表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/16

第四章 無料では続けられない

第四章 無料では続けられない


開業から二か月。


乙葉は毎月の収支表を見つめていた。


事務所の家賃。


光熱費。


インターネット回線。


広告費。


交通費。


文房具代。


毎月、銀行口座からお金が消えていく。


一方で、入ってくるお金は、ほとんどない。


開業当初、乙葉は「まずは多くの人に利用してもらいたい」と考え、入会金も相談料も無料にしていた。


「お金が理由で婚活を諦めてほしくない。」


その思いに、嘘はなかった。


しかし、現実は厳しかった。


通帳の残高は百万円から、七十万円台まで減っていた。


このままでは半年も持たない。


ある夜、事務所で一人、電卓を叩いた。


何度計算しても答えは同じだった。


「無料では、続けられない……。」


その言葉を口にした瞬間、胸が痛んだ。


お金を取ることに、後ろめたさがあった。


「幸せをお金に換えるみたい。」


そんな思いが、心のどこかにあったからだ。


翌日、乙葉は尊敬する元上司に相談した。


「会費をいただくのが怖いんです。」


元上司は少し笑って言った。


「乙葉さん。パン屋さんはパンを売る。美容師さんは髪を切る。医師は診察をする。どれも、人の役に立つ仕事だから対価をいただくんだ。」


「でも、結婚って、お金で買うものじゃありません。」


「もちろんだ。でも、結婚相談所が売るのは結婚そのものじゃない。出会いの機会と、あなたの時間、経験、そして責任だ。」


乙葉は黙って聞いていた。


「無料では、責任も続かない。本当にみんなを幸せにしたいなら、まず相談所が潰れないことだ。」


その言葉は、胸の奥に深く残った。


数日後、ホームページを更新した。


入会金 10,000円


月会費 5,000円


お見合い料 無料


成婚料 50,000円


画面の「公開」ボタンを押す指は、小さく震えていた。


「これで、お客さんが誰も来なくなったら……。」


そんな不安が頭をよぎる。


だが、その日の午後、一人の女性から電話が入った。


「ホームページを見ました。」


「料金を見て、安心しました。」


「無料だと少し不安だったんです。本気でサポートしてくれる相談所を探していました。」


電話を切ったあと、乙葉は静かに目を閉じた。


お金をいただくことは、人を遠ざけることではない。


責任を引き受ける覚悟を示すことでもある。


乙葉は事務所の壁に掲げた理念を見上げた。


『みんなを幸せにする結婚相談所。』


その言葉は変わらない。


変わったのは、その理念を守り続けるための方法だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ