表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/16

第十三章 乙葉自身の幸せ

第十三章 乙葉自身の幸せ


乙女婚を創業してから、七年。


二十八歳だった乙葉は、三十五歳になっていた。


会社は全国十二支店。


社員も百名を超えた。


数えきれないほどの男女が乙女婚を通じて出会い、結婚し、新しい家庭を築いていった。


しかし、そんな乙葉自身の人生はどうだったのか。


周囲から、何度も聞かれた。


「社長は結婚しないんですか?」


「人の縁ばかりつないで、自分の縁はどうするんですか?」


そのたびに乙葉は笑って答えていた。


「いつか、良いご縁があれば。」


でも、本当は少し怖かった。


人の恋愛相談には何百回も向き合ってきた。


相手を思いやること。


気持ちを伝えること。


一歩踏み出す勇気。


誰よりも知っているつもりだった。


それなのに、自分のことになると迷ってしまう。


そんな乙葉の前に現れたのは、企業交流イベントで知り合った男性だった。


名前は、蓮見亮介。


四十歳。


地域企業の経営者。


最初の出会いは、仕事の打ち合わせだった。


「乙女婚さんの考え方に興味があります。」


「結婚は会社が決めるものではなく、人が選ぶものですよね。」


その言葉に、乙葉は少し驚いた。


自分と同じ考えを持つ人がいる。


何度か仕事で会ううちに、二人は少しずつ話をするようになった。


仕事の悩み。


将来の夢。


失敗した経験。


誰にも言えなかった不安。


ある夜、亮介が言った。


「乙葉さんは、いつも誰かの幸せを考えていますね。」


「でも……。」


彼は少し間を置いた。


「乙葉さん自身の幸せも、大切にしてほしいです。」


その言葉に、乙葉は黙った。


今まで誰かに言われたことのない言葉だった。


数か月後。


二人は小さなレストランで向かい合っていた。


亮介は緊張した表情で、小さな箱を取り出した。


「乙葉さん。」


「これから先の人生を、一緒に歩いてくれませんか。」


乙葉は笑いながら、少し涙を浮かべた。


「私、結婚相談所の社長なのに……。」


「自分のことになると、こんなに緊張するんですね。」


二人は笑った。


そして、乙葉はゆっくりとうなずいた。


「はい。」


その夜、乙葉は久しぶりに創業時の日記を開いた。


二十八歳の自分が書いた言葉。


『みんなを幸せにする結婚相談所。』


乙葉は、その下に新しい一行を書き加えた。


『私も、幸せになっていい。』


翌朝、社員たちへ婚約を報告すると、事務所には大きな拍手が起こった。


「社長、おめでとうございます!」


「ついに社長の番ですね!」


乙葉は照れながら笑った。


これまで多くの人の背中を押してきた。


今度は、自分自身が幸せへの一歩を踏み出す番だった。


二十八歳の乙女が始めた小さな相談所。


その物語は、誰かの幸せだけではなく、乙葉自身の幸せへもつながっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ