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第二章 最初の会員を探して

第二章 最初の会員を探して


「結婚相談所を始めました。」


その一文をSNSに投稿した。


写真は、小さな事務所の入り口。


新品の看板と、中古の机。


フォロワーは三百人ほどしかいない。


「頑張って!」


「応援しています!」


「相談だけでもいいですか?」


「紹介できます!」


少しずつ「いいね」が増えていく。


画面を見ながら、乙葉は小さく拳を握った。


「ゼロじゃない。」


翌日は高校の同窓会グループにメッセージを送った。


「結婚したい人や、婚活で悩んでいる人がいたら紹介してください。」


大学時代の友人にも連絡した。


会社員時代の同期や先輩にも頭を下げた。


「営業か。」


友人に笑われた。


「うん。人生で一番大切な営業。」


紹介してもらえれば、一人ひとりに直接会う。


話を聞く。


夢を聞く。


悩みを聞く。


まだ入会しなくてもいい。


まずは知ってもらうことが大切だった。


土曜日。


駅前でチラシ配りを始めた。


「結婚相談所です。無料相談を行っています。」


通勤客は足を止めない。


学生は照れ笑いを浮かべる。


カップルは手をつないだまま通り過ぎる。


一時間で受け取ってくれたのは十五人。


二時間で三十七人。


冬の風が冷たい。


指先の感覚がなくなる。


それでも乙葉は笑顔を崩さなかった。


「ありがとうございます。」


その笑顔を見て、一人の女性が戻ってきた。


「あの……。」


三十歳くらいだろうか。


「本当に、相談だけでもいいんですか?」


乙葉は大きくうなずいた。


「もちろんです。」


その女性は、乙葉の最初の相談予約になった。


その夜。


事務所で一人、白い紙に大きく書く。


どんな結婚相談所にしたい?


高級でもない。


会員数だけを誇る相談所でもない。


成婚率だけを競う相談所でもない。


乙葉は何度もペンを走らせ、最後に一文だけを残した。


「みんなを幸せにする結婚相談所。」


それが、この会社の理念になった。


会員だけではない。


家族も。


友人も。


生まれてくる子どもたちも。


結婚という一つの出会いから、たくさんの幸せが広がっていく。


そんな場所をつくりたい。


乙葉は、その言葉を額に入れ、事務所の壁へ掛けた。


翌朝、事務所に差し込む朝日が、その文字を静かに照らしていた。


「みんなを幸せにする結婚相談所。」


それは創業以来、決して変わることのない「乙女婚」の約束となった。

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