第38話 今度は荷車を止める
東の旧街道へ着いた頃には、日が傾き始めていた。
道には戦闘の跡が続いている。折れた槍、抉れた地面、倒れた木。それでも死体はない。
「やっぱりゼルガだな」
ダリオが走りながら言う。
「邪魔な相手だけ倒して、荷車は止めない。目的がはっきりしてる」
「追いつける?」
「追いつく」
答えたのはノアだった。
「荷車が6台ある。そんなに速くない」
しばらくして、前方から車輪の音が聞こえた。
「見えた!」
荷車6台。その周囲には十数人の魔族の護衛がつき、最後尾を黒い鎧のゼルガが歩いている。
ゼルガもこちらに気づいた。
「……またお前たちか」
「今度は仕事だからな!」
ルークが剣を抜く。
「荷車、止めるぞ!」
「やってみろ」
ゼルガが前へ出た。その背後で、輸送隊は止まらない。
「こいつ1人で時間を稼ぐ気だ!」
ダリオが大剣を構える。
「なら俺たちも入る!」
8人が一斉に動いた。
最初にゼルガへ届いたのはダリオだった。
大剣を正面から受け、その横を抜けようとしたカレンへ魔力弾を放つ。フィンが障壁を張り、ユナが全員へ強化をかける。
「ルークたち! 荷車へ行け!」
「分かった!」
4人が横を抜こうとする。
ゼルガの視線が動いた。
「通すと思うか?」
見えない衝撃。
「ルーク、前!」
「おう!」
受ける。
前なら、それだけで足が止まった。
今は違う。
ルークは衝撃を受けながら一歩入り、そのまま拳を黒い鎧へ当てた。
ドッ!
ゼルガの身体が大きく揺れる。
「……!」
鎧は壊れていない。
だが、衝撃が中へ通った。
「できた!」
「まだ途中だ!」
エマが横から斬る。
ゼルガは距離を取ろうとする。
「《火球》!」
ミナの火球。
避けた先で風へ変わり、さらに土へ。
地面が隆起する。
「エマ!」
「うん!」
エマはゼルガの腕を避けようとして体勢を崩された。
だが、立て直さない。
片足が滑ったまま身体を回し、低い位置から剣を振り上げる。
ザシュッ!
黒い鎧の脇に傷が入った。
ゼルガの目が変わる。
数日前まで形になり始めたばかりだった技が、もう実戦で使われている。
「ノア!」
ゼルガが治癒役を狙う。
ノアは下がらなかった。
「ルーク、左!」
短剣で一撃を受けながら指示を飛ばす。
「エマ、そのまま!」
2撃目。
肩を浅く切られる。
「ミナ、今!」
「了解!」
風がゼルガの足元を押す。
ルークが入る。
ゼルガはかわした。
その先にエマ。
さらにミナの魔法。
逃げ道が削られていく。
「……またか」
ゼルガは強引に前へ出た。
ノアへ。
「来る!」
短剣。
受ける。
肩。
腰。
次の動き。
「右!」
半歩ずれる。
ゼルガの拳が空を切った。
ノアが笑う。
「見えた」
「……」
前回は治癒しながら戦い始めた。
今回は、自分の動きまで読み始めている。
「長引かせるな!」
ゼルガが一気に速度を上げた。
ルークが吹き飛ぶ。
エマの剣を弾く。
ミナの魔法を魔力で潰す。
ノアへ踏み込む。
まだ、速さでは届かない。
「ダリオさん!」
ルークが叫んだ。
「今!」
「分かってる!」
ダリオの大剣。
ゼルガが振り向き、受ける。
その一瞬で。
ルークたち4人はゼルガの横を抜いた。
「なっ――」
「荷車!」
4人が走る。
ゼルガが追おうとするが、カレンが前へ入った。
「行かせない!」
「退け!」
「嫌よ!」
フィンの魔法。
ユナの支援。
ダリオの大剣。
Aランク4人が本気でゼルガを足止めする。
先頭の荷車に追いついた。
荷車を守っていた魔族の1人が剣を抜く。
「止まれ!」
「悪いけど」
ルークが拳を構える。
ドッ!
盾は壊れない。
だが、盾の向こうにいた魔族だけが崩れた。
「今日は荷物が目的なんだ!」
エマが御者台へ飛び乗り、手綱を切る。ミナが後方2台の車輪を土で固定し、ノアが残りの護衛の位置を知らせる。
数分後。
6台すべてが止まった。
ゼルガは少し離れた場所で足を止めた。
ダリオたちを振り切れば、まだ戦える。
だが、荷車はもう動かない。
護衛も次々に捕らえられている。
「ゼルガ!」
ルークが叫ぶ。
「荷車、全部止めたぞ!」
ゼルガは答えない。
ただ、4人を見る。
肩で息をしている。
傷もある。
それでも、数日前より明らかに戦い方が変わっている。
「……そうか」
小さく呟き、ゼルガは森へ下がった。
「追うな!」
ダリオが止める。
「今日は荷車が先だ!」
ルークは少し悔しそうにしたが、すぐ頷いた。
「分かった」
確保した荷車を調べると、5台にはこれまでと同じように魔石や古い魔道具が積まれていた。
だが、最後の1台だけは空だった。
「何でこれだけ?」
エマが荷台を覗き込む。
フィンも中へ入り、床を見る。
「何か載せてた跡はあるな」
荷台の中央には、重い物を固定していたような擦れ跡と、太い帯の跡が残っている。
「途中で降ろした?」
ルークが聞く。
「分からん」
ダリオは荷台を見たまま答えた。
「でも、何か大きな物を載せてた可能性はある」
荷車6台は止めた。
それでも。
1台だけ。
何を運んでいたのか分からない荷車が残った。




