第六章 もう一つのご縁
第六章 もう一つのご縁
最初のお見合いが成功してから、「乙女婚」の雰囲気は少し変わった。
「私にも合う人はいますか?」
「次はどんな方を紹介していただけますか?」
会員たちは、少しだけ前向きになっていた。
乙葉は改めて会員プロフィールを見直した。
年齢や年収だけでは決めない。
趣味だけでもない。
「この人となら、自然体でいられるか。」
それが乙葉の基準だった。
今回紹介するのは、三十五歳の会社員・直樹と、三十三歳の看護師・彩香だった。
どちらも真面目で責任感が強い。
しかし、最初の面談では同じことを口にしていた。
「自分に自信がありません。」
お見合いの前日、直樹から電話が入った。
「神崎さん、本当に僕で大丈夫でしょうか。」
「何が心配ですか?」
「話があまり得意じゃないんです。」
乙葉は微笑んだ。
「話し上手である必要はありません。」
「え?」
「聞き上手の方が、相手は安心します。」
電話の向こうで、小さく笑う声が聞こえた。
「それなら、少し気が楽になりました。」
その夜、今度は彩香からメッセージが届いた。
『明日、何を着て行けばいいでしょうか。』
乙葉は少し考えて返信した。
『一番お気に入りの服を着てください。相手に合わせるより、ご自分らしくいられることが大切ですよ。』
すぐに返事が来た。
『ありがとうございます。少し緊張が和らぎました。』
翌日、お見合いは静かなカフェで行われた。
乙葉は二人を紹介すると、席を外した。
一時間後。
「ありがとうございました。」
二人とも笑顔で店を出てきた。
その表情だけで、乙葉には十分だった。
翌日、交際希望の返事を待っていると、二人からそれぞれ相談が届いた。
直樹は言った。
「話は楽しかったんですが、僕なんかでいいのかなと不安で……。」
一方の彩香は少し照れながら話した。
「優しい方でした。でも、私に興味がなかったんじゃないかって心配なんです。」
乙葉は思わず笑ってしまった。
「実は、お二人とも同じことをおっしゃっていますよ。」
「え?」
もちろん、相談内容そのものを伝えることはしない。
守秘義務は、結婚相談所の命だからだ。
それでも乙葉は、それぞれにこう伝えた。
「相手も緊張しています。最初から完璧な人はいません。」
「大切なのは、もう一度会ってみたいと思えるかどうかです。」
その日の夕方。
二人から交際希望の連絡が届いた。
乙葉は交際成立の通知を送りながら、小さくつぶやく。
「恋は、勇気の積み重ねなんだ。」
結婚相談所の仕事は、ただ人を引き合わせることではない。
迷い、不安になり、一歩を踏み出せない人の背中を、ほんの少し押してあげること。
乙葉は少しずつ、その役割を理解し始めていた。
紹介者ではなく、人生の伴走者として。




