4・ドワーフっぽい鍛冶屋にて
アルベルトは走った。日曜日に開いてる店を探して。
「え、結婚指輪を今日中に作れって?それ詐欺じゃないのか?」
やっと見つけたフディオの鍛冶屋に飛び込む。フディオは生活リズムが違う。こんな日の無茶振りに応えてもらうにはフディオしかいない。
一軒目の鍛冶屋兼金細工屋で、受けてくれそうな気配がする。
この首飾りを今日中に指輪にしてください!と頼み込むアルベルトを面白がって、工房長の息子が手を挙げてくれた。息子といってもアルベルトの父親くらいの年恰好だ。
「へぇ、女のワガママ。アンタも気の毒だ。結婚前から尻に敷かれてるじゃないか」
偽装結婚を強要されて、それ用の指輪なんです、とはもちろん言えない。
首飾りは、何だか首輪に見えなくもない…。女の子に贈るような品かしばし悩む。下手な彫金で何か文字が彫ってある。読んでみて寒気がした。
全体的にゴツく、重い。金で出来ているからだろう。指輪にするには、十分すぎる量がある。指輪に使った残りを二等分し、支払いとアルベルトのヘソクリに当てることにした。それぐらい許可してくれないと、腹の虫が治らない。
「外見は良いんだよ」
「ますます詐欺っぽい」
小柄な金細工職人はカカと笑う。
首輪はるつぼの中でくったりと溶けているところだ。
あの気持ち悪い刻文も早く熔けろ。“私は……様のモノ”
キモい!14才の子どもに何てモノ贈ってんだ!!
「惚れた弱みか?」
「いや、違うな」
「アンタほどの男なら、選びたい放題だろうに」
「……ままならぬものなんだよ」
「そりゃ結婚の極意だ!」
長いヒゲの息子オヤジは爆笑してから、
「作り直したくなったら、また来なよ」
指輪の影も形も出来てない内から、別れる未来を慰めてくれた。
蜂蜜よりも強く輝く溶けた金を、砂で作った指輪の型に流しこむ。長いヒゲが熱いアレコレに付かないか、ヒヤヒヤしながら見守る。
残りはきっちり半分こだ。製作上出てくるカケラは息子オヤジ殿がウインクして返してくれた。カケラでも金。
「何か刻むか?」
「何かとは?」
「そりゃアンタ、新妻の名前とか、家庭不和防止の呪いとか」
型から外した幅広肉厚な指輪の表面を槌で打って滑らかにしながら、息子オヤジは提案してくれた。
新妻…架空の妻の名前、考えてなかった。城にいる女性の誰とも被らない名前なんて、あるのか?姫の名前とか…?イヤだ!
「なにも無しで!」
「じゃあせめて幸運の呪い、刻んでやるよ。詐欺でもイイことあるように」
長ヒゲ息子オヤジは詐欺だと思い込んでいるようだ。まぁ、否定はしない。アルベルト自身、なぜこんな熱い工房で指輪の製作工程を見守っているのか、未だに腑に落ちない。
「オヤジ殿…感謝する」
「なぁに、すごい料金もらったからな。おまけだよ」
そう言ってニッと笑う長ヒゲオヤジに、いつか本物の結婚指輪は、ここで注文しようと密かに誓ったアルベルトだった。
帰り際、工房の男たちから口々に「がんばれよ」「幸運がアンタにあるように」「きっと良いとこ、見つけられるさ」
と励まされたのは余計なお世話…だが、ささくれた心には有り難かった。
翌日早々に、アルベルトの薬指に光る指輪を見て、デルフィナ姫はご機嫌だった。
あの妙に不愉快な首飾りを潰して作ったようには見えまい。
「なかなか良い槌目の指輪じゃないの」
「早くて良い仕事ぶりでした」
「必ず指に嵌めておくように」
アルベルトは、ここぞとばかりに苦情を申し立てる。
「剣を握るのに邪魔です」
この小娘め…。さぁ、どう出る?
「では鎖を与えます。首から下げなさい」
打ち返すの、早!
渡された鎖は絶妙に短く、下を向いた途端に襟元から転がり出てくる。何をしても出てきて目立つため、騎士仲間から、いつの間に結婚したのかと散々聞かれる羽目になった。
しかも女避けになったかといえば、そうではなく、かえって火遊び希望の既婚者を招き寄せる元凶になった…。
こうしてアルベルトは熟女趣味・既婚者という触れ込みで、デルフィナ姫の護衛騎士となり、衣食住に不自由しない生活、同僚に羨まれる仕事は始まった。だがそれは、デルフィナ姫に振り回される理不尽な3年間の幕開けだった。




