↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/26

番外編③-3 アルベルトの下心

 アルベルトの元へ母から頻繁に手紙が届くようになった。どうやら母が連絡係らしい。


 同母妹のサラが自分と入れ違いでハシントへ入ることを知る。自分の帰国後、半年ほど開けるが、レオンシオの婚約者として!!

 サラはレオンシオより3歳年上だ。なるほど姉さん女房の方がレオンシオには合うかもしれない。かわいくて賢いサラなら、あのツンツン坊やを上手く転がすだろう。


 母の手紙は、長い。


 “サービト、お前が独身のままアサフランに帰還すれば、またややこしい事になります。アサーラの息子たちが起こした愚かな行為にも関わらず、いくつかの有力者から問合せが既にあります。

 よく聞きなさい。私の親族は、お前の伴侶を出すことを見送りました。

 ハシントの出来るだけ強い家柄で、こちらのアレコレに馴染めるタフな娘はいないのですか?見つけたら、何が何でも伴侶として連れ帰りなさい。”


 アサーラの息子たちとは、やらかした兄達のこと。

 サービトことアルベルトは読み終えると両手に顔を埋めた。


「なかなか…強い母御殿ですな」


 読み終えるのを見守っていた、ベテダビド宰相が声を掛ける。手紙の中身はもちろん、宰相だけが検閲済みだ。


「…ナフサの女ですから」

「さもありなん。嫁御殿とは上手くやれそうですかな?」

「妻になる女性の性格によりますが、母は感情的な人ではありません。強いですが」

「デルフィナ姫とはいかがですかな?」


 アルベルトはギョッとして顔を上げる。

 なぜ…なぜ…?まさかバレバレとか…?!

 穏やかな眼差しの宰相と目が合う。


「…そんな分かりやすいですか?」

「いいえ。巷(ちまた)ではむしろ逆のウワサですな。アルベルト殿はデルフィナ姫を避けている。とうとうついに愛想を尽かしたかー?と」

「それならば…なぜ…?」


 やっぱり魔法とか使えるのですか?とは聞けなかったが。


「ふぉふぉ。貴殿が懇意にされている金細工師は私の幼なじみでしてな。アルベルト殿の煩(わずら)いっぷりを心配して、こっそり打ち明けてくれたのです」


 アルベルトは再び顔を覆った。

 恥ずかしい…。あの長ヒゲオヤジに心配されていることも、理由が恋煩いだということも、おまけに身バレしてるのも全て恥ずかしい…。


「誰にも話さないよう、お願いしております。金細工師によると、恋心を封印しようとして、とか…?」

「…はい」


 か細い声しか出ない。この分だと何を依頼したかもバレてそう…。俺は名前だけ彫るよう頼んだのに、あの長ヒゲ息子オヤジ殿め、余計な言葉を足して彫っていた。“私の”と。心情的にあまりにぴったりで何も言えなかった。

 夢の中で叫んだ言葉が今も自分を追い詰める。

 “姫は私のものです!”

 指輪に彫ったものの、恋心はカケラも封印出来なかった。


「アルベルト殿は、どうなさりたいですかな?」

「…八方塞がりです」

「しかし叶うなら?」


 アルベルトは目の前の賢者と名高い宰相に目を据える。

 どんな言質を取られようとしているのだ…?だが、これだけはハッキリ言える。


「私は、君主ユースフの忠実な臣下です。兄達が愚かなことをした今、より一層の忠誠心を持って仕える決意でいます。

 姫は君主の妃のひとりになると、前から決まっていました。その方を願うなど…。君主の座を狙う翻意ありと疑われるようなことは、出来ません」

「分かっております。アルベルト殿の忠誠心、一片たりとも疑っておりませぬ。

 しかし今、姫以外に心が傾く女性が居ないのも確か。もう少し時間を掛けるなら或いは…」


 ここぞとばかりに思案顔を作る宰相に、アルベルトは熱く断言する。

「この先も居ません。あの方以上の女性なんて、この世界でも、先の世界でも居ません」


 宰相は心の内で指を鳴らす。掛かった!


「ではその思い、詩歌にして君主に送りなさい。忠誠心と恋心の間で苦しむ、その心を」

「ええ?!」

「詩歌の巧みさを重んじるのはアサフランの麗しき文化でしょう?

 アルベルト殿の心に裏表が無いことを、詩歌を通じて君主殿に知って頂くのです。

 そうすれば、例え叶わなかったとしても、君主のため誠実と忠実を尽くした忠臣として名誉を維持できます。隠れて横恋慕しているとか、護衛の時に何かあった?などと疑わせるより、はるかに良い」


 なるほど。得心のいくことばかりだ。

 アルベルトは覚悟を決めた。


「やりましょう」

「決断の潔さ、さすがです。アルベルト殿。

 では、今は3月の上旬。姫がハーレムに入ると発表されるのは、4月の下旬。恐らく誕生日会の日の夜会でか、その前くらいでしょう。

 アルベルト殿。3日で書き上げて頂きたい。我が一門が責任と全権を使って最速で届けましょう」


 宰相の目が光っている。ここからアサフランまで通常なら馬でも往復20日近くかかる。だがこの御仁は、やると言ったらやるのだ。

 伯父上に自分の恋心をさらす…?まだ若いアルベルトとしては気恥ずかしい。

 だが、やるしかない。正々堂々と訴え、その後の判断は君主としての伯父上に委ねるのだ。


 アルベルトは文字通り3日で書き上げてきた。

 城下の市場へお忍びで出掛けた、とある日のことを題材に、一番近くて一番手の届かない尊い人への想い、君主への忠心と募る恋心の板挟み、夢の中で会う時の喜びと真の主君への忠誠心ゆえに、やがて来る別れの悲しみを切々と歌い上げた。


「アルベルト殿…素晴らしい歌ですな…写しを取っても構いませんか?」

「…門外不出にしてくださるなら」

「無論です」


 こうしてベテダビド宰相の肝入り急使がナフサ家の家長へ届け、同封された写しを読んだ家長は、読みながら馬を飛ばして君主の元へ運んだ。


 アルベルト渾身の一篇を読んだ君主は、甥の恋に心を震わせ、その場で許可を認(したた)めた。

 今度は君主厳命の急使がその日のうちに城を飛び出し、ナフサ家の使者と合流。国境で待つベテダビド家の早馬に、君主の信書を託した。ハシント国宰相腹心の急使達は、返信の速さに驚きながら帰路を駆け抜けた。


 アルベルトにアサフラン国君主からの信書が届いたのは、実に10日後だった。通常なら往復20日はかかるところを、半分で!

 信書には短く二言(ふたこと)

 “サービトの詩歌、見事。故にアサフランより迎えるデルフィナ姫は、サービト・ナフサに妻として与える。

 婚姻の儀は8月の満月に行う”


 宰相と手を取り合って飛び跳ねたのは言うまでもない。



 自室への帰り道、ふと外を見ると、サクラにも似たアーモンドの花が満開だった。


 最大の問題は解決した。次は王と王妃、そしてデルフィナ姫だ。

 アルベルトは浮かれた気持ちを何とか押さえて冷静に考える。

 デルフィナ姫に、いつ伝えようか。王から決定事項で伝えられるだろうが、自分からはいつ、どうやって…?

 この想いを伝えると考えるだけで、アルベルトの心も満開になりそうだ。

 脳内妄想劇場が開幕する。アルベルトはアーモンドを見ながら足を止め、しばし甘い想像に…。


『姫、ずっとお慕いしておりました。私とアサフランへ参りましょう』

『まぁ何ですって?お前、護衛の分際でわたくしを娶ろうと?』

『これは政略結婚で、王からの勅命でもあります』

『アルベルト。お前、正気なの?わたくし、用事が出来たから失礼するわ』


 あれ…?夢の中みたいに甘くならない…。

 それどころか逃げられてしまった。


 デルフィナ姫の『脱走』は、いつも嫌いな人からの逃走だ。ただ単に合わない人からは逃げない。生理的嫌悪を感じる人から逃げるのだ。

 え?俺、まさか嫌われてないよな…?


 “あなたは私のものです”

 かつて見た夢の中で自分が叫んだ、独占欲むき出しのセリフが甦る。


 もし…姫は俺のことを嫌っていたら?それを知りながらアサフランへ連れて行くのか?それで一生一緒に?そんなの地獄だろ。口説いてどうこうなれるのか?

 姫は…俺のことをどう思っているんだろう。


『アルベルト?彼はわたくしの護衛で下僕(しもべ)よ』


 脳内デルフィナ姫がまたも冷たく答える。

 やめろ!それは仕事上、だろ?ひとりの男としての話だ!


 アルベルトは姫に好かれているのか違うのか、ここに来て真剣に悩みだした。


次話「アルベルトの杞憂」9/11朝7:00更新

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。