7・夜会という名の狩場へ
デルフィナがハーレムへ嫁ぐことを知ったのは、18才になる7日前だった。聞いてすぐに玉座の父へ直訴したが…。
花も位負けする、妖艶なるデルフィナ姫は、謁見の間から自室に戻るなりアルベルトに厳命した。
「アルベルト、お前、囮になりなさい」
キタ。さっきのタフな令嬢探し、本気でするつもりか。
だがアルベルトにも思惑がある。こんな千載一遇のチャンス、逃すわけには行かない。
「今度は何ですか。我が誉高きデルフィナ姫」
「白々しい。令嬢探し、するわよ」
「我らが王国の麗しき花よ、なぜそんなにもハーレムを嫌がるのです?」
「嫌なものは嫌なのよ」
この駄々っ娘め…。小さい子どもみたいな言い方じゃ、誰も納得しねぇよ。なにがそんなにも嫌なんだ?確かに政略結婚としては異色…かもしれないが。
「ハーレムの主はなかなかのイケメンで、まだ若いと聞きますが」
「そういう問題じゃないわ。…次の議会会合はいつだったかしら?」
まさかのスルー!本気で嫌なのか…?しかしどういう問題なのか。
部屋は人払いがされており、残るのはアルベルトと侍女二人…筆頭侍女のパトリシアと次席侍女のフロラのみ。
パトリシアが答える。
「我らが愛すべき花、デルフィナ姫、七日後でございます」
「分かったわ。参加予定者の詳細を一番良く知るのは?」
「宰相様か騎士団の副官カルロス様かと」
それからの七日間ほぼ全て、デルフィナはカルロスに付きまとい、参加者の中から候補者のリストを作成し、対策に明け暮れていた。今度の議会会合後に開かれる夜会で、獲物を確実に釣り上げるのだ。
姫は本気だ…。開催される夜会は、姫の誕生祝いも兼ねていることを忘れるくらい、本気だ。このままでは負ける。何としてでもデルフィナ姫その人にハーレム入りして頂かなければならない。他のご令嬢ではダメだ。
アルベルトも本気を出すことにした。勤務後の夜中、ベテダビド宰相の執務室を密かに訪れる。
ロウソクの灯されたテーブルを挟んで、アルベルトより小柄な宰相は、深夜の面会者を待ってくれていた。
「ご用件は姫のハーレム入りですかな」
「ご賢察恐れ入ります」
明かりを反射してか、宰相の目がきらきらと光っている。
「ふふ。夜中にイケメンと会うのは、何やら噂が立ちそうですな」
「覚悟の上です」
長くてたっぷりしたヒゲの宰相は、ふふふと笑う。この宰相、一見好々爺だが国の財政を一手に握り、汚職なく回す凄腕ジジイである。
「ご安心召されよ。すでに手は回しております。デルフィナ姫には必ず、アサフラン国へ嫁いで頂きます」
アルベルトは深く息を吐いた。心の奥を締め付けていた鎖が緩んだようだ。安心が湧き出てくる。
「感謝、いたします」
しばし宰相の確約に浸る…。いやいや待てよ、まだだ。
「姫の説得は、いかがされますか。私から致しましょうか?」
姫の心を変えられる自信など、全くないが。
宰相は柔らかい目線のまま、ヒゲを撫でつけた。なぜか得意気に見える。
「王妃様がされるとのことです」
アルベルトは今度こそ、心の底から安堵した。
良かった…。王妃様が出陣なさるなら、何も敵ではない。
そうなると、やはり気になる。目の前の賢者に問うてみる。
「ハーレムは…そんなにも嫌なものなのでしょうか」
「まぁ、女性の望みとは異なりますからな」
「と言いますと」
「男は多くの花から求められたいもの。女はただ一人の男に愛されたいもの。
デルフィナ姫は、ああ見えて情の深いお方です。ハーレムに赴かれる際は、並々ならぬお覚悟をされてのことでしょう」
アルベルトはロウソクの灯越しに宰相を尊敬の眼差しで見た。
あのデルフィナ姫の本質をご存知とは…さすが宰相殿。そうなんです、デルフィナ姫は苛烈ながら、侍女達からは大変に慕われていて…。あれ、待てよ。苛烈なのは俺にだけかもしれない…。
目線を下げ思い悩むアルベルトを、宰相は優しく見守っていた。
こうして迎えた夜会の日。
デルフィナ姫は、いつもより控えめな出立ちで臨む。普段は、どんなに着飾らせても着こなしてしまうため、侍女達が喜んで飾り立てているが、今日はシンプルそのものだ。
「今日のデルフィナ姫様も、素敵ですわ…」
仕上がった姫を見て、侍女達はうっとりと声に出す。
アルベルトは姫の斜め後ろで護衛業務を務めながら思い巡らせていた。
なるほど、飾りを減らすと素材の良さが際立つのか…何をしても厄介だな。結局ひと目を惹きつける、この姫を蹴落としてハーレム入りしようなんて女傑、いるのか?あ、いたな。あの勘違い娘ならあるいは…。だが出席は阻止したはず。
宰相が家庭内のゴタゴタ解消を優先せよと、あの娘の父親に命じられたからな。
それにしても今日のベール、短いな。背中までしかない。歩くたびに翻って、うなじがチラ見え…ほら男どもの視線…!散れ!
今日の作戦とやらを実行するには、姫が無防備すぎやしないか。次席護衛騎士のナチョに任せて大丈夫なものか…。
姫から離れると団長にドヤされる。姫の思い通りにならないよう、立ち回ると姫に怒られる。俺の理不尽な夜は、これからだな…。
我知らず憂いを帯びるアルベルトは、そのお陰で自分の色気が増してるなどとは夢にも思わない。
こうしていつもより艶が増した主従は、夜会が開かれる広間へ足を踏み入れた。




