第47話 18歳の英雄たち
最初に動いたのは、18歳のバルクだった。
一歩踏み込んだだけで石床が砕ける。その勢いのまま振り抜かれた拳を、現在のバルクが正面から受けた。
轟音。
衝撃が広間を走り、近くにいたルークたちの服まで大きく揺れる。
「うわ……!」
ルークが思わず声を上げた。
18歳のバルクは止まらない。踏み込み、殴る。そのたびに床が砕け、空気が震える。
「先生、昔からこんなだったの?」
「いやあ……もっと上手くやってたつもりなんだけどな」
現在のバルクは拳を受け流しながら、少し困った顔をした。
「ほら、また肩に力入ってる」
「そこ気になるんですか!?」
ダリオが叫ぶ。
次の瞬間、現在のバルクの拳が18歳の自分の胸へ短く触れた。
外から見れば、小さな一撃。
だが内部で衝撃が爆ぜ、18歳のバルクが大きく後ろへ滑った。
「力はあるんだけどな」
バルクが肩を回す。
「外に逃がしすぎだ」
ルークは何も言えなかった。
自分から見れば、18歳のバルクの一撃だけでも十分に異常だった。それを本人だけが未完成品として見ている。
反対側では、2人のレイが剣を交えていた。
18歳のレイが消える。
「見えない……!」
エマが目を凝らす。
次の瞬間には、現在のレイの首元へ刃が迫っていた。
だが、現在のレイは半歩も動かない。
剣先だけを僅かにずらし、攻撃を流す。
そのまま一閃。
18歳のレイの頬に細い傷が走った。
「速っ……」
カレンが呟く。
「どっちが?」
「両方よ!」
現在のレイは少し眉を寄せた。
「やっぱり踏み込みが深い」
「だから、それであの速さなんですよね!?」
エマが思わず聞く。
「そうだけど、戻るの遅くなるでしょ」
「十分速いです!」
今度はエマまで突っ込んだ。
レイは不思議そうな顔をした。
18歳のアルドが杖を上げる。
その周囲に、巨大な術式が一気に5つ展開された。
炎。
氷。
雷。
風。
光。
「5つ同時……」
フィンの声が掠れる。
「これを18歳で?」
魔法が一斉に放たれる。
現在のアルドは杖を1度だけ振った。
小さな術式が1つ。
炎へ変わる。
氷へ変わる。
雷へ変わる。
飛んでくる魔法に合わせて形を変えながら、5つの術式を順番に崩していく。
最後の光まで消えた。
「……嘘だろ」
フィンが呟く。
「昔の俺、魔力使いすぎだな」
アルドは別のところを気にしていた。
「5つ維持する必要ないだろ。1つで足りる」
「普通は1つを途中で5回変えられません」
「そう?」
「そうです」
ミナが真顔で答えた。
最後はセリアだった。
18歳のセリアは、傷を負った仲間へ次々と治癒を飛ばす。
速い。
重傷ですら数秒で塞がる。
ユナが息を呑んだ。
「これだけでも、今の聖職者じゃ到達できない……」
だが現在のセリアは首を傾げる。
「遅いわね」
「え?」
「傷ができてから治してるもの」
18歳のバルクに傷が入る。
その瞬間、18歳のセリアが治す。
ほぼ一瞬だ。
「どこが遅いんですか!?」
「傷ができてるでしょ?」
ユナは黙った。
現在のセリアは、その少し前から治癒を重ねている。傷が生まれる瞬間には、すでに身体が回復へ向かっている。
違いは僅か。
だが、その僅かが積み重なれば、長い戦いでは決定的な差になる。
「……これが29年前」
ダリオが4人の再現体を見る。
18歳。
未完成。
本人たちにとっては恥ずかしい過去。
それでも。
「こんなのが4人いたら、そりゃ魔王軍も負けるだろ……」
誰も否定しなかった。
魔王だけが、黙って戦いを見ている。
18歳の4人は強い。
間違いなく、当時の世界で頂点に届いていた。
だが。
現在の4人は、そのさらに先にいる。
29年。
積み重ねてきた時間の差が、少しずつ戦場へ表れ始めていた。




