11・ハーレム同行申し込み…だと!?
昼食の席でアルベルトを見た親娘は、挨拶もそこそこに青い悲鳴を上げた。
だがデルフィナの目線一つで直ぐさま護衛は交代となる。
護衛は姫の好む平凡顔の騎士になったものの、話題は当然、アルベルトだ。
「デルフィナ様、もうすぐアルベルト様は護衛を解かれるのでしょう?それなのにあんなケガ…。酷いですわ」
娘のグロリアが金髪の縦ロールを振り回してデルフィナに詰め寄る。テーブルがあるから、物理的には距離を保てているが。
「まぁ。護衛が任務の中で怪我を負うのは不可避ではなくて?痛みがあるとはいえ、名誉の負傷ですよ」
「デルフィナ様は、心が冷たいのですわね」
「いいえ、アルベルトは己が名誉を護ったのです。彼の誇りを奪うなんて…」
デルフィナは言葉を切り、意味深に笑む。それだけで嘲笑われたと感じたグロリアは拳を握りしめる。
この縦ロール女…アルベルトのケガをわたくしのせいにして…。まぁ、そうなんだけど。
「デルフィナ様、隣国へのお輿入れ、誠におめでとう御座います」
ここでヘノベバ夫人が慇懃に祝いの言葉を述べる。目の奥が笑ってないのはいつも通り。
でもそれはお互い様だ。
「ありがとう。お祝い、嬉しく思います」
100点満点の回答と笑顔で返す。
「隣国のハーレムへ連れて行ける者は、限られるとか」
断定するわね。別に限られてないわ。まぁ夫人の思惑なんて分かりきってるけど。どうせ護衛騎士を置いて行けと言うのでしょう。
「そうかもしれませんわね」
「アルベルト様も残念でしょうね。寂しく思われるかしら…?」
オバハン、上目遣いやめろ。本人ここに居ないのに、誰に媚びてるのやら。あ、わたくしか。
出来るだけ優しく微笑んで、デルフィナはすぐ錆びる水割りワインにハチミツを足す。
せめて飲み物だけでも甘くしてやる。
「アルベルトの身の振りは騎士団長の管轄ですわ」
「まぁ、そうですの」
夫人の目がギラリと光る。
まぁ怖い。ベルトラン、耐えなさい。
侯爵親娘が目配せし合う。嫌な予感…。
「実は本日、隣国へ旅立つ姫様のために、贈り物を連れて来たのです」
贈り物を連れて来た…?生き物かしら。
「エレナ、来なさい」
侯爵夫人が側に控える侍女を呼んだ。声の奥に氷の響き。
その響きだけで、デルフィナは全てを察する。最大限、可愛く見える角度で小首を傾げて夫人に照準を合わせる。
「侯爵はご存知なのかしら?」
親娘の顔に、サッと朱が差した。デルフィナは心の底から満足して、しかし手綱を緩めない。歌うように刺す。
「隣国へ連れて行く者は、出自の確かな有能な者ばかり。夫人の推薦するエレナ嬢なら、安心ね」
呼ばれたエレナ嬢は一歩出て、丁寧にお辞儀をした。
それは召使いのお辞儀よね。
「エレナ嬢、令嬢のお辞儀をしてごらんなさい。大丈夫だから」
デルフィナは優しい声で語りかける。
やろうと思えば飛び切り優しく振る舞うことだって、造作もないのよ。あの毒舌護衛め…。
エレナは躊躇った後、ゆっくりと令嬢のお辞儀をしてみせた。
素晴らしい体幹。さすがエクトル侯爵ね。愛人の子とはいえ、きちんと教育を受けさせている証拠。
そしてヘノベバ親娘の悔しげな顔…
今までの忌々しい昼食会、全て精算してもお釣りがくるわ。
大満足のデルフィナは、さながらカエルを飲み込む蛇の如き笑顔で宣言した。
「合格よ、エレナ。今日よりわたくしの側で最善を尽くしなさい。
あとひと月は猶予があるわ。その間に荒れたその手も癒えるでしょう」
ワインで口を湿らせながら、贈り物こと愛人の娘を観察する。
磨き甲斐がありそうな娘ね…。今はツヤを失った髪も金髪でしょうし、顔形も美しいわ。もちろん、我が妹には敵わないものの…。ひょっとしたらタフな令嬢に化けるかもしれない。忍耐強そうだし。あ、タフな侍女の間違いだった。まぁ、本人に行く気があれば、だけど。
その前に仕上げね。
デルフィナは優雅に立ち上がった。護衛の騎士がすぐに側へ控える。出来る限りの優しい笑顔と声で、デルフィナは親娘に別れを告げる。
「ありがとう、ヘノベバ夫人、グロリア嬢。
輿入れ前の慌ただしい中、最後にお会いできたこと、素晴らしい人材を贈ってくださったこと、感謝しますわ。
わたくし、用事が出来ましたの。最後の昼食会なのに残念だけど、中座させて頂くわ。エレナ、着いてきなさい。
どうぞごゆっくり、楽しんで行って頂戴。
では、ご機嫌よう」
そして永遠にさようなら。
筆頭護衛騎士に色目ばかり使う、この親娘がずっと気に入らなかった。
“気に入らないのは、どうしてか”
分かっているけど、それは見ないフリ。考えないわ。
第12話「待ちに待った輿入れ」は、明日朝7:00に更新します。




