番外編③-5 アルベルトの焦心
問題が次から次にやってくる。
アサフランの君主を説得できたと思ったら、今度はデルフィナ姫に知られてしまって暴走。王妃様がおさめて下さった次は、ハシントの王イーケルに挨拶か!?
しかしそれは第四回星見の会で当分秘匿するよう決められて…回避というか先送り!
やっと準備に全力を注げる…と思ったら、前からあった懸念事項が、無視できない問題に膨れ上がっていた。
出発は7月、月が欠け始めたらすぐと決まっているのに、ここに来て姫が準備の進行をわざと遅らせている。既に5月も半分を過ぎた。
花嫁衣装は、刺繍が佳境に入っていると聞く。ベールの刺繍も順調だそうだ。
一番時間が掛かるのは首飾りだが、これはアサフランの金細工職人に手配済み。
指輪でお世話になってきたナホム殿には、指輪をひとつ発注した。というか、向こうから噛んできた。
宝飾職人の所にエレナが伝言に行った際、たまたま居合わせて熱く申し出てくれたそうだ。宰相とも幼なじみだと言うし、顔が広過ぎるだろ、あの長ヒゲオヤジ…。
相変わらず姫は可愛いし、夢の中と普段とのギャップに、振り回されっぱなし…当たり前だが。おかげで夢と現実をごちゃ混ぜにしないように、緊張しっぱなし…。ここまで来てやらかす訳にはいかない絶対に。
だけどつい嫌味じみたことを言ってからかってしまう。反応してくれるのが嬉しくて楽しくて可愛くて…あぁ俺、重病人だわ、恋の。
などとアルベルトが脳内でバカになっていることは、王妃と宰相以外、誰も気付いていない。
5月末近くになって、アルベルトは気合を入れ直した。部屋付きの侍女達が別れ惜しさに姫の言いなりになっていることに気づいたからだ。
服なんて後から送れば宜しい。ハシントの威光?あと2ヶ月で準備を完了させないと、全部吹き飛ぶ。
アルベルトは全ての進行を管理し始めた。
文官顔負けの采配ぶりを、姫が白けた顔で見ているのが分かる。それはそれで何だかゾクゾクする…。もし姫に嫌われていたとしても、新しい扉を開ければ全て解決しそうな気配を感じる。
やべぇ、未来がバラ色すぎてヤベェ…。
アルベルトが統括するようになって、侍女達の動きもキレを取り戻した。
デルフィナに優しく丁寧に接する彼女達を見ながら、アルベルトは願う。来年の春にやって来るだろう、妹のサラにも、こんな風に接して欲しいと。
ま、難しいだろうな。王妃様にお願いしておこうか。いや昨日も厳重注意されたばかりだしな…。
「アルベルト様、姫に花嫁衣装を試着して欲しいと連絡がありました」
「分かりました。王と王妃に伝えて時間を合わせましょう」
6月末、ついに花嫁衣装が完成間近になった。出発は7月下旬から末だ。良かった、間に合った。
知らせに来た侍女をそのまま遣いに出す。
筆頭護衛騎士であるアルベルトは、姫のそばで厳重な警戒体制を敷いていた。
議会と夜会の後、つまりデルフィナ姫の輿入れが発表された後、デルフィナ姫に付きまとってきた貴族達は頻繁に城へやって来るようになった。
来ては何かにつけてデルフィナに会おうとする。人払いを要求する。輿入れ前の姫君と二人きりになりたいと言うのだ。断固拒否しても、全く懲りずにやって来る。そのため、関係者一丸となって厳重警戒が続いている。
従って、アルベルトは以前にも増してデルフィナの側に居る。通常なら嬉し楽しい護衛業務だが、変態どものせいで全く側を離れらないため、ちょっとした仕事が全て人任せになり…。しかも締切り日が迫っているせいで気が立っていた。
「アルベルト、そんなにピリピリするのは止しなさい。冷静な判断が出来なくなるわ」
とうとう眉間にシワを寄せたデルフィナ姫に言われてしまった。アルベルトは黙って姫を見返す。
「…仰せかしこまりました。しかし、眉間のシワは老けて見えますので、お気をつけくださいますよう」
姫は言い返さずにそっぽを向いてしまった。明らかに機嫌を損ねてしまったが…。
唇が少しへの字になってら。かわいい。あー、撫で回したい。なでなでしてヨシヨシしたい。姫だってこんな状況、無駄に疲れるよな。
ピリ付いてるのは姫が魅力的過ぎるせい…変態貴族どもめ。絶対に触れさせねぇからな。
表情を変えずに手元の書き板を見るフリをしながら、不埒なことを考える。
ピリピリの元凶を締めてしまおうか。何か問題あるだろうか?…思いつかないな。念のため宰相殿に聞いてから潰すか。あ、騎士団長にも声掛けよう。
「…という訳で、そろそろこの辺でケジメを付けようかと思うのですが」
運良く宰相と騎士団長を同時に捕まえられた夜。
三人は宰相の執務室で密談していた。密談のお供は、お馴染みの甘いハーブ湯と山盛りのサクランボ。
「異論ナシ!前からどうかと思ってたんだよな!宰相殿、どの辺まで許されますかね?半殺し?七分づき?」
すぐに乗ったのは、もちろん脳筋・ベルトラン騎士団長。だが宰相ベテダビドは、ヒゲの端をひねりながら考えている。
宰相殿が熟考とは珍しいな。難しいことなのか。
だがアルベルトに退く気はない。
「我が心情としては、お二方に全くもって賛成ですな。ですが国政的には…」
変態貴族は主に3人。いずれも領地は広く、議会での発言力も大きい。
言い淀む宰相に、アルベルトが鋭く言い返す。
「輿入れが決まっている王女に、男の下心を持って近付くのは国政への反逆行為です」
アルベルトの嫉妬心と独占欲を炎上させる行為でもある。
「まぁ、そうですな。暗がりで脅すくらいなら、まぁ。王と王妃には、私が盾になりましょう。怪我を負わせないことだけ気をつけてくだされば」
「さすが宰相殿〜!男前だな!!よし、やるぞアルベルト!」
宰相の考えはまとまったようだ。あの目がまた光っている。
「7月の中頃から送別会等々が始まります。それまでに心胆より震え上がらせて頂きたい。
まぁ、デルフィナ姫からお声がけ頂くのが最も効くとは思いますが」
「「確かに」」
宰相はニッと笑うと脳筋2人に問いかけた。
「誰を見せしめにしますかな?」
次話「アルベルトの復讐」9/14 朝7:00 更新




