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『伝説の英雄たちは田舎で静かに暮らしたい ~25年前に魔王を倒した俺たち、村の子供を普通に鍛えたつもりが全員規格外になっていた~』  作者: オレンジペコ


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第44話 魔王城の奥

 ヴェルガが消えたあとも、城の奥から流れてくる魔力は弱まらなかった。


 むしろ近づくほど重くなる。


 空気そのものに圧があるようで、呼吸するたびに胸の奥が押される。


「これが……魔王?」


 エマが小さく呟く。


「昔より強い」


 レイが即答した。


 ダリオが振り向く。


「分かるんですか?」


「29年前は、こんなに城の外まで魔力が漏れてなかった」


 アルドも頷く。


「集めた魔石、本当に全部自分へ突っ込んだみたいだな」


「そんなことできるの?」


 ミナが聞く。


「普通は無理。身体が保たない」


「魔王なら?」


「だから厄介なんだろうな」


 軽く言っているが、アルドの視線は城の奥から外れない。


 4人とも、もう昔話をしている顔ではなかった。


 魔王城の内部は、かつての戦いで半分以上が崩れている。


 それでも地下へ続く階段だけは修復されていた。


 先頭をダリオたちが進み、ルークたちが続く。その後ろをアルドたち4人が歩く。


「先生たちが前じゃなくていいの?」


 ルークが聞いた。


「お前らが先に行きたい顔してるから」


 バルクが答える。


「してた?」


「してた」


「……まあ、してたかも」


 階段を下りきる。


 その先には巨大な通路が伸びていた。


 壁には何本もの黒い管が走っている。


 ミナが近づいて触れようとする。


「待って」


 ノアが止めた。


「まだ流れてる」


「魔力?」


「うん。奥へ」


 フィンが術式を確認する。


「魔石から抜いた魔力を送ってた管だな」


「じゃあ、この先が」


「本体だろうな」


 誰も足を止めなかった。


 途中で魔族が何度か現れた。


 だが、ヴェルガがいた時とは違う。


 数人ずつ。


 連携もない。


 ある者は正面から突っ込み、ある者は魔法を撃って逃げる。


 ルークたちは止まらず突破した。


「本当にバラバラになったな」


 ダリオが言う。


「ヴェルガが全部まとめてたんだろうね」


 カレンが答える。


 敵の強さが消えたわけではない。


 ただ、軍ではなくなった。


 城を守る最後の組織だった防衛は、もうない。


 やがて通路の先に、大きな扉が現れた。


 高さは人の3倍以上。


 表面には古い魔族文字が刻まれている。


 アルドが足を止めた。


「覚えてる」


 バルクも扉を見上げる。


「あったな、これ」


 エマが2人を見る。


「29年前も?」


「うん」


 レイが答えた。


「この先で戦った」


 その一言で空気が変わる。


 ここだ。


 29年前。


 18歳だった4人が魔王と戦った場所。


 ルークは扉へ手をかけた。


「開けるよ」


「待って」


 セリアが全員を見る。


「怪我してる人」


 ダリオの腕。


 カレンの脇腹。


 エマの肩。


 軽傷ではあるが、傷は残っている。


「全部治してから入るわよ」


 淡い光が広がった。


 数秒後。


 全員の傷が消える。


「……準備できた」


 セリアが言う。


 ルークとダリオが扉を押した。


 重い音を立てて、巨大な扉が開いていく。


 その先は広大な円形の間だった。


 中央。


 黒い玉座がある。


 そこに、誰かが座っていた。


 大きな角。


 黒い髪。


 全身から溢れる、異常な魔力。


 アルドたち4人が同時に止まる。


「……やっぱり、お前か」


 アルドが言った。


 玉座の男が、ゆっくり顔を上げる。


「久しいな」


 低い声が広間に響く。


「魔王殺しの4人」


 29年前に倒された魔王が、そこにいた。


 そして魔王は、現在の4人を見て笑った。


「随分と老けたものだ」


 バルクの眉が動く。


「お前に言われたくねえな」


「我は変わらぬ」


「魔力はだいぶ増えてるけどな」


 アルドが言う。


 魔王は否定しなかった。


「当然だ」


 玉座から立ち上がる。


 その瞬間。


 床が僅かに沈んだ。


「一度敗れたなら、同じまま戻る意味はない」


 魔王が片手を開く。


 城全体を満たしていた魔力が、その身体へ集まっていく。


「29年前、我に足りなかったのは力だった」


 アルドの目が細くなる。


「だから集めた」


 魔王が笑う。


「今度は、お前たち4人があの日のまま現れたとしても――」


 魔力が爆発的に膨れ上がった。


「力で潰せるほどにな」

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