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『伝説の英雄たちは田舎で静かに暮らしたい ~25年前に魔王を倒した俺たち、村の子供を普通に鍛えたつもりが全員規格外になっていた~』  作者: オレンジペコ


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第40話 超えられた

 ゼルガは黒い鎧についた血を一度だけ見て、構えを変えた。


 もう様子を見る気はない。


「来い」


 声が低くなる。


 ルークたち4人にも分かった。ここからが本気だ。


「ノア」


「見てる」


 ルークが前へ出るより早く、ゼルガが間合いを潰した。拳が顔面へ迫るが、ルークは紙一重でかわす。


「右!」


 続く魔力刃はエマへ向かった。


「エマ!」


 攻撃が届く前に、ノアの治癒が飛ぶ。


 次の瞬間、魔力刃がエマの腕を裂いた。


「っ!」


 だが、傷は開いたそばから塞がっていく。


「今のも先に!?」


「来ると思ったから!」


 エマは止まらない。崩れた姿勢のまま身体を沈め、低い位置から斬り返す。


 ゼルガがかわす。


「ミナ!」


「もうやってる!」


 火球が飛ぶ。ゼルガが横へ動くと、火球は途中で風へ変わって軌道を曲げた。さらに着地点の直前で土へ変わり、地面が盛り上がる。


「またか!」


 一瞬、足が止まる。


 そこへルーク。


 拳が黒い鎧へ触れた。


 派手な音はしない。鎧も砕けない。


 それなのに次の瞬間、ゼルガの胸の奥で衝撃が爆ぜた。


「がっ……!」


 巨体が大きく揺れ、口元から血が落ちる。


「……何だ、その一撃は」


「まだ名前ない」


「今そこ!?」


 エマが叫ぶ。


 ゼルガは笑わなかった。


 すぐに反撃へ移る。


 狙いはノア。


 治癒も先読みも、こいつを止めれば崩れる。


 だがノアは逃げず、短剣を投げた。


 狙いはゼルガではない。


 何もない右前方。


「……?」


 ルークの剣を避けたゼルガが、そこへ踏み込む。


 ザシュッ!


「っ!」


 短剣が太腿を裂いた。


「そこに来ると思った」


 さらに風刃。


 今度も、ゼルガが動く先へ先に置かれている。


 肩口から血が飛ぶ。


 ゼルガが方向を変える。


「ミナ、左!」


「了解!」


 土壁が立つ。


「エマ、下!」


 ゼルガの一撃で体勢を崩されたエマは、立て直さない。そのまま倒れ込む勢いを回転へ変え、地面すれすれから剣を振り上げた。


 ザシュッ!


「ぐっ……!」


 脇腹に深い傷。


 ゼルガが大きく下がる。


 まだ自分の方が上。


 そう思っていた。


 だが、攻撃するたびに対応される。


 崩しても止まらない。


 追えば先に攻撃を置かれる。


 魔法は途中で別物に変わる。


 そして、ルークの拳だけは受けても駄目だった。


「……ふざけるな」


 ゼルガが一気に速度を上げる。


 ルークを抜き、エマの剣を弾き、ミナの術式を力ずくで破る。


 ノアへ一直線。


「2秒後、右」


 ノアが静かに言った。


 ゼルガが拳を振るう。


 ノアは半歩だけかわす。


 その先。


 ルークが待っていた。


「おおっ!」


 短い拳。


 ゼルガは両腕を交差して受ける。


 鎧は壊れない。


 その直後。


 ドンッ!!


 腹の奥で衝撃が爆ぜた。


「がっ……!」


 膝が落ちる。


 エマが斬り込む。


 ミナの術式が火から風、風から雷へと変わり、逃げ道を削っていく。


 残った方向へゼルガが踏み込む。


 そこには、もうノアがいた。


「……!」


 先回りされている。


 短剣が肩へ深く入り、続けて至近距離の風刃が炸裂した。


 ゼルガの身体が大きく傾く。


 それでも立った。


「まだだ……!」


 ルークが正面。


 エマが右。


 ミナが左。


 ノアは、次の動きを見ている。


 数日前まで。


 確かに自分の方が上だった。


 それが今は、攻撃を通すために考え、逃げ道を探し、4人の動きを警戒している。


「……そうか」


 ようやく分かった。


 追いつかれたのではない。


 もう、超えられていた。


 ゼルガは最後に踏み込んだ。


 ルークも前へ出る。


 拳が黒い鎧へ静かに触れた。


 次の瞬間。


 ゼルガの身体の奥で、これまでで最も大きな衝撃が爆ぜた。


「――っ!」


 黒い鎧に亀裂が走る。


 ゼルガの膝が地面についた。


「終わりだ」


 ダリオが低く言う。


 ゼルガは答えない。


 立とうとする。


 だが、もう身体が動かない。


 やがて黒い鎧の隙間から、淡い光の粒がこぼれ始めた。


 ルークたちは黙ったまま見ていた。


 ゼルガがゆっくり顔を上げる。


「29年前」


 低い声が響く。


「俺が魔王殺しの4人から退いた理由を、教えてやる」


 4人の表情が変わる。


「魔王が討たれた場合、魔王城の中枢封印を解除できるのは、王から直接力を与えられた四天王だけだった」


 光が少しずつ強くなる。


「他の3人が生きている保証はなかった。俺まで倒れれば、王が戻る道は閉ざされる」


 だから退いた。


 あの時だけは、生き残らなければならなかった。


 ゼルガの身体が、足元から崩れ始める。


「だが」


 その口元が僅かに歪んだ。


「もう遅い」


 ミナが息を呑む。


「まさか……」


「封印は、とっくに開いている」


 誰も言葉を返せなかった。


 ゼルガは最後にルークたち4人を見る。


「……29年前の4人も、厄介なものを残したな」


 その言葉を最後に。


 魔王軍四天王“黒将”ゼルガは、光の粒となって消滅した。


 勝った。


 確かに、4人はゼルガを超えた。


 だが同時に。


 魔王復活への道は、すでに開かれていた。

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