第37話 一斉輸送
3日後。
夜明けと同時に、各地の集積地から荷車が動き始めた。
魔王城跡へ向かう道は全部で5本。ギルドと騎士団はそれぞれに部隊を配置し、ルークたち4人とダリオたちは中央の旧街道を担当することになった。
「来た」
ノアが遠くを見る。
森の向こうから荷車が次々と現れた。1台、2台ではない。全部で8台。護衛の魔族も40人近い。
「多いな」
ルークが剣を抜く。
「だから突っ込むなよ」
「分かってるって」
ダリオが大剣を構えた、その時だった。
荷車の後ろから、さらに大きな影が現れる。四つ足。黒い甲殻。馬車より大きい。
「……何あれ」
エマが見上げる。
「戦争用の装甲獣だ」
フィンの声が低くなる。
「正面から魔法を撃っても、簡単には止まらないぞ」
魔族側もこちらに気づいた。
「人間だ!」
「荷を守れ!」
装甲獣が前へ出る。地面が揺れた。
「ルーク、下がれ!」
ダリオが叫ぶ。
だが、ルークは装甲獣を見ていた。
「……これ、先生の練習にちょうどよさそう」
「今やる話か!?」
装甲獣が突進する。
ルークは剣をしまった。
「おい!」
真正面から受ける。
脚から腰、背中、肩へ。力を入れるのではなく、一瞬だけ繋ぐ。
拳を甲殻へ当てた。
ドッ。
派手な音はしなかった。
甲殻も割れていない。
「ルーク!」
次の瞬間、装甲獣の巨体が止まった。
一歩。
さらに一歩。
ふらつき、そのまま地面へ倒れる。
ズズンッ!
「……え?」
ダリオが固まる。
ルークも自分の拳を見る。
「今の、かなりできたかも」
「できたかも、で戦争用の魔獣倒すな!」
魔族たちが一瞬止まった。
その隙を逃さない。
「行くぞ!」
ダリオたちが突入する。
エマの前には剣士3人。左右から挟まれ、足を払われる。
体勢が崩れた。
だが、もう立て直さない。
倒れ込む勢いのまま低く回転し、1人目の剣を弾く。地面へ片手をつき、そのまま逆方向へ斬り上げた。
「そんなところから!?」
「私も最近慣れてきた!」
2人目の武器が飛ぶ。
最後の1人が距離を取った瞬間、エマは立ち上がりながら踏み込んだ。
「遅い!」
柄が腹へ入る。
3人目も倒れた。
「魔術師を先に潰せ!」
後方から魔法が飛ぶ。
ミナも火球を放った。
敵が水の障壁を張る。
「それ、もう見た」
火球が途中で風へ変わる。
水壁を回り込み、さらに土へ。
地面へ落ちた瞬間、敵の足元が隆起した。
「術式が変わった!?」
「まだ2回が限界だけどね!」
「十分だ!」
フィンが叫ぶ。
ノアは戦場全体を見続けている。
「ルーク、右!」
「おう!」
「エマ、そのまま前!」
「了解!」
「ミナ、次は3秒待って!」
攻撃を受けてから治すのではない。
危険になる前に動かす。
4人の傷は、以前より明らかに減っていた。
戦闘は20分ほどで決着した。
護衛の魔族は全員捕縛。荷車8台も確保した。
「止めたな」
ダリオが息を吐く。
「これで中央は終わり?」
「ああ」
ルークが装甲獣を見る。
「先生に見せたいな」
「何を?」
「甲殻割らずに倒せた」
「褒めてもらえると思うか?」
「ちょっとは」
「多分『まだ外に逃げてる』って言われるぞ」
「……ありそう」
4人が笑った、その時。
森の向こうから馬が飛び込んできた。
「ダリオ!」
騎士だった。
「どうした!」
「東の輸送隊が抜けた!」
空気が変わる。
「何台?」
「6台!」
「護衛は?」
騎士が息を整える。
「ゼルガだ」
ルークたち4人の表情が変わった。
「ゼルガ本人?」
「ああ。東側の部隊が何度も止めようとしたが、全部突破された」
「被害は?」
「重傷者はいる。でも死者はいない」
ダリオが舌打ちする。
「また殺してないのか」
「荷車は?」
「魔王城方面へ向かってる。まだ追える」
ルークがすぐ剣を握った。
「行こう」
今度はダリオも止めなかった。
「ああ。追うぞ」
止めた8台より。
抜けた6台。
その先には、ゼルガがいる。
そして今度は。
ルークたち4人も、前に戦った時と同じではなかった。




