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第十一話 開戦の歩み

 エルフ自治領に向けて出発した一行は、馬の背に揺られながらカルヴァート領内を進んでいた。

 道中、ジルが振った話題からジェラルドとの対決時の話になっていた。


「あの時のジェラルドは異常な力を持っていた。とてつもない馬鹿力だった」


 サリヴァンは、ジェラルドと対峙した時の事を思い出し語り始める。


「それに、あの魔法。モルドレッドの闇の魔法に似ていた。でなければ、あの威力は……」


 己の左腕を消し飛ばした魔法について、サリヴァンは考えを話した。


「あなたの言う通り、闇の魔法に属するものでしょう。ジェラルド卿は、モルドレッドとかなり近しい関係となっているのではないでしょうか?」


 そう言ったアルトリアに対して、ジルが答えた。


「なんとも言えません。我々には知らないことが多すぎます。闇の魔法についても、モルドレッドの暗躍についても。推測だけでしたらジェラルドとモルドレッドが繋がっていて、かつてジェラルドが起こそうとしたテロ計画は、本来ならば今回のモルドレッドの計画の一部だったのではないか?と考えますが」


 無い話ではない、とサリヴァンは思う。


「あのときは、俺が先走ったせいで背後の組織の情報が得られなかった。ただ一つ分かったのは、その組織は“教団”と呼ばれている事だけだ」


 その言葉に、アルトリアは食いついてきた。


「ジェラルド卿は、あの時のもう一人のフードの男に“教団”と言っていました!」


 教団。意味深な言葉が、そこで結びついた。


「ジェラルドが教団とやらと関係しているのは確実でしょう。そして、ジェラルドなのか、教団なのか、その両方なのかは分かりませんが、おそらくモルドレッドも関係しているのでしょう」


 ジルの言葉に二人が頷く。


「いずれにせよ、その教団とやらを調べる価値はあるかと」


 アルトリアは教団について思考を巡らせる。


「教団……確か、ジェラルド卿の一件は、国外のテロ組織が関係していたはずでしたね? ならば、教団と言うのはどこかの国の非政府組織なのかそれとも……」


 どこかの国の政府組織なのか。アルトリアが明言せずとも、二人には伝わった。


「教団ときいて、一番初めに思いつくのはアヴァロン教です。となれば、単純に考えてウィトゥルス聖教国が関連しているのではないかと愚考しますが……」


 とサリヴァンが言うと、ジルが反論する。


「それこそ愚考だ。アヴァロン教は大陸全土で共通する国教だ。他の国との関係も考えられる」


 それに対して、今まで黙っていたガブリエルが言った。


「その教団という名前自体が、ミスリードかも知れませんよ? アヴァロン教にまったく関係ないかも知れない。はたまた、そう思わせるためにわざとらしい名前を付けたのかも? どちらにせよ、名前だけで議論を繰り広げても意味は無いでしょう」


 ガブリエルの言葉に、三人は黙り込んでしまう。


「これはこれは。出過ぎた事を申し上げました。お許しください」

「いえ、よいのです。このまま無駄な論議をしていては、間違った先入観を持ってしまっていたでしょう」


 その指摘は正しかった。

 少ない情報で可能性を追求するのは必要な事だが、推測に推測を重ねるだけでは無益である。


「話を戻しましょう。わたしが気になっているのはジェラルドの異常な力もそうだが……。サリー、お前の見せた力も異常だった」


 ジルは、サリヴァンを見ると真剣な眼差しでそういった。


「あれはいったい、何なのだ?」


 ジルの言葉に、アルトリアもサリヴァンをじっと見据える。事情を知らないガブリエルだけが、前を見ていた。


「と言われてもな。俺にもよくわからん」


 サリヴァンの、説明責任を放棄したような物言いに二人は面食らい、ガブリエルが苦笑する。


「俺が分かる限りで言えることは、俺はあの湖の精霊と契約して、力を得た。その精霊は、俺の先祖と関わりがあった。それだけだな」


 精霊との契約行為自体は無いことではない。ただ、それはエルフに限った話だ。


「エルフ以外の種族が精霊と……不思議な事ですね」


 アルトリアは不可解な面持ちでそう言った。


「まぁ、その精霊と自由に会話できる訳ではないし、あの力を今出せと言われても自分はどうにも出来ませんが」

「それに関しても、エルフに会えば何か分かるのでは?」


 ジルがそう言うと、サリヴァンは答えた。


「どちらにせよ。エルフ次第だろう」


 こうして、一行は先を急ぐべく馬を走らせた。



 数日後。

 エレイン・カルヴァートは奔走していた。彼女とともに前国王派の一派閥として動いていた、盟友の貴族たちをまとめ上げるためにだ。

 前国王が死に、モルドレッド派が王国の最大勢力となったことで彼女の派閥は混乱していた。


「油断などしていなかった。と言えば嘘になりますね」


 エレインは、今回の反乱が発生した段階ではあれほどの混乱は予想していなかった。

 王国派と目されていた貴族の裏切り。振り返れば、モルドレッドの息が掛かっていたからこそ保守派のはずの反乱軍に与したのだろう。


「まずは、軍備を整えなくては……」


 エレインは、先の反乱に際して己の家臣と兵、物資を国王に供出していた。手元に残った兵力も物資も少なかった。

 モルドレッドに対抗するためには領内に散っている予備役兵士を集める必要があった。


「問題はモルドレッドの動きですね……」


 エレインは、王国全体で見れば各地方の同盟貴族の私兵と、亜人族の兵士を合わせれば現在のモルドレッドの軍には十分対抗できると考えていた。しかし、モルドレッドが支配地域の民を徴兵すれば戦況は変わる。

 職業軍人の騎士と傭兵のみの内乱から、国民すべてを巻きこんだ戦争になる。そうなってしまえば、エレインも予備役を召集するだけでなく、志願兵の募集や徴兵も行わなければならなくなる。その先にあるのは泥沼の内戦である。


「いずれにせよ、開戦まではまだ余裕はあるでしょう」


 ロンデニオンに集まっているモルドレッド派の兵士はもともと反乱軍討伐隊である。そのほとんどはモルドレッド派の貴族の率いる私兵だ。

 しかし、反乱発生から終結までが仕組まれたものだという事を知っているのは、その貴族たちだけだろうとエレインは考えていた

 つまり、兵士には知らされていない。だからこそ、混乱が生まれる。保守派討伐のために集められた改革派の兵士が、保守派ではなく同じ改革派に剣を向けることになるのだから。


「それに、まだこちらがモルドレッドに明確に反抗したわけではないですからね」


 エレインは、モルドレッドに対して宣戦布告したわけではない。宣戦布告するための準備をしているだけに過ぎないからだ。

 当然、向こうもこの動きは気付いていると、エレインは読んでいる。

 しかし、まずは警告の使者なりを送り込んでくるものだ。それを突き返してようやく向こうは軍を動かす。戦の理由を得るからだ。


「だからこそ、こちらはそれまでに対抗できる勢力を作る必要があります」


 最初の一戦が肝心であった。その結果次第で、その後の展開は変わってくる。そのためにエレインは、打てる限りの手を打とうと考えていた。




 場所は変わり。

 アルトリア派の女当主が開戦に向けての準備をする中、モルドレッド派の女騎士は主のために動いていた。グロリアーナ・ブラックソーンである。

 現在彼女は、主に代わりモルドレッド派の有力者、各部署の担当者たちと会議を行っていた。


「軍の統一はどうか?」


 担当する者たちに質問し、その返答を聞きまとめてモルドレッドに伝えるのが彼女の務めだった。


「予想より難航しております。とくに、若い騎士の反発が……」


 かねてから計画されていた反乱であったが、その真意を知らずに討伐の名目で集められた騎士たちは、突如として終結した反乱に困惑していた。

 さらに、自身の主の仕える王が変わったとあればなおさらである。そして、その新たな王の妹でもある第二王女アルトリアがその新たな王に反発し、独自の勢力を築きいて反乱を企てていると聞かされれば混乱しないはずがなかった。


「く……やはり、アルトリア姫が原因か……」


 騎士姫と呼ばれるだけはあり、国内の騎士はアルトリア姫を崇拝とまではいかずとも、畏敬の念を抱いていた。


「今しばしお時間をいただきたく」


 このまま敵に時間を与えるのは避けたいと、グロリアーナは考えていた。


「悠長なことをしていられない。陛下が権力を握ったとはいえ、その基盤は盤石ではない。アルトリア姫に付け入られる前につぶさねば……」


 焦るグロリアーナに、一人の騎士が反発した。


「しかし、だからこそ反発が起きるのです。陛下の理想を理解できない馬鹿どもを躾けるには力が……」


 それを聞いた担当者たちから次々と意見が上がった。


「教団からは、さらなる支援の用意があると……」

「ガリアからも派兵の打診が……」


 だが、グロリアーナの苦悶の表情は変わらなかった。


(これ以上頼れば付け込まれる……)


「何か、策を打たねば……」


 モルドレッドたちの最大の失敗はアルトリアを逃したことだった。個人の武力と影響力を見誤ったのが原因である。

 国内最大の勢力となったモルドレッド派だったが、その権力はまだ完全ではなかった。


「失礼、小官に考えがあります」


 グロリアーナが焦るなか、一人の若い騎士がある策を語った。それを聞いた会議の参加者達から、次々と賛同の意が上がる。


「なるほど、それならば……先手を取れる」

「では、あやつらを使えば……」


 これが成功すれば、敵の動きを一気に押さえ込める。

 そんな一手であった。



 一方そのころ。

 両勢力の女傑が活動するなか、アルトリア一行はエルフ自治領に到着していた。

 エルフ自治領ウェールズ地方、領都キャメロット。アルビオン王国建国以来、エルフ族は王国より高度な自治権を与えられてきた。

 しかし、前国王ジェームズの父、ロバート三世とさらにその父ロバート二世の治世にて、エルフを含む亜人族に対する自治権の一部を剥奪し、軍縮を命ぜられることとなる。

 当然、一部のエルフ、特に当時の若いエルフから反発があったが、族長等に諌められ大きな混乱を生むことは無かった。

 まず、エルフという種族について考えねばならない。エルフ族と人間族を同じに考えてはならない。エルフは基本的に長命であるとされていた。平均寿命は約400歳と言われているが、寿命に関しては個人差が大きい。最高600歳とも1000歳とも言われている。

 また、エルフは義理堅く、清廉潔白な性格をしている。そんな、エルフ族の治める領都キャメロットは天然の要害に守られたキャメロット城を中心にエルフ族の伝統建築の集落が広がる緑豊かな地であり、別名“深緑の都”と呼ばれていた。


「なんとも神秘的な街ですね……。それに、空気が澄んでいるように思います。とても、良い街です」


 アルトリアが街並みを眺めながら感嘆の声をあげる。事前に訪問の連絡はしてあったため、一行は問題なくキャメロットに入ることはできた。


「光栄であります。族長のところへご案内いたします」


 案内人のエルフも見た目二十代後半と言ったところだが、その年齢は百を超えていた。


「キャメロット城には向かわれないのですか?」


 進行方向がキャメロット城に向いていないためか、アルトリアは案内人のエルフに問うた。


「はい。キャメロット城には平時の居住区画はありませんので、族長は別に住居を構えております」


 サリヴァンは、キャメロットの構造に興味を惹かれていた。

 本城の防衛も含め、都市の守りも市壁ではなく天然の川、谷、森を利用しており、人工物は堀と柵くらいであった。その代わり、キャメロットを囲む妖精の森には、防衛施設が点在していた。

 それを聞いたサリヴァンは考える。


(深い森が大群の進行を阻み、都市に迫る前に各個撃破するのが防衛の基本方針だろうな。さて、深緑の都の守り手は、果たして我々に味方してくれるか……この後の交渉次第か)


 一抹の不安を抱えながらも、一行は進んだ。

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