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第二十五話 ドワーフの鬼才

 会議を終えたサリヴァンらは、作戦の準備のために二組に分かれて行動していた。

 敵の策に備えるため、サミュエルとアテネは兵士の召集のために仮設兵舎に向かっていた。

 その道中にて、話題はサリヴァンのことになっていた。


「エルフ領での戦いのときも思ったのだが、サリヴァン卿は才気煥発な方だ。もちろん、貴公もな」


 アテネの言葉にサミュエルは恥ずかしげに答えた。


「恐縮です。自分も、サリヴァン卿の才覚には一目置いております」


 それを聞き、アテネは笑みを浮かべて言う。


「だからあのような、試すような物言いを?」

「まぁ、試すという意味もありましたが、どちらかといえば考える余地を与えて成長してほしかったといえますね」


 そう言うとサミュエルは頭を掻いた。


「自分は基本、面倒事には首を突っ込まないようにしていたんですけどね。そんな自分が何を偉そうにと思いましたが、それを踏まえても彼には期待したい」


 そういうサミュエルの目は、どこか遠くを見据えているようだった。


「そのために、彼には経験を積んでもらいたいのですよ。実戦にしろ、はかりごとにしろ、ね」


 道中、すれ違う兵士からの敬礼に応えつつ、二人は歩を進める。


「謀において、重要なのは敵を知ることです。そのためには、視野を広げることこそが肝要です」

「視野……か?」

「戦とは、戦場で、眼前で起こっていることがすべてではない。そこに至るまでには必ず行動があり、意味がある。あるべき結果を受け入れるだけでなく、その前段階の行動から真意を読み取り、敵を計るのです。そうすれば、おのずと次の動きが、先が見えてくる」


 アテネはサミュエルの言葉を逃さぬよう、真剣に聞き入っている。


「敵の戦略を読み切れれば、あとはそれに対抗する戦略をはっきりとさせ、戦術を練る。それこそが勝利につながる」

「まさに神算鬼謀だな……」

「そんな大層なものではありません。ですが、これを本当に理解しているものは少ない。多くのものが知らないか、わかったように思い込んでいるだけです。だが、彼ならば……」


 二人の語らいは、目的地に着くまで続けられた。



 一方そのころ。

 サリヴァン、ジル、シルフィアーナらは、リラウィニカに連れられ、彼女の工房へと足を運んでいた。

 グラスゴー本城から離れた工房区域の一画に、彼女の工房はあった。

 有力者ということもあってか、その規模は同地のほかの工房に比べ、立派なものであった。

 若干の緊張と大きな期待を抱きながら、三人は工房内に足を踏み入れると、彼らの抱いていた期待は一気に崩れ去った。


「なんだこれは……」


 室内はありとあらゆるものが散乱していた。書物やらよくわからない金属体のようなものから、用途も意図も不明な物品。

 呆然とする彼らを引き連れて、リラウィニカは工房奥へと進んでいく。

 比較的開けた場所につくと、リラウィニカは三人をその場に待たせ、探し物を始めた。


「す、すごいですね……」


 ようやく、絞り出すように言葉を発するシルフィアーナに、リラウィニカが答えた。


「吾は天才だからな」


(受け答えになってないぞ……)

(天才と何とかは紙一重ということか……)


 サリヴァンとジルが心中で失礼なことを考えていたとき、ジルがあるものを見つけた。


「ん、これは……」


 ジルの興味を引いたのは一丁のマスケットであった。


「まさか、フリントロック式か!」


 埋もれていたマスケットを取り出し、その構造を見た瞬間、ジルは興奮気味に声を上げた。

 マスケットを上から下から、なめまわすかのように見るジルの姿を不思議に思ったシルフィアーナが声をかけた。


「フリントロック式……とは、どのようなものでしょうか?」

「うむ、知りたいか!?知りたいのか!ならば答えよう教えよう!!」


 目を子供のように輝かせ、嬉々として自身に迫るジルに、シルフィアーナは若干の恐怖を覚えていた。


「フリントロック式はマッチロック式、ホイールロック式に次ぐマスケットの発射機構の一つでな。国内ではほとんど流通していないのだ!その名の通り撃鉄には火縄ではなくフリントを使用しているのが特徴だ!」


 フリントとは、岩石の一種であり別名を燧石すいせき。簡単に言えば火打石のことである。


「フリントの利点は、火縄を使わないため火種がなく、また火蓋が自動で開閉するため、射撃体勢時に火蓋を開く必要がなく、天候の影響を受けにくいのだ!フリントを使うという点はホイールロック式と同じであるが、構造がホイールロック式に比べて簡素であり、動作不良が起きにくいのが特徴だ!つまり――――」


 マスケット談義を始めたジルの迫力は、シルフィアーナを黙らせ、有無を言わさず聞き入らせた。

 その様子を、少し離れた場所で見ていたサリヴァンは思うのであった。


(……ジルのマスケット愛に火をつけてしまったか。あれは長くなりそうだ)


 ジルのマスケット講習が各形式の利点と欠点に移り始めたところで、工房の主であるリラウィニカの探し物が終わった。


「待たせたの」


 そういって、リラウィニカが持ってきたのは一丁のマスケットであった。


(また銃か……)


 案の定、ジルが早速食いついた。


「リラウィニカ殿!そのマスケットは!?」

「まぁ、落ち着け」


 リラウィニカは、ごちゃごちゃと物が無造作に置かれた机まで行くと、机の上のものを押しのける。床に散らばったそれらを見て、サリヴァンは思った。


(だから部屋が汚くなるのか……)


 リラウィニカは、サリヴァンらに手招きし、三人はそれに応じる。


「さて、貴様らはガリアのドワーフが新しい銃を開発したという噂は知っておるか?」


 その問いに、三人が頷く。


「あれな、嘘じゃ」


 平然と言い放ったリラウィニカの言葉に、三人はあっけにとられる。


「なぜ、それがわかるので……?」


 恐る恐るサリヴァンが訊ねると、リラウィニカが胸を張って言う。


「吾が天才だからじゃ」


 その言葉に絶句する三人。


(意味が分からん……)

(やはり天才と何とか紙一重か……)

(この自信はどこから来るのでしょうか?)


 三者三様の感想を心中に秘める三人に、リラウィニカは言葉を続ける。


「でな、正確に言えば完成一歩手前までこぎつけたんじゃが、一発撃ったら壊れたらしくての。まぁ、どこが壊れたかは説明が面倒じゃから省くがの」


 三人は、情報源は不明だが、なぜか詳細を把握しているリラウィニカを不審に思いつつも話に聞き入る。


「でまぁ、それを聞いた吾もマスケットにちぃとばかし興味を持っての。命中精度やらなんなやらを考えて、いろいろ調べて作ったのよ」


 すると、リラウィニカは手に持っていた銃を机の上に無造作に置いた。

 それを見たジルが言う。


「一見、普通のマッチロック式に見えますが」

「これはの、従来のものとは違い、撃発の際にばねの力を使うことで、引き金を引いてから撃発までタイムラグが少ないのが特徴じゃ」


 それを聞き、ジルは嬉々とした様子で手に持ち、構えたり撃発機構を確認した。

 それとは対照的に、シルフィアーナは何がどう違うのかわからい様子だった。

 それを見たリラウィニカが説明を始めた。


「従来のマッチロック式は詳しく言えば緩発式と言っての。火縄を装着したアームと引き金が連動して撃発するんじゃが、暴発しにくい代わりにブレが酷くて命中精度が悪いのよ。フリントロック式もまた、撃発の衝撃が大きくタイムラグもあるから命中精度が悪い。じゃが、このマスケット、瞬発式はそれらの問題がなく、狙撃に向いておる。極東の首狩り族はこれを重用しておるらしい」

「はぁ、そうなのですか」


 わかったのかわからないのか何とも微妙な返答であったが、リラウィニカは気にしないことにした。


「リラウィニカ殿。この銃がミスリル騎士への対抗策ですか?」

「いや、もう一つある。これよ」


 そういって、リラウィニカが取り出したのは球状の金属であった。ちょうど、マスケットの銃口の大きさのそれを見て、サリヴァンはそれが弾丸だと気付いた。


「見たところ、弾丸のようですが。……ん?まさか、これは!」


 その弾丸を見て、サリヴァンはあることに気付いた。弾丸の見た目、形には通常のモノに比べて何も違いはなかった。だが、決定的に違うものがある。


「これは、ミスリル!」


 そう、素材である。

 通常、弾丸には鉛が使われる。

 理由は多々あるものの、大きな理由として挙げるならば、鉛が柔らかい金属であるからである。

 この柔らかいというのは非常に重要な意味があった。

 マスケットとは、銃身に弾を込めて発射する武器であるが、この弾を込めるときに、硬い金属だと不具合があるのだ。もし仮に、硬い金属である鉄が弾だった場合、銃口より弾が大きいと当然弾丸は装填できない。銃口より小さい場合は装填はできるが発射時に隙間からガスが漏れて威力の低下を招いてしまうのだ。

 ならば、銃口と全く同じ弾を作ればいいのだが、そう話はうまくいかない。

 銃口のサイズぴったりの弾など、そう簡単に作れるわけがない。

 仮に作れたとしても、それは果たして大量生産できるのか?

 これに対して、鉛ならば柔らかい金属のため、多少銃口より大きくとも無理やり押し込むことが可能だったのである。

 サリヴァンの驚きは、それらを踏まえたうえでの驚きであった。


「まさか、銃口ピッタリにミスリルを加工したのですか?」

「そのまさかよ」


 誇らしげに語るリラウィニカにサリヴァンは唖然としていた。


(なんという面倒なことを……そもそも)


「このミスリルはいったいどうしたのですか?ミスリルの加工には国王の許可が必要のはず」


 サリヴァンの指摘に、リラウィニカは悪びれることもなく言った。


「ちょいとくすねた」


 それを聞き、サリヴァンは愕然とする。


「ばれれば極刑ですよ……」

「吾は天才じゃ。心配無用」


 少し、頭痛を覚えたサリヴァンだったが、今はそんな場合ではないと思い、話を進めた。


「これでミスリル鎧を貫通できるのですか?」

「一発一発に魔法補正をかける。おそらく、貫通する。むしろ、貫通しすぎて殺傷能力は下がるかもの」

「だが、ミスリル鎧を打ち抜けるというのは大きな戦力だ。これならば、善戦できるかもしれん」


 サリヴァンらは、ミスリル騎士という大きな壁を前にわずかながらも確かな突破口を見出したサリヴァン達であった。

 この二日後、モルドレッド軍は増援部隊と合流するのだった。

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