第十一章 ひとりでは届けられない幸せ
第十一章 ひとりでは届けられない幸せ
開業から二年。
「乙女婚」の名前は、地域で少しずつ知られるようになっていた。
個人会員の紹介。
企業間交流イベント。
成婚した会員からの口コミ。
小さな相談室から始まった会社は、毎月多くの相談者が訪れる場所になっていた。
しかし、乙葉には新しい悩みが生まれていた。
「時間が足りない……。」
朝から夜まで面談が続く。
新規会員の相談。
交際中の会員のフォロー。
お見合いの調整。
企業との打ち合わせ。
一人でできることには限界があった。
ある夜、事務所に残っていた乙葉は、創業時から使っている机を見つめた。
資本金百万円。
社員一人。
あの日から、ここまで来た。
でも。
「もっと多くの人を幸せにしたい。」
その思いがあるなら、自分一人で抱えてはいけない。
翌週、求人を開始した。
募集職種。
結婚アドバイザー
仕事内容。
会員の相談対応。
プロフィール作成のサポート。
お見合いの調整。
交際中のフォロー。
必要なのは、営業経験よりも人の話を聞く力。
乙葉は求人ページにこう書いた。
「人の幸せに寄り添う仕事です。」
応募者の中には、意外な人物もいた。
元ホテルスタッフ。
元保育士。
元銀行員。
元営業職。
共通していたのは、人と関わる仕事が好きだったことだった。
面接で乙葉は必ず同じ質問をした。
「あなたにとって、結婚相談の仕事とは何だと思いますか。」
ある女性応募者は答えた。
「相手を探す仕事ではなく、その人が幸せになる未来を一緒に考える仕事だと思います。」
その言葉を聞いた瞬間、乙葉は採用を決めた。
新しい仲間が増えた。
三人。
五人。
十人。
「乙女婚」は、少しずつ組織になっていった。
そして、次の挑戦が始まる。
第一号支店の開設。
場所は、隣県の中心都市。
開店の日。
新しい店舗の看板が取り付けられた。
乙女結婚相談室 ○○支店
開店祝いの花が並ぶ。
以前なら、乙葉一人でその準備をしていた。
しかし今は違う。
スタッフたちが笑顔で動いている。
「社長、準備できました。」
そう呼ばれた瞬間、乙葉は少し不思議な気持ちになった。
社長。
最初は百万円の資本金と、小さな部屋だけだった。
それが今では、人の人生を支える仲間がいる。
乙葉はスタッフ全員に伝えた。
「私たちが提供するのは、ただの紹介サービスではありません。」
「一人ひとりの人生に関わる仕事です。」
「だから、数字より先に、人を見てください。」
社員たちは真剣な表情でうなずいた。
支店展開は始まったばかり。
東京、大阪、名古屋、福岡。
夢はまだ遠い。
それでも乙葉には確信があった。
一人では届かなかった幸せも、仲間がいれば、もっと遠くまで届けられる。
「みんなを幸せにする結婚相談所。」
創業時に掲げた小さな理念は、今では会社全体の使命になっていた。




