28、瘴気
リアンカの護衛を離れ、使者として一人他国へと赴いていたカイトはもう一つの大国、サバリナ国へと来ていた。
そこで自国の国王から託された書状を手に、サバリナ国の国王を始め重鎮と話し合いを行った。
一介の護衛騎士に過ぎないカイトにとってこの場にいる事自体異例。
だが、もう躊躇している場合でもないほど事態は切迫していた。
「今更歯に関する知識を交渉の材料にしようとしたところで、召喚要望の承認をする前に行った事のネイバル国の責は重いであろう。
停戦中の国だとは言え、互いに手を取り合っていた最中の裏切り行為。そう受け止められても仕方のない事をしたのだから。
もし、これが我が国だけでなく世界にとっても脅威となる者が来ていたら、どう責任を取るつもりだったのか。
国王の首で足りる問題でもない。
それくらい召喚とは慎重にすべき事だと、あれほど進言したと言うのに。」
「恐れながら発言の許可をお許し下さい。
今回の召喚に辺り、召喚者との交渉を重ね為人を見極めてから召喚を行いました。
そして、召喚者が我が国へと来られてからは彼は懸命に治療や技術の伝達を行なって下さいました。」
「だがそれは結果論と言えよう。
過去には召喚者を信じ、国の内情を話した結果召喚者の反逆に遭い玉座を奪われそうになった国や、召喚者の持つ知識でもって戦争に興じた国もあった。
この世界にない知識とはそれだけ危険も伴うのだ。
しかし今回は確かに我が国でも問題となっている、もはや国民病とも言えるものだから焦っていたのも分かるがな•••
これから先の話し合いは、我が国の者とで話し合いをして追って報告しよう。」
額に冷や汗をかきながらもその場にいたカイトは、国王や重鎮達が話すたびに心臓の止まる思いでいた。
話し合いによっては、今後の情勢に左右されるかもしれないと覚悟を決めて赴いてはいたが、そんな生易しい事ではないと事の重大さに漸く気づいた。
このまま改善出来ずにいたのならば、いずれは召喚者を頼りにする時は来たのかとは思うが、その召喚をしなくとも滅亡の危機に瀕する事はない。
それを他国からの満場一致の許可がないまま行ったならば、他国から見たら戦力の増幅を狙っていると思われても仕方ない。
まして、その全貌が見えぬままの交渉は確かに肯定できないだろう。
"再戦"の文字が頭に浮かぶ。
カイトは国王同士が友人との事でどこか楽観視していたのかもしれない。
自国の思いの前では友人であっても切り捨てる事が出来る強さ。
国を守るとは、時に非情とも思える事にも判断を下さらなくてはいけない。
サバリナ国側の思いもまた理解出来るだけにカイトは余計にどうすれば良いのか、考えが浮かばないでいた。
回避もしくは最小限の被害で済ませられるにはどうすれば良いのか。
そんな思いの中ふと、窓の外山脈方面を見た。そして驚愕に目を見開いてしまった。
山脈一帯には瘴気が覆い始めてしたのだ。急激にこれだけの早さで起る瘴気の噴き出しは"スタンピード"以外に他ならない。
一瞬の逡巡の後、近くにいたサバリナ国側の騎士に報告した。
事態は一気に動き、このスタンピードを抑える為の策を考え始めた面々を見ながらカイトも考える。
我が国は決して戦力拡大の為に召喚したのではないと、今も和平を望む気持ちが変わらないと、このスタンピードを我が国が体を張って抑え込めたら信じてもらえるのだろうか?
そして、発言の許可を得て
「私共ネイバル国が平和を求る為に行った事と立証する為に、スタンピードを我が国で抑えるご許可を頂きたいです。
そしてそれを成し得た時には、今一度再考願います。
それともう一つ、検討して頂きたい事があります。」
「検討とな?申してみよ。」
「今回の縁談に関してーー」
その許可をもって瘴気が出始めたばかりの勢いのある山脈へ、カイトはネイバルの第一小隊十名を呼び寄せて向かった。
ある種これは、未来を賭けた魔獣との戦争なのだ。
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