方が、どこまでも諦めない屈強な精神が。そしてその結果、私に対抗できる力を獲得している点において私はあなたに礼を尽くしましょう」



 どこまでも深い礼。今まではただの形式としての礼だったが、今回は心よりの賛辞をもっての礼。


 そして、それと同時にアウリールの力がさらに高まるのを司は感じた。



 互いにベストパフォーマンスに迫っているのは間違いない。この戦いももうすぐ終わる。そして、勝つのは自分だと互いに想いながら再び戦闘は始まる。



「そうか、なら紛い物の本当の強さを見せてやるよ……」



 長い戦闘の幕引きはもうすぐそこまで迫っていた。


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