第46話 今の4人
アルドが杖を構えた。
「じゃあ次は、こっちの29年を見せるか」
魔王の目が細くなる。
「来い」
最初に動いたのはバルクだった。
踏み込む。
拳を振り上げるでもなく、身体ごとぶつかるでもない。ごく短い距離から、拳が魔王の胸へ触れた。
次の瞬間。
重い衝撃が内部で爆ぜた。
「っ……!」
魔王の巨体が初めて大きく揺れる。
外から見れば、鎧はほとんど傷ついていない。それでも胸の奥へ衝撃だけが通った。
「29年前とは違うな」
「そりゃそうだろ」
バルクが笑う。
「昔はもっと、力任せだった」
魔王が反撃する。
腕が振るわれた。
だが、その前にレイがいる。
剣が走る。
速い。
だが、速さだけではない。
踏み込みがほとんど見えない。肩も上がらない。刃だけが、最短で魔王の首元へ届く。
魔王が身体をひねる。
浅く血が飛んだ。
「……あの日より、無駄がない」
「29年もあればね」
レイは淡々と答える。
その直後、アルドの術式が展開された。
魔王が身構える。
炎。
そう見えた。
だが、放たれた術式は途中で圧縮され、風へ切り替わる。さらに魔王が防御を変えた瞬間、雷へ変化した。
「ぐっ!」
雷撃が肩を撃ち抜く。
アルドは杖を下ろさない。
「昔は4つも5つも同時に並べてたんだけどな」
「十分化け物ですよ」
後ろでダリオが呟く。
「今の方が楽なんだよ。1つで変えればいいし」
「その発想がもうおかしいんですよ」
アルドは聞かなかったことにした。
魔王が一気に距離を詰める。
狙いはアルド。
そこへセリアが手を伸ばした。
淡い光が、攻撃が届く前にアルドの身体を包む。
魔王の爪が肩を裂く。
だが、傷はほとんど開かない。
血が出る前に肉が閉じていく。
魔王が僅かに目を見開いた。
「傷を負ってから治しているのではないのか」
「昔はね」
セリアが答える。
「今は、傷ができる前に身体を整える方が早いの」
ルークたちは息を呑んだ。
自分たちが教わったもの。
その先が、目の前にある。
魔王が魔力を解放する。
黒い波が広間を埋める。
アルドの障壁が受ける。
同時にバルクが突破し、レイが横へ回る。
セリアの治癒が2人へ先回りしている。
連携。
だが、それだけではない。
4人とも、29年前とはまるで違う戦い方をしている。
魔王の攻撃が届く。
防がれる。
かわされる。
受けても即座に立て直される。
そして反撃だけが確実に積み重なる。
「……なぜだ」
魔王が初めて下がった。
バルクの拳で胸を打たれ。
レイの剣で腕を裂かれ。
アルドの術式に肩を焼かれ。
セリアの支援によって、誰1人止まらない。
「なぜ、あの日の4人より強い」
アルドが少しだけ呆れた顔をした。
「いや、そりゃ強くなるだろ」
「何?」
「29年だぞ」
バルクが続ける。
「こっちも何もしてなかったわけじゃねえ」
「畑もやってたけどな」
「それ今言う?」
レイが呆れる。
魔王は笑わなかった。
むしろ。
ゆっくりと口元だけを歪めた。
「そうか」
玉座の後方へ手を向ける。
「ならば、確かめてやろう」
アルドの表情が変わる。
魔王の背後。
巨大な魔法陣が浮かび上がった。
そこへ、4つの人影が形を取り始める。
「何だ、あれ……」
エマが呟く。
最初に現れたのは、杖を持つ少年。
次に、大剣を背負った少年。
細身の剣を持つ少女。
最後に、白い法衣の少女。
全員、若い。
どう見ても10代後半。
だが。
アルドたち4人だけが、その姿を見た瞬間に固まった。
「……嘘だろ」
バルクが呟く。
レイが額を押さえる。
「最悪」
セリアも珍しく顔をしかめた。
ダリオが混乱する。
「何なんですか、あれ」
アルドはしばらく答えなかった。
そして、心底嫌そうに言った。
「……俺たちだよ」
「え?」
「18歳の頃の」
魔王が笑う。
「29年前。実際に我を殺した4人だ」
ダリオたちの顔色が変わる。
一方。
アルドは若い自分が構えた杖を見て、さらに顔をしかめた。
「うわ……術式でかい」
バルクも若い自分の構えを見る。
「俺、こんなに力んでたか?」
レイは一度目を逸らした。
「踏み込み深すぎ。恥ずかしい」
セリアも小さく溜息をつく。
「怪我してから治してる……若いわね」
ダリオが4人を見回した。
「ちょっと待ってください」
魔法陣の中。
18歳のアルドが、巨大な術式をいくつも同時に展開する。
その魔力だけで、広間が震えた。
18歳のバルクが一歩踏み込む。
床が砕ける。
18歳のレイが剣を抜く。
その瞬間、カレンですら刃を見失った。
18歳のセリアの周囲には、複数の治癒術式が同時に浮かんでいる。
「これのどこが恥ずかしいんですか!?」
ダリオの叫びが、広間に響いた。




