第39話 もう通じない
空だった荷車を調べると、荷台には大きな物を固定していた跡が残っていた。さらに街道脇には、途中から森へ入っていく深い轍がある。
「何かを載せ替えたっぽいな」
ダリオがしゃがみ込み、地面を見る。
「追う。ただし、今度は慎重にだ」
「分かってるって」
ルークたち4人も頷き、8人で轍を追った。
1時間ほど進んだところで、ノアが足を止める。
「前に1人いる」
全員が武器へ手を伸ばした。
森を抜けた先。そこに立っていたのは、黒い鎧のゼルガだった。
「またお前たちか」
「空だった荷車、何を運んでた?」
ルークが聞く。
「教えると思うか?」
「思ってない。一応聞いただけ」
「なら聞くな」
「それ、前にも言われたな」
ゼルガが僅かに眉を動かした。
「本当に似てきたな」
「誰に?」
答えはない。
次の瞬間、ゼルガの姿が消えた。
「右!」
ノアの声に、ルークが半歩ずれる。見えない衝撃が頬の横を抜け、その直後に飛んできた2発目をエマが剣で弾いた。
ゼルガの眉が僅かに動く。
そこへミナの火球。
ゼルガが横へかわすと、火球は途中で風へ性質を変え、軌道そのものを曲げた。
「またそれか」
さらに避ける。
その先には、もうルークがいた。
「ふっ!」
拳が黒い鎧へ触れる。
ドッ!
「……!」
鎧は割れない。だが衝撃だけが内部へ抜け、ゼルガの身体が2歩下がった。
「今の、かなり入った!」
「喜ぶのは後!」
エマが踏み込む。
ゼルガは足を狙って体勢を崩した。だがエマは無理に立て直さず、倒れ込む勢いをそのまま回転へ変える。
低い位置から斬撃。
ザシュッ!
黒い鎧に浅い傷が走った。
ゼルガが距離を取る。
数日前までとは明らかに違う。
ルークは力任せに押さなくなった。エマは体勢を崩されても攻撃が途切れない。ミナの魔法は、放たれたあとですら性質が変わる。
そしてノア。
ゼルガがエマへ魔力刃を放とうとした、その瞬間だった。
「エマ!」
攻撃より先に、ノアの治癒が飛ぶ。
直後、魔力刃がエマの腕を裂いた。
「っ!」
だが、傷は開いたそばから塞がっていく。
「今、先に治したの!?」
「来ると思ったから!」
ゼルガの目が細くなる。
ならば、本人を潰す。
一気にノアへ踏み込んだ。
だがノアは逃げない。
短剣を投げる。
狙いはゼルガではない。
誰もいない右斜め前。
「何――」
ルークの剣をかわしたゼルガが、ちょうどそこへ踏み込む。
ザシュッ!
短剣が太腿を裂いた。
「そこに来ると思った」
さらにノアは風刃を放つ。
これも現在のゼルガには向かっていない。次に避ける先だ。
風刃が肩を掠め、血が飛んだ。
「ノア、やった!」
「まだ!」
ノアはすぐに続ける。
「ルーク、2秒後に前! エマは右! ミナ、左を塞いで!」
3人が迷わず動いた。
ゼルガも動く。
だが、避けようとした先にミナの土壁。反対側にはエマ。正面にはルークがいる。
拳。
剣。
魔法。
ゼルガは3つを受け流し、大きく後ろへ跳んだ。
「……」
一度、間合いを切る。
ゼルガは4人を見た。
まだ自分の方が強い。
速度も、経験も、技も上だ。
それは変わらない。
だが。
戦うたびに、こちらの手が通じなくなっていく。
その感覚に、ゼルガは覚えがあった。
29年前。
魔王殺しの4人と戦っていた時と同じだった。
「……気に入らんな」
ゼルガはそう呟き、4人を見据えた。




