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Arms Creator-アームズ・クリエイター  作者: 御子柴奈々
第3章 Qualia-Nature or Nurture-
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第89話 偽物-Artificial- 3

「やぁ、よく来たね二人とも」



 有栖川家専用のオフィスが入っているビルに、司と詩織はやってきた。ちなみに、茜は今日は仕事のため席を外している。



「諒さん、無理言ってすいません」


「初めまして、一ノ瀬詩織です」


 そう言って二人で頭をさげる。その様子を見た有栖川諒はすぐに頭を上げるように言うのだった。



「頭をあげなよ。今回の件は確かに急だけど、司の頼みだしね。それに司を完封したと聞いたら、こちら側としても興味があるよ……」



 値踏みするような視線。詩織はその視線を真っ直ぐ受け止める。彼女には一体何が見えているのか。一体、どこにたどり着きたいのだろうか。司はふとそんなことを考えるも、状況は進んで行く。



「まぁ、入りなよ。父に紹介するからさ」



 そう言って3人はビルの中へと入っていくのだった。



 3人がたどり着いたのは個人が持つにはあまりにも大きな書斎だった。現有栖川家当主の有栖川ありすがわかなめはこのオフィスにも私室を持っている。それも一フロア全てだ。



 そして、かなめは単刀直入に詩織に話しかける。



「一ノ瀬……詩織くんと言ったね?」


「はい。一ノ瀬詩織と申します」



 詩織は再び頭をさげる。他方の諒と司は黙ってその様子を見つめていた。





「君は至っているのかね……クオリアに」



 詩織はその言葉に動揺せずに真っ直ぐ相手を見つめながら答える。



「はい。私はおそらく世界初の完全到達者です」


「ほぅ……その根拠は?」


「脳を調べればわかると思いますが、私は知ってしまいました。クリエイターの根幹に。……そして至りました」


「なるほど。とりあえずその仮定を信じるとして……君はなぜ世界大会に出たいのだ? 何を欲している……?」



 先ほどまでと異なる厳しい視線。だが、詩織は狼狽えない。彼女はそのまま言葉を続ける。


「知りたいのです。自分の力を。力にはそれ相応の倫理と制御が必要です。今後、別の完全到達者が出てくるかもしれません。そして、そのクリエイターが善人とも限りません。だからこそ、私は世界で示したいのです。クリエイターの可能性を。後は……そうですね。単純に頂上に立つ景色を一度は見てみたいのです」



 にこりと微笑む彼女はまるで幼い子どものよう。そして、要は相手の言葉を理解すると途端に笑い始める。



「ははははははははははははは!!!! 長年追い求めてきた到達者がまさかこんな人物とは!!! はぁ、長生きしてみるものだね。いいだろう。では、その力を示してもらう。君が至っているのならば、そこにいる息子を圧倒できるはずだ。諒、いいか?」


「はい、構いません。元よりそのつもりです」



 有栖川諒。現在、日本リーグ一位。そして、世界ランキング4位。日本で最も強いとされているクリエイター。もちろん、日本代表に決定している。その彼と試合をするというのだ。



 司は先ほどの会話の内容がいまいちよくわからなかったが、有栖川諒に勝てるクリエイターがいるとは思えなかった。今まで何度か彼と戦ってきたからこそわかる。天才の中の天才とはこの人のことを言うのだと。若干17歳にしてプロリーグ入りし、3年後には日本でトップ3に入った正真正銘の天才。司も試合をしたことはあるが、一度も勝てたことはない。彼の能力は衰えるどころか、歳を重ねるごとに増していく。だからこそ、いくら強くなった詩織でも無茶ではないかと思っていた。



 だが、そんな考えは一蹴されてしまう。




 § § §




「……参った……完敗だよ。一ノ瀬さん、君は……本物だ」



 諒は片膝をつきながら、敗北を認める。



「……な!!? あれが詩織……!?」



 室外から試合を見ていた司は驚愕した。自分と戦ったときとは比べ物にならないほどの高次元の戦闘。だが、詩織はそれでも余力を残しているように見えた。一方の、諒は全身全霊を持って彼女に挑んだ。彼が手を抜くような男ではないことを司はよく知っている。


 しかし、結果は詩織の圧倒的かつ無慈悲なまでの勝利。詩織の強さはもはや自分の理解できる範疇を超えている。あれは誰なんだ。一ノ瀬詩織とは一体誰なんだ。



 司は高校時代の彼女と今の彼女の差に驚愕し、疑問を抱く。何をすればあそこまで強くなれるのか。何をどうすればあの高みに至れるのか。



 知りたかった。そして、彼女には負けたくないと思った。今、劣っているのは間違いない。でもいつか、いつか必ず追い越してみせると心の中で誓うのだった。




 そして、試合を見終えた有栖川要はそのまま室内へと入り、詩織に話しかける。




「見事だ。詩織くん。約束通り、君を日本代表の一員にしよう。現代表の一人を外し、その席に君にあげようじゃないか。なに、それぐらいの融通は利かせるさ。私としても楽しみなのだよ、完全到達者がどこまでいけるのかね……君の活躍を楽しみにしている」



「……ありがとうございます。私も自分の限界に挑戦してみようと思います」



 お辞儀をする彼女は息ひとつ乱れていない。また、服に汚れひとつ存在しない。さらに、圧倒的なまでの勝利を手に入れた彼女はそれに慢心することはない。まるで、日常生活の一部で言わんとばかりの行動。詩織にとって誰かに勝つことはもはや喜びではなくなっていたのだ。



 こうして詩織は日本代表の座を勝ち取った。そして、彼女は世界覇者へと徐々に近づいていく。





 § § §




「クッソおおおおおおお!!! マジでどうなってんだよ!!!!」



 一ノ瀬詩織の突然の日本代表入りには様々な憶測が飛び交った。あの有栖川要の直々の指名。噂に尾ひれが付き、彼女に関しては様々な記事まで作られた。だが、今はそんなことはどうでもよかった。世界大会まで残り3ヶ月。詩織は昔のように毎日、司と模擬戦をしていたのだった。



 しかし、模擬戦と言っても詩織は圧倒的。CVAを展開するまでもなく相手の攻撃をかわし続ける彼女は微笑ましい目線を司に向ける。



「ふふふ。司君、強くなっても……変わってないんだね」


「はぁ? まぁ、いつも全力なのに変わりはねぇさ。それよりも! 今日こそは聞かせろよ!! 何があってそんなに強くなったんだよ!!??」



「司君には……そうだね……詳しくは言えないけど、話しとこうかな」



 司はそう言う彼女の目を見て期待すると共に、猜疑心が生まれていた。どこまでも闇の深い目。まるで何かに取り憑かれたかのような悲しい目を最近よく見てきた。



 そして、語られる。この五年間の、一ノ瀬詩織の軌跡が――――――






「ま、まじかよ……詩織お前……」


「全部本当だよ。司君も、私のように強くなりたいならクオリアに至らないと。あの領域に届いているか、いないかでは戦闘の次元が違うからね」



 詩織は依然、悲しそうな目で事実を淡々と語る。そして、司は理解してしまった。彼女がどうしてここまで強くなったのかを。どうしてその強さに悲しんでいるのかを。



「司君は、もう少しで届くと思うよ。完全到達者はまだ遠いけど、不完全な形でなら入り口は見えてるはずだよ? それに有栖川諒さんは、不完全到達者だね。試合してよくわかったよ」


「詩織……俺は……」



「もう! そんな辛気臭い顔しないでよ!! デリカシーのなさが司君のいいとこでしょ!!!」



「なんだよそれ!!!」


「あははは! やっぱり司君は司君だね!!」


「おい! なんだよその含みのある言い方!!!」



 二人は5年ぶりに心から笑うのだった。その姿は高校時代そのもの。この5年で互いに色々あった。だが、やはり親友なのは変わりなかった。詩織はその事実をしみじみと噛みしめると笑いながら涙を流すのだった。





「それで、本当にやるの?」


「あぁ。俺もたどり着いてみせるさ」


「力には、それ相応の倫理と抑制が必要。巨大な力に呑まれてはいけない。それはわかってるよね?」


「もちろんだ。クリエイターの力は誰かを虐げる為に使うものじゃない。誰かに夢と希望を与えるような、そして、誰かを守るための力だ」


「うん、それなら安心だよ。そもそも司君のことは信頼してるしね。じゃあ、始めるよ? 泣き言、言わないでよね」


「あぁ、世界大会までに至ってみせるさ。クオリアに、な」




 司はこうしてクオリアに、そして己自身と戦うことになるのだった。

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