2・護衛選抜戦とは、つまり頂上決定戦
デルフィナ姫が謁見の間に突撃する約三年前…あとひと月で15歳になろうとする頃。
騎士団長ベルトランは秘密裏に招集を受け、王の私室へ向かった。
扉の前で宰相と出くわす。
「おや、宰相殿もお呼ばれですか」
「ええ。参りましょう」
どうやら自分を待っていたらしい。
部屋に入ると、王と王妃の二人のみ。宰相が扉を閉め施錠する。
こりゃ相当な機密話か…?
席に着くなり、王が口を開いた。
「隣の大国アサフランと人質を交換することになった」
なんですと!?
しかし団長はこういう時の冷静力で、頷く。
「理屈は分かります」
平穏を保つ戦術というヤツだな。
黙って続きを待つ。
「それで隣国は、君主直系ではないものの、国の宝を出すとのことだ」
目線で促され、宰相が続きを引き取る。
「君主の実弟の三男で、大変な美丈夫だそうです」
団長は目を剥く。
「つまり男を国の宝と?」
「イケメンなら、そうでしょうとも」
王妃が口を挟む。団長はすぐさま手の平を返した。
「なるほど、分かります。で、我が国は?」
王と王妃の眉が下がる。それを見て団長の眉も下がった。
「レオンシオは唯一の男子。出す訳にはいかない」
「すると姫君のどなたか、ということでしょうか」
王に娘は5人いる。多いようで…
「えーと、カリナ姫は侯爵家へ降嫁されましたな。ラウラ姫は南方の伯爵へ嫁ぐのでしたっけ?
すると、デルフィナ姫、マルガリタ姫…まさかローサ姫!?」
「ローサ姫はまだ一歳。論外です」
宰相が口を挟む。団長は頷いた。
「デルフィナ姫かマルガリタ姫ですな?
そういえば、デルフィナ姫は来月、15歳に御成りですが、護衛を付けねばなりません」
「それも頭の痛い話です」
王妃のため息は重い。
「あの子は…年不相応な色気があります。護衛騎士は、それに当てられず流されない者でなければ」
「それは大変に難しい問題ですな」
団長は今日一番の真剣な顔で相槌を打つ。
若さゆえの無防備さと警戒してても子猫のような愛らしさと…。日々増していくあの魅力に、よろめかない男なんているのか?そんなヤツ…ものすごーく心が強いヤツだな!
「護衛には強靭な精神力が必要ですな。これは…総当たりの選抜戦をしなければなりません」
思い付いた途端に、わくわくしだす団長。
デルフィナ姫の護衛になりたくないヤツなんて、いないな。これは事実上の頂上決定戦!キタ〜!燃えてきた〜!!急いで帰って、カルロスに段取りさせんと!
「そういえば、私が呼ばれたのは何故でしたっけ?」
半分、腰を上げてから団長は気付く。宰相が咳払いする。
「アサフランから迎える三男殿を騎士団で預かって頂きたいのです」
「イケメンをですか?」
「腕は立つそうです。城内へ閉じ込めるより、騎士団内の方が何かと都合が良く」
「はぁ。ウチは荒くれ者も多いですが」
「そこはお任せします」
そうか。宰相殿がそう言うなら、ウチで何とかなるだろ。すると残る話は…頂上決定戦、じゃなくて…。
再び宰相が続ける。
「デルフィナ姫かマルガリタ姫に、ハーレム入りして頂くことで話は纏まっています」
「ハ、ハーレム!?」
「一番確実に安泰が約束できる場所とのことです。君主のお子たちは30人以上。命を狙う者には、いかなる寵妃であっても命でもって償わせる決まりがあり、命の危険はありません。一応」
こ、こわい…。しかしウチの宝がどちらかハーレム!?
口が開いたままの団長は王と王妃を見る。
王妃の眉間の皺が怖い。王妃はゆっくりと話しだした。余計に怖い。
「デルフィナは14才、マルガリタは12才。ハーレムで務めを果たすには、まだ少し早過ぎます。アサフランの君主には、3年待つよう交渉しました」
デルフィナ姫はあの歳で色気、マルガリタ姫はすでに美しい。あと3年も経てば、2人ともどんな美姫になるか…。
団長はゴクリと生唾を飲み込む。この二人の安全に、国の繁栄が掛かっていることを理解したからだ。これはいよいよ、頂上決定戦に力が入るというもの。
「分かりました。これからの三年間、姫君方の守りに全力を尽くします」
それから二週間足らずで例の美男子がやってきた。
表立って人質とは公表せず、流浪の旅人が騎士団に入団した、という形をとることになった。
入団の日、人払いした廊下ですれ違う体で、王と王妃は旅装のままの彼に面会する。
この国ハシントでは、アルベルトと名乗るそうだ。
王妃はほほ笑むだけで一言も発さず。王から軽く、労いと今後の言祝ぎを受けて、彼は団長に連れられ騎士団の一角へ。
「すごい…美男子だったわね」
さすがの王妃もやや放心気味である。王は横目で王妃の顔を盗み見る。
王妃よ、まさかときめいてないだろうな。あれは確かに傾国ものだ。三年待たずにすぐ送り込んで来たというくらいだ、国内の争いのタネになっていたのかもしれん。なるほど、我が娘の嫁入りを三年待ってくれるのは迷惑料か。
そう考えた王は、我が娘がそれを上回る迷惑をかけることを、まだ知らない。
「勝者、アルベルト・デ・オデロットー!」
団長のノリノリな大声が喧騒を割り、鍛錬場に響く。判定を承認して、それを上回る歓声が鍛錬場を揺るがす。
護衛選抜戦は天井知らずに盛り上がっていた。飛び入りの小汚い旅装の青年が、気持ちよくなぎ倒していくからだ。それも短刀一本と身のこなしだけで。
「あれ誰だ?」「新入りだとよ」「どうりで知らんはずだ」「今日来たらしい」「いくつだ?」「二十だとよ!」「次の相手、エピファニオと同い年か」「おいおい、事実上の決勝戦じゃねぇか」「どっちに賭ける?」「始まるぞ!」
再びの大歓声の中、まだ旅装の新入りは構えた短刀でエピファニオの剣を受け止める。動きが止まると同時に蹴りが決まり、エピファニオは後ろに倒れ込んだ。鮮やかな決着に、鍛錬場を勝者の名前が支配する。
「アルベルト!アルベルト!」
こうしてアルベルトは、入団初日にして荒くれ男たちの心を鷲掴みにし、羨望のデルフィナ姫護衛騎士の座を勝ち取り、優勝候補を三位に下して以後ライバル視された。
翌日、身綺麗になったアルベルトを見て騎士団員は皆、驚愕したが、既に覇者アルベルトの敵はおらず。何の問題も無く、護衛生活は幕開けたかのように見えた…。




