第43話 ヴェルガの防衛線
城門の内側へ踏み込んだ瞬間、ヴェルガの狙いが分かった。
正面には30を超える魔族。その後方には魔術師が並び、左右の崩れた建物にも兵が潜んでいる。さらに地面には複数の術式が埋め込まれていた。
「狭い場所に押し込んで、一気に潰す気だ」
ダリオが言う。
「正解だ」
ヴェルガが剣を抜いた。
「ゼルガほどの力は俺にはない。ならば、持っている兵と場所を使うだけだ」
その言葉と同時に城門が閉じる。前後を塞がれた。
「上!」
ノアが叫ぶ。
城壁から岩塊が落ちてくる。
アルドが障壁を張ろうとしたが、ルークが先に動いた。
「先生、待って!」
拳が落下してきた岩へ触れる。
衝撃が内側へ走った。
岩塊は空中で砕け、細かな破片となって降り注ぐ。
「……それ、そう使うのか」
バルクが感心する。
「使えそうだったから」
「俺はやったことないぞ」
「え?」
ルークが一瞬だけ振り返る。
「前見て!」
エマの声。
魔族の前衛が突っ込んできた。
ダリオたち4人が正面を受け、ルークたちは左右へ広がった。
「右の壁、3秒後に崩れる!」
ノアの声に全員が反応する。
直後、地面の術式が光った。
壁が倒れ、こちらを分断しようとする。
「ミナ!」
「分かってる!」
ミナが杖を地面へ向ける。
土の術式が壁の下へ走り、崩れかけた石組みを下から押し上げた。
轟音。
倒れかけた壁が寸前で止まる。
「エマ、左から2人!」
「見えてる!」
1人目の剣を受ける。
2人目が脇から突く。
エマは避けようとせず、あえて身体を沈めた。肩を押されて崩れた姿勢のまま剣を走らせる。
低い軌道の一閃。
2人の足元が同時に崩れた。
「今!」
ルークが抜ける。
ヴェルガへ一直線。
「来ると思ったぞ」
ヴェルガが剣を振るう。
ルークは受けない。
「右!」
ノアの声に従い、寸前で身体をずらした。
剣が空を切る。
ルークの拳がヴェルガの胸当てへ触れた。
ヴェルガは即座に後ろへ跳び、衝撃を逃がした。
「ゼルガが受けた技だろう。真正面から受けると思うか」
「じゃあ、受けなくていい」
「何?」
ヴェルガの着地点へ、短剣が飛んでいた。
ノアだ。
ヴェルガが身体を捻って避ける。
その先へエマが入る。
剣と剣がぶつかった。
ヴェルガはエマの体勢を崩す。
だが、エマはそのまま斬った。
「っ!」
肩口から血が飛ぶ。
距離を取ろうとした瞬間、ミナの火球が迫る。
ヴェルガが火炎を防ぐ障壁を張った。
その直前、火球の術式が風へ変わる。
炎を受け止めるために広げた障壁の脇を風刃が抜け、ヴェルガの脇腹を裂いた。
「くっ……!」
剣で追撃を払う。
その一瞬。
「そこ!」
ノアが叫ぶ。
ルークが踏み込んだ。
今度は逃げられない。
拳が腹部へ触れる。
鎧は砕けない。
だが、その奥で衝撃が爆ぜた。
「がっ――!」
ヴェルガの身体が浮き、石床へ叩きつけられた。
剣が手から離れる。
それでも立とうとする。
エマが右から迫る。
ミナの風刃が左を塞ぐ。
ノアの短剣が、後ろへ退く位置へ先に飛んでいた。
「……!」
残されたのは正面だけ。
そこにルークがいる。
「おおっ!」
拳が胸当てへ触れた。
次の瞬間、鎧の内側で重い衝撃が爆ぜた。
ヴェルガの身体が大きく揺れる。
膝が落ちた。
「……ゼルガを倒したというのも、誇張ではなかったか」
黒い鎧に亀裂が走る。
そこから淡い魔力の粒が漏れ始めた。
「ヴェルガ様!」
近くにいた魔族が叫ぶ。
ヴェルガは返事をしない。
身体の端から、少しずつ崩れ始めている。
そしてヴェルガが倒れた瞬間、防衛線の統率も切れた。
次の指示が飛ばない。
城の奥へ走る者。後ろへ下がる者。その場で立ち尽くす者。それまで1つの軍として動いていた魔族たちが、一気に崩れ始める。
「追うな!」
ダリオが声を張る。
「向かってくる奴だけ止めろ! 城の奥へ進むぞ!」
もう組織だった防衛ではなかった。
ヴェルガという大将を失い、魔王城の入口は崩れた。
「……遅かったな」
消えかけたヴェルガの声が聞こえた。
アルドが振り向く。
「何がだ」
「お前たちが、止めようとしていたものだ」
ヴェルガの視線が、城内の巨大な金属枠へ向く。
周囲には砕けた魔石が大量に散らばっていた。
どれも、中の魔力が抜けている。
「魔石……」
ミナが呟く。
「王は29年前の敗北を忘れていない」
ヴェルガの身体が腰まで光の粒へ変わる。
「あの日、王に足りなかったのは力だった」
アルドの表情が変わる。
「だから集めたのか」
「そうだ」
ヴェルガの口元が僅かに歪む。
「同じ4人が再び現れても、今度こそ力で潰せるようにな」
ミナが城の奥を見る。
「じゃあ、今まで運ばれてた魔石は……」
「もう王へ渡った」
それを最後に。
ヴェルガの身体は、光の粒となって消えた。
その直後。
魔王城の奥から、重い魔力が広がってきた。
29年前とは比べものにならないほどの圧が、城全体を震わせていた。




