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『伝説の英雄たちは田舎で静かに暮らしたい ~25年前に魔王を倒した俺たち、村の子供を普通に鍛えたつもりが全員規格外になっていた~』  作者: オレンジペコ


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第38話 今度は荷車を止める

 東の旧街道へ着いた頃には、日が傾き始めていた。


 道には戦闘の跡が続いている。折れた槍、抉れた地面、倒れた木。それでも死体はない。


「やっぱりゼルガだな」


 ダリオが走りながら言う。


「邪魔な相手だけ倒して、荷車は止めない。目的がはっきりしてる」


「追いつける?」


「追いつく」


 答えたのはノアだった。


「荷車が6台ある。そんなに速くない」


 しばらくして、前方から車輪の音が聞こえた。


「見えた!」


 荷車6台。その周囲には十数人の魔族の護衛がつき、最後尾を黒い鎧のゼルガが歩いている。


 ゼルガもこちらに気づいた。


「……またお前たちか」


「今度は仕事だからな!」


 ルークが剣を抜く。


「荷車、止めるぞ!」


「やってみろ」


 ゼルガが前へ出た。その背後で、輸送隊は止まらない。


「こいつ1人で時間を稼ぐ気だ!」


 ダリオが大剣を構える。


「なら俺たちも入る!」


 8人が一斉に動いた。


 最初にゼルガへ届いたのはダリオだった。


 大剣を正面から受け、その横を抜けようとしたカレンへ魔力弾を放つ。フィンが障壁を張り、ユナが全員へ強化をかける。


「ルークたち! 荷車へ行け!」


「分かった!」


 4人が横を抜こうとする。


 ゼルガの視線が動いた。


「通すと思うか?」


 見えない衝撃。


「ルーク、前!」


「おう!」


 受ける。


 前なら、それだけで足が止まった。


 今は違う。


 ルークは衝撃を受けながら一歩入り、そのまま拳を黒い鎧へ当てた。


 ドッ!


 ゼルガの身体が大きく揺れる。


「……!」


 鎧は壊れていない。


 だが、衝撃が中へ通った。


「できた!」


「まだ途中だ!」


 エマが横から斬る。


 ゼルガは距離を取ろうとする。


「《火球》!」


 ミナの火球。


 避けた先で風へ変わり、さらに土へ。


 地面が隆起する。


「エマ!」


「うん!」


 エマはゼルガの腕を避けようとして体勢を崩された。


 だが、立て直さない。


 片足が滑ったまま身体を回し、低い位置から剣を振り上げる。


 ザシュッ!


 黒い鎧の脇に傷が入った。


 ゼルガの目が変わる。


 数日前まで形になり始めたばかりだった技が、もう実戦で使われている。


「ノア!」


 ゼルガが治癒役を狙う。


 ノアは下がらなかった。


「ルーク、左!」


 短剣で一撃を受けながら指示を飛ばす。


「エマ、そのまま!」


 2撃目。


 肩を浅く切られる。


「ミナ、今!」


「了解!」


 風がゼルガの足元を押す。


 ルークが入る。


 ゼルガはかわした。


 その先にエマ。


 さらにミナの魔法。


 逃げ道が削られていく。


「……またか」


 ゼルガは強引に前へ出た。


 ノアへ。


「来る!」


 短剣。


 受ける。


 肩。


 腰。


 次の動き。


「右!」


 半歩ずれる。


 ゼルガの拳が空を切った。


 ノアが笑う。


「見えた」


「……」


 前回は治癒しながら戦い始めた。


 今回は、自分の動きまで読み始めている。


「長引かせるな!」


 ゼルガが一気に速度を上げた。


 ルークが吹き飛ぶ。


 エマの剣を弾く。


 ミナの魔法を魔力で潰す。


 ノアへ踏み込む。


 まだ、速さでは届かない。


「ダリオさん!」


 ルークが叫んだ。


「今!」


「分かってる!」


 ダリオの大剣。


 ゼルガが振り向き、受ける。


 その一瞬で。


 ルークたち4人はゼルガの横を抜いた。


「なっ――」


「荷車!」


 4人が走る。


 ゼルガが追おうとするが、カレンが前へ入った。


「行かせない!」


「退け!」


「嫌よ!」


 フィンの魔法。


 ユナの支援。


 ダリオの大剣。


 Aランク4人が本気でゼルガを足止めする。


 先頭の荷車に追いついた。


 荷車を守っていた魔族の1人が剣を抜く。


「止まれ!」


「悪いけど」


 ルークが拳を構える。


 ドッ!


 盾は壊れない。


 だが、盾の向こうにいた魔族だけが崩れた。


「今日は荷物が目的なんだ!」


 エマが御者台へ飛び乗り、手綱を切る。ミナが後方2台の車輪を土で固定し、ノアが残りの護衛の位置を知らせる。


 数分後。


 6台すべてが止まった。


 ゼルガは少し離れた場所で足を止めた。


 ダリオたちを振り切れば、まだ戦える。


 だが、荷車はもう動かない。


 護衛も次々に捕らえられている。


「ゼルガ!」


 ルークが叫ぶ。


「荷車、全部止めたぞ!」


 ゼルガは答えない。


 ただ、4人を見る。


 肩で息をしている。


 傷もある。


 それでも、数日前より明らかに戦い方が変わっている。


「……そうか」


 小さく呟き、ゼルガは森へ下がった。


「追うな!」


 ダリオが止める。


「今日は荷車が先だ!」


 ルークは少し悔しそうにしたが、すぐ頷いた。


「分かった」


 確保した荷車を調べると、5台にはこれまでと同じように魔石や古い魔道具が積まれていた。


 だが、最後の1台だけは空だった。


「何でこれだけ?」


 エマが荷台を覗き込む。


 フィンも中へ入り、床を見る。


「何か載せてた跡はあるな」


 荷台の中央には、重い物を固定していたような擦れ跡と、太い帯の跡が残っている。


「途中で降ろした?」


 ルークが聞く。


「分からん」


 ダリオは荷台を見たまま答えた。


「でも、何か大きな物を載せてた可能性はある」


 荷車6台は止めた。


 それでも。


 1台だけ。


 何を運んでいたのか分からない荷車が残った。

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