姫君15才、イケメンは不採用
晴れて護衛騎士となったアルベルトにとって、デルフィナ姫の第一印象は最悪だった。
初面会という名の最終試験で、姫はアルベルトを上から下まで見た後、眉をしかめて言った。
「あなた、イケメンすぎるわ。不採用」
そんな不採用理由、ある!?普通、逆じゃね!?
何を隠そう、女性からしかめ面を向けられるのは人生初である。
隣の騎士団長が慌てて執りなす。
「しかし彼は一番の適任者です。姫のお側近くで御身をお守りするのに、外も中も筋肉も合格かと」
御年15歳になったばかりの姫君は、老獪とも言える眼差しで騎士団長ベルトランを睨みつける。
「そんな優良物件を側に置けば、我が憩いの部屋が女の戦場になるわ。女の諍いを楽しむ趣味など、わたくしには無い」
「しかし他に居りません」
デルフィナ姫は護衛候補にもう一度、目をやる。同時に部屋の侍女たちの様子も視線だけで確認する。
ダメね。皆、すでに半溶けよ。この男が常に部屋にいるとなったら……お断りよ!フツメンでいいのよ!
再び騎士団長のヒゲ面を睨む。
「我が国はイケメンの方が多いとでも?」
「そうだと思います」
「雑。雑だわベルトラン。あなたの副官を呼んできなさい。護衛候補はそのまま退がるように」
部屋の侍女達の残念そうな目付きよ。気持ちは分かる。それは部屋の外でやりなさい。
団長が脳筋なら副官は頭脳派と、昔から決まっている。退出したアルベルトから伝言を受けた副官は、それでも鍛えている騎士団員らしく、息一つ切らせずに駆け込んできた。
「我が王国の輝き、麗しき大輪のデルフィナ姫よ。副官カルロス、ただいま馳せ参じました」
「カルロス。護衛騎士の候補がイケメン過ぎるのだけど」
「何か問題でしょうか?」
姫は団長に視線を向ける。
何度も言わせないで。
「イケメンだと部屋で問題が起きるとの仰せだ」
「部屋で、ですか。あぁ、なるほど…。
しかしそれを見越して、候補者は熟女趣味な者を選んでおります。
安心してお側に侍らせられるかと」
「何一つ安心できないわ」
「姫の周りの小娘どもには惑わされないこと、お約束いたします」
デルフィナは溜め息をついた。
城の侍女には貴族の娘や、結婚相手を探しに来ているような娘が多い。
この副官も脳筋だった?その一言で部屋の侍女達を敵に回したの、分かっているのかしら…。
カルロスは向こう三年くらい結婚できないわね。身から出た錆よ。
「他に候補者は」
「おりません。総当たりの勝ち抜き戦で優勝したのがアルベルトですので」
どうして団長も副官もドヤ顔なの。
「もちろん、希望者は吟味し、変態は排除してあります」
変態…。そういう問題じゃないのよ。
デルフィナは溜め息と共に承認するしかなかった。
配属される前日の昼、アルベルトは騎士団長に呼び出された。団長室へ入ると、デルフィナ姫もいる。
二人ともミサの後らしく、正装に近い装いだ。世界で最も麗しい姫君と、比類なき頼れる騎士団長に見える。だが…。
姫は明日からの護衛騎士を見るなり言い放った。
「あなた、偽装結婚なさい」
「誰とですか?」
「誰とでも」
意味が分からないアルベルトは団長に目で助けを求める。
「要は既婚者になれということだ」
こういう時に副官は不在、つまり逃げ場なし。いや、副官も脳筋だった。
「見目麗しい騎士が独身では、侍女達が落ち着かないのよ」
なるほど。納得はいかないが理解はした。問題点しかないが、な!
アルベルトは背筋を伸ばして答える。
「しかし、アテがありません」
「「その顔で?」」
姫と団長が同時に驚く。
この脳筋どもめ…。
「行きずりでも構わないのでは?」
「構います」
アルベルトはピシャリと言い返した。
15歳の姫が言うセリフじゃねぇ。そもそもややこしい女だったらどうする。俺だっていろいろある。
「仕方ないわね…。指輪だけでも良いから嵌めておきなさい。架空の嫁設定を考えておくように」
姫のわざとらしい困り顔に、アルベルトは目を剥いた。
とんでもない姫君に仕えることになってしまった…。団長も全くアテにならない。「さすがデルフィナ姫。天才です!」とか言っちゃって!
腹立たしくも養われる立場が辛い。だがこれだけは言っておく。
「拝命いたします。指輪の購入費用をご下賜くださいますように」
「良いでしょう」
お城のお姫様が貨幣なんて持ってないだろう。これで、この無茶振りは終了だな。と思いきや。
姫が侍女に持って来させた“指輪の購入費用”は、気持ち悪いオジサンから贈られた、気に入らない金の首飾りだった。
まさかの現物支給!
「これなら費用を賄えるでしょう。いい?必ず明日に間に合わせること」
明日までに!?今日は休日…どこの鍛冶屋も店も休みだろ!!
つか、前日の昼に言うなよな!
アルベルトは退出のあいさつもそこそこに、城下へ走る羽目になったのだった。




