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第五章 最初のお見合い

第五章 最初のお見合い


料金を改定してから、一週間。


乙葉は毎朝、ホームページの問い合わせフォームを開くのが日課になった。


「新規相談 一件。」


「資料請求 二件。」


数字は決して多くない。


それでも、ゼロではなくなった。


乙葉は料金を世間相場よりも低く設定していた。


「始めやすい婚活。」


それが「乙女婚」の新しいコンセプトだった。


高額な入会金や毎月の費用が負担となり、一歩を踏み出せない人にも利用してほしい。


その代わり、一人ひとりと丁寧に向き合う。


会員数だけを追い求めない。


小さくても、温かい結婚相談所を目指した。


口コミも少しずつ広がり始めた。


「話をよく聞いてくれる。」


「無理に相手を勧めない。」


「初めて婚活が楽しいと思えた。」


そんな感想がSNSに投稿されるようになった。


開業から三か月。


会員は三十人を超えていた。


男性十五人。


女性十六人。


年齢は二十四歳から四十二歳まで。


会社員、看護師、公務員、保育士、システムエンジニア、料理人、教師。


一人として同じ人生はなかった。


ある日、乙葉は会員データを見ながら、ふと手を止めた。


三十二歳の高校教師・健太。


二十九歳の保育士・美咲。


どちらも穏やかな性格で、子どもが好き。


休日は読書と散歩。


結婚後は温かい家庭を築きたいという希望まで、よく似ていた。


「もしかしたら……。」


乙葉は二人に連絡を入れた。


「一度、お会いしてみませんか。」


数日後。


ホテルのラウンジ。


約束の時間より十分早く、二人とも席に着いていた。


緊張した表情で、お互いに軽く頭を下げる。


乙葉は笑顔で言った。


「今日はありがとうございます。」


「お二人とも、まずは気軽にお話ししてください。無理に結論を出す必要はありません。」


そう言って席を立つ。


振り返ると、ぎこちなかった二人は、好きな本の話をきっかけに少しずつ笑顔になっていた。


乙葉はラウンジの外から、その様子を静かに見守る。


「頑張って。」


心の中で、そっとつぶやいた。


これが、「乙女婚」初めてのお見合いだった。


夕方、二人からほぼ同じ内容の連絡が届いた。


「またお会いしたいです。」


乙葉は思わず机を軽く叩いた。


「やった……。」


誰もいない事務所で、小さくガッツポーズをする。


お見合いが成立しただけで、結婚が決まったわけではない。


それでも、二つの人生が出会った。


その最初の一歩をつくることができた。


乙葉は日記に書き記した。


『今日、「乙女婚」から初めてのご縁が生まれた。結婚相談所の仕事は、運命を決めることではない。運命が始まる扉を、そっと開くことなのだ。』

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