表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/16

第十四章 自信のない青年

第十四章 自信のない青年


乙女婚の相談室には、さまざまな人が訪れる。


大企業の社員。


医師。


公務員。


経営者。


しかし、乙葉が大切にしているのは、肩書きや収入だけではなかった。


ある日の午後。


一人の男性が、ゆっくりと相談室のドアを開けた。


名前は、田中翔太。


三十二歳。


派遣社員として工場で働いていた。


「すみません……。」


席に座る前から、何度も頭を下げる。


乙葉は優しく声をかけた。


「どうぞ、緊張しなくて大丈夫ですよ。」


翔太は小さくうなずいた。


「結婚したいと思っています。」


「でも……。」


少し間を置いて、続けた。


「僕みたいな人間を選んでくれる女性なんて、いないと思うんです。」


乙葉は黙って話を聞いた。


翔太の月収は決して高くなかった。


派遣契約で働いているため、将来への不安もある。


友人たちは結婚し、家を買い、家庭を築いている。


SNSを見るたび、自分だけ取り残されたような気持ちになった。


「婚活サイトを見ても、年収を書く欄で諦めてしまいます。」


翔太は苦笑した。


「女性は、やっぱり年収を見るんですよね。」


乙葉は静かに答えた。


「もちろん、生活を考える上で収入は大切な条件の一つです。」


「でも、結婚生活に必要なのは、それだけではありません。」


翔太は顔を上げた。


「それだけではない?」


「はい。」


乙葉は続けた。


「約束を守ること。」


「相手を思いやること。」


「困った時に一緒に考えること。」


「毎日の小さな幸せを大切にすること。」


「それができる人を探している女性も、必ずいます。」


翔太はしばらく黙っていた。


「でも、僕には自信がありません。」


乙葉は微笑んだ。


「自信があるから結婚できるんじゃありません。」


「誰かと一緒に成長したいと思える人が、結婚に向いているんです。」


その日、翔太は入会を決めた。


プロフィールには、乙葉が提案した文章を載せた。


真面目に働くことを大切にしています。

派手な生活はできませんが、家では笑顔の多い家庭をつくりたいです。


数週間後。


翔太に一人の女性会員を紹介した。


二十九歳の介護職員、美奈だった。


美奈もまた、自分に自信がない女性だった。


「仕事柄、人の世話ばかりで、自分が幸せになっていいのか分からなくて。」


二人は初対面で、意外なほど自然に話ができた。


好きな料理。


休日の過ごし方。


将来住みたい場所。


豪華な話はなかった。


でも、二人は何度も笑った。


交際から一年後。


乙葉のもとに、翔太から連絡が届いた。


「神崎さん、結婚することになりました。」


電話の向こうの声は、以前とは違っていた。


「僕でも誰かを幸せにできるんだって、初めて思えました。」


乙葉は目を細めた。


「翔太さん、最初からそういう人でしたよ。」


結婚式の日。


乙葉は小さな会場の後ろの席で、新郎新婦を見守った。


派手な演出はない。


大きな指輪もない。


でも、二人の笑顔は本物だった。


帰り道、乙葉は日記に書いた。


『幸せは、条件の先にある。人は誰かを大切にする力を持っている。その力を信じることが、私たちの仕事なのだ。』


乙女婚がつないだ縁は、また一つ家族へと変わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ