30、外堀
イーノル男爵夫婦が登城した理由は
"ハンナとユウタ医師の成就するのを見届けるため"
何故この事を知っていたのかは、慰問の際のあの怪しげなユウタ医師の行動を鑑みると明らか。
ハンナはもはや、あの時からこうなる運命だったのですね。
確かにハンナはユウタ医師で言うところの子猫系、タイプど真ん中ですものね。
これぞ正しく、外堀を埋められた良い例でしょう。
「リアンカ、そなたにも尋ねたい事がある。」
お父様に声を掛けられるまで、若干遠い目をしながらそんな事を思っていました。
「•••護衛騎士カイトの事だ。そなたはどうしたいと思っておるのだ?
周りの状況など、考えずに申してみよ。」
お父様は正直に話しても良いよって言ってくれているのでしょう。
でも本人にも伝えていない事ばかり•••
だから、私が言える事は
「私にとってカイトは、兄のようでもあり親友のようでもあり•••大切な存在です。
先の事はこの先の自分がどうなるのか分からないので、答えかねます•••」
「そうか。•••時に、そのカイトの事だが••
••」
お父様のその言葉に、胸が一際ドクンとなり何を言われるのだろうと身構えました。
ですがそこでお父様の言葉が止まり、一体どうしたのでしょう?
「国王陛下にご報告がございます。」
思わぬ人物の声に反応し、入り口へと顔を向けました。
ライズ団長が真剣な表情で足早に謁見の間に入り騎士の礼をしていました。
「申してみよ。」
「我が息子カイトより報告が入りました。
周辺国へ赴き、国王陛下又はその側近の方にお会いし書状を基に話し合いをし、シトラツ国、ツバリ国いずれも我が国にある歯に関する知識を学ばせて頂きたいとの要請がありました。
そして、ツバリ国には別に魔獣に対応する術と知識を授かりたいとの事。
また、その対価として各国ともに輸出入幅の拡大を確約されたとの事。」
カイトは周辺国を周っていたのですか!?
周辺国と言っても、魔獣や獣のいる山を抜けなければ辿りつかない国もあると言うのに!
それに、一見平和ではあるも使者として停戦状態の国近くへ行くのは危険しかありません!!
「次にサバリナ国も、医師に歯に関する知識と技術、そして経験を付けさせてもらいたいとの事とサバリナ山脈で急遽発生したスタンピードに手を貸して貰いたいとの要請がありました。
それに加えサバリナ国王陛下より
〝現在停戦している国同士としては、これをもって終戦とし、協定を結びたい〟との和平協定の要望がありました。」
「そうか!前国王の時代に停戦まで持ち込む事は出来たが、今回の件でまた状況が変わるやもしれないと思っていたのだ•••
しかしよもやスタンピードとは•••!」
•••終、戦•••!?停戦と終戦とじゃ意味合いが全然違います。
何より民の心の憂いが晴れる事でしょう!
状況が変じて戦争へと大切な人を送り出す事がなくなったのですから。
良かった•••本当に良かった!
ですが、お父様も言う通り発生したばかりのスタンピード抑える事は至難の技です。
いくら日々鍛えている騎士達でも•••••
ライズ団長のもたらす報告に一喜一憂している時
「また、承認要請を反故にした事への対価とし縁談の打診をしておりましたが•••
あちらのもう一つの要望でもあるサバリナ山脈のスタンピードをこちらの国で抑える事で、我が国が異世界人を召喚した意味は脅威の為ではないと示し、人質ではなく互いの利のための縁談、あちらの第二王女と王太子との縁談に変更したいとの事です。
その魔獣討伐の任にカイト始め第一小隊以下十名が赴き、現在討伐中でございます。
そして、その戦闘においてこれが送られてきました。」
ライズ団長が胸ポケットより出したそれは、元は白のハンカチだっただろう物に赤黒い色が散らばり、何かが入っていました。
胸の鼓動が大きく脈打つなか
「転移魔法より送られてきた情報には、これの説明がない為推測になるのですが••••
恐らく隊員若しくは、カイトの•••歯ではないかと思われます。
スタンピード発生直後とあって、数は少ないのですが勢いがあり、かなり苦戦を強いられている模様。
私も応援にこれから駆けつけるつもりです。」
!!!!!?
えっ•••?何て??歯???カイトの•••?
ライズ団長の言葉が理解を拒否したかのように、何を言っているのかが分からなくなってしまいました。
けれどジワジワと浸食する毒のように理解した途端••••
嘘です!嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘ーー!!
目を見開き血の気が引き、息をする方法も忘れてしまうほどの衝撃を受けました。
カイトを失うのではと思うと絶望から目の前の事実を受け入れたくなくて•••自身の手を触るも衝撃は感覚すら失ったようでした。
互いに傷つけ合う事のないようにすると言っていたではないですか!!!
カイ、ト•••、カイトっ!今すぐ彼の顔を見たい•••!!
神様どうか、私から•••カイトを取らないで下さい•••!
どうしようもない恐怖心と動揺でごちゃ混ぜになり、気付いた時には今まで感じた事もないほどの魔力を足に集中させそのままカイトのいる山脈へと飛び出していました。
「姫様ーー!!危険です!お願いします、どうかお戻りをーーー!!!」
「これは•••、私の専門外ですね。
人間に対してのみ分かりますが、動物は分かりかねます。」
ハンナの叫び声を背に飛び出した私には、ユウタ医師のその言葉は届きませんでした。
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