↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/26

10・酒場といえば乱闘

「よぉアルベルト!勇猛にして幸運なるアルベルトよ!明日は非番か?」


 夜会のため登城していたご令嬢やご夫人方は、本日、全員無事にお帰りになられた。宰相の策略のおかげで、粘っこいお誘いはほぼ全く無い、穏やか過ぎる夜会だった。

 ベテダビド宰相に乾杯!!

 アルベルトには休暇が与えられ、酒場でひとり慰労会をしているところだった。

 が、酒場で呑むお約束は、知人友人から絡まれること。


「いかにも」

 そう言って杯を掲げてみせる。


 声を掛けてきた知人以上友人以下…同い年のエピファニオは、途端にひくりと顔を歪める。


「おい、嫌味なとこは相変わらずだな」

「お前もな」


 むしろ友人ではないから好き放題、お互い言えるのかもしれない。

 エピファニオは歪んだ笑顔で続ける。


「聞いたぞ、お前クビになるって?」

「姫の輿入れの話が先だろ」

「我が王国の花、婀娜(あだ)っぽいフィナータ姫の婚姻だろ?いや、めでたい」


 ハーレム入りの話、もうコイツ如きまで広まっているのか。

 つか、婀娜っぽい…だと?熟練みたいな言い方しやがって。あの人には可愛らしいところだってあるのに。

 ほんの三日前、月光を浴びて白く輝きながら、上目遣いで自分を見上げたデルフィナ姫を思い出す。


 フィナータとはデルフィナ姫の愛称の一つだが、もちろん誰もそんな下品で馴れ馴れしい二つ名は付けない。


「お前…不敬だぞ」

 低くなる声でアルベルトはたしなめた。


「なにお利口ぶってんだ。お前だって心の中で呼んでるだろ。誰もいない時とか、夜寝る前…とか」


 そう言ってニヤニヤするエピファニオの横っ面に、アルベルトは躊躇(ためら)いなく拳を叩き込む。

 派手な音を立ててエピファニオは机の上を滑って床へ倒れ込んだ。机も道連れにひっくり返る。


 黙って殴られるエピファニオでは、もちろん無い。実力でもぎ取った(総当たり戦優勝)とはいえ、アルベルトの立場(筆頭護衛)を羨む者は多い。エピファニオだって選抜戦でいいところ(準決勝)まで勝ち進んだのだ。それを涼しい顔で蹴散らされ、今やアルベルトが四六時中、姫のお側に侍る護衛騎士(モテ役職)。しかもあんなお色気垂れ流しの姫…。

 というわけで、酒場は瞬く間に殴り合いの場となる。他の酔客では手がつけられず騎士団に通報されて、やっと取り押さえられた。


 一晩、留置所に放り込まれた翌朝早く。

 しかめっ面の団長がやって来る。


「言い開きは?」

「アルベルトが先に殴りました」

「団長、こいつはデルフィナ姫と自分を侮辱しました。それに対する抗議です」

「ふうん。で、どっちが勝ったんだ?」

「「自分です」」

「じゃあ続きは鍛練場でな。誰かアルベルトの手当てしてやってくれ。エピファニオもな」


 衛生兵に手当てされながら、アルベルトはエピファニオを睨みつける。


「お前、あんな言葉、姫の目の前で言えるか。姫に伝われば、お前こそクビだ」

「お前の奥方に教えてやるよ」

「言えるものなら言ってみろ」


 俺に奥方なんて、いねぇよ。

 鍛錬場に行くまでも無い、今ここで沈めてやる。




 休み明けの護衛を見てデルフィナは目を丸くした。


「まぁ…わんぱくね。イケメンが台無し…」

「こちらの方が、姫のお好みかと」


 傷が痛むので引きつった笑顔になる。


「生傷は好みではないわ。それに…お前のケガは違う輩(やから)を招きそう」

「甲斐甲斐しい年上の女性なら、大歓迎です」

「傷が膿んで熱が出るといいわ」


 部屋付きの侍女が発言の許可を求めた。


「フロラ、なぁに?」

「我が王国の輝く太陽、デルフィナ姫様、本日は昼食会が入っております。

 ヘノベバ夫人とその娘のグロリア様です」

「あぁ、あの2人…」


 侍女のフロラはちらりとアルベルトを斜め見る。やだ、ケガしててもイケメンってどういうこと?


「アルベルト様は同席しない方が穏やかかもしれません」

「確かに」


 あの親娘め…護衛がアルベルトになってから足繁く訪問しよってからに。あの顔面の腫れを見れば大騒ぎするに決まっている。かと言って会えないとなると、また五月蝿い。そういえば夜会には不参加だったわね…。


「最初は同席しなさい。親娘が席についたタイミングで、次席護衛騎士(ナチョ)と交代しなさい」

「仰せかしこまりました」


 フロラはもう一度アルベルトをチラ見してから、昼食会の段取りのため退出する。


 デルフィナは手元の紙切れを眺める。カストロ副官の字で、アルベルトの起こした騒動についての報告が認(したた)められている。団長のサインもある。


「お前…意外と正義感があったのね」

「…報告書には何と」

「姫の名を馴れ馴れしく呼びかつ、侮辱的な発言をしたためアルベルトから殴打された」

「その通りです」

「なるほど、お前に反省を促す内容ではないわね」

「私に非はありません」


 胸を張って答える包帯男。


「で、完膚なきまでに叩きのめしたのね?」


 デルフィナ姫の護衛騎士、トーナメント優勝者はニヤリとした。


「当たり前です。私は任務にまぁ差し支えありませんが、ヤツは2、3日寝込むことになるかと」

「まぁ。ふふふ」


 デルフィナは誰よりも悪い笑顔で報告書を弾いた。


「親しみを込めるのは良いわ。だけど侮辱は、ダメよ。良くやったわ、アルベルト」


 姫の黒い賞賛に、アルベルトはただ黙ってうやうやしく頭を下げた。

 エピファニオ、ざまぁ。存在しない俺の妻に粉を掛けようと、無駄に彷徨(さまよ)うがいい。

第11話 は明日 朝7:00 更新します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。