第十二章 国から届いた相談
第十二章 国から届いた相談
乙女婚が全国へ支店を広げ始めた頃。
ある日の朝、本社に一本の電話が入った。
「総務省の地域政策担当の者ですが、神崎社長はいらっしゃいますか。」
受付を担当していた社員は驚いた。
「少々お待ちください。」
乙葉に電話がつながる。
「総務省……ですか?」
一瞬、聞き間違いかと思った。
しかし、相手は確かに国の担当者だった。
「突然のお電話で失礼いたします。御社の取り組みについて、少しお話を伺いたくご連絡しました。」
乙葉は背筋を伸ばした。
「私たちのような小さな民間企業に、なぜ……。」
担当者は答えた。
「地域の独身者への支援、企業間交流、幅広い年齢層への婚活支援。その取り組みが、少子高齢化対策の一つの参考になるのではないかと考えています。」
その言葉を聞き、乙葉は静かに息を吐いた。
創業当初。
資本金百万円。
古いビルの一室。
会員募集のため、駅前でチラシを配った日々。
赤字に苦しみ、無料サービスから有料化を決断した日。
すべてが走馬灯のようによみがえった。
数週間後。
乙葉は総務省の会議室にいた。
以前なら緊張で言葉が出なかったかもしれない。
しかし、今は違った。
目の前にいるのは役人ではなく、自分たちと同じように「人の幸せ」を考える人たちだった。
担当者が質問した。
「御社が大切にしていることは何でしょうか。」
乙葉は迷わず答えた。
「結婚することだけを目的にしないことです。」
「まず、人と人が出会い、自分らしくいられる相手を見つけること。その先に家庭や未来があるのだと思っています。」
さらに続けた。
「少子化という数字だけを見ると、人は数字に見えてしまいます。でも、一人ひとりには人生があります。」
会議室は静かになった。
「結婚したいけれど出会いがない人。」
「仕事が忙しく、きっかけを失った人。」
「一度傷ついて、もう一度幸せを探している人。」
「年齢を理由に諦めていた人。」
「私たちは、そういう人たちの最初の一歩を支えてきました。」
担当者は大きくうなずいた。
「行政だけでは届かない部分があります。民間の力を借りながら、地域全体で支える必要があります。」
その後、乙女婚は自治体や企業と連携し、地域交流イベントや婚活支援事業への協力を始めることになった。
帰り道。
乙葉は駅のホームで、創業時の日記を開いた。
最初のページには、震える字で書かれていた。
『みんなを幸せにする結婚相談所をつくる。』
二十八歳の自分が書いた夢。
あの頃は、それが国の課題につながるなど考えもしなかった。
乙葉は空を見上げた。
結婚は、ただ二人の問題ではない。
家族をつくること。
地域をつくること。
未来をつくること。
小さな相談所から始まった挑戦は、いつしか社会全体の未来を考える仕事になっていた。




