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『伝説の英雄たちは田舎で静かに暮らしたい ~25年前に魔王を倒した俺たち、村の子供を普通に鍛えたつもりが全員規格外になっていた~』  作者: オレンジペコ


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第39話 もう通じない

 空だった荷車を調べると、荷台には大きな物を固定していた跡が残っていた。さらに街道脇には、途中から森へ入っていく深い轍がある。


「何かを載せ替えたっぽいな」


 ダリオがしゃがみ込み、地面を見る。


「追う。ただし、今度は慎重にだ」


「分かってるって」


 ルークたち4人も頷き、8人で轍を追った。


 1時間ほど進んだところで、ノアが足を止める。


「前に1人いる」


 全員が武器へ手を伸ばした。


 森を抜けた先。そこに立っていたのは、黒い鎧のゼルガだった。


「またお前たちか」


「空だった荷車、何を運んでた?」


 ルークが聞く。


「教えると思うか?」


「思ってない。一応聞いただけ」


「なら聞くな」


「それ、前にも言われたな」


 ゼルガが僅かに眉を動かした。


「本当に似てきたな」


「誰に?」


 答えはない。


 次の瞬間、ゼルガの姿が消えた。


「右!」


 ノアの声に、ルークが半歩ずれる。見えない衝撃が頬の横を抜け、その直後に飛んできた2発目をエマが剣で弾いた。


 ゼルガの眉が僅かに動く。


 そこへミナの火球。


 ゼルガが横へかわすと、火球は途中で風へ性質を変え、軌道そのものを曲げた。


「またそれか」


 さらに避ける。


 その先には、もうルークがいた。


「ふっ!」


 拳が黒い鎧へ触れる。


 ドッ!


「……!」


 鎧は割れない。だが衝撃だけが内部へ抜け、ゼルガの身体が2歩下がった。


「今の、かなり入った!」


「喜ぶのは後!」


 エマが踏み込む。


 ゼルガは足を狙って体勢を崩した。だがエマは無理に立て直さず、倒れ込む勢いをそのまま回転へ変える。


 低い位置から斬撃。


 ザシュッ!


 黒い鎧に浅い傷が走った。


 ゼルガが距離を取る。


 数日前までとは明らかに違う。


 ルークは力任せに押さなくなった。エマは体勢を崩されても攻撃が途切れない。ミナの魔法は、放たれたあとですら性質が変わる。


 そしてノア。


 ゼルガがエマへ魔力刃を放とうとした、その瞬間だった。


「エマ!」


 攻撃より先に、ノアの治癒が飛ぶ。


 直後、魔力刃がエマの腕を裂いた。


「っ!」


 だが、傷は開いたそばから塞がっていく。


「今、先に治したの!?」


「来ると思ったから!」


 ゼルガの目が細くなる。


 ならば、本人を潰す。


 一気にノアへ踏み込んだ。


 だがノアは逃げない。


 短剣を投げる。


 狙いはゼルガではない。


 誰もいない右斜め前。


「何――」


 ルークの剣をかわしたゼルガが、ちょうどそこへ踏み込む。


 ザシュッ!


 短剣が太腿を裂いた。


「そこに来ると思った」


 さらにノアは風刃を放つ。


 これも現在のゼルガには向かっていない。次に避ける先だ。


 風刃が肩を掠め、血が飛んだ。


「ノア、やった!」


「まだ!」


 ノアはすぐに続ける。


「ルーク、2秒後に前! エマは右! ミナ、左を塞いで!」


 3人が迷わず動いた。


 ゼルガも動く。


 だが、避けようとした先にミナの土壁。反対側にはエマ。正面にはルークがいる。


 拳。


 剣。


 魔法。


 ゼルガは3つを受け流し、大きく後ろへ跳んだ。


「……」


 一度、間合いを切る。


 ゼルガは4人を見た。


 まだ自分の方が強い。


 速度も、経験も、技も上だ。


 それは変わらない。


 だが。


 戦うたびに、こちらの手が通じなくなっていく。


 その感覚に、ゼルガは覚えがあった。


 29年前。


 魔王殺しの4人と戦っていた時と同じだった。


「……気に入らんな」


 ゼルガはそう呟き、4人を見据えた。

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