第35話 もう1台
押収した荷車を町へ運び込んだのは、その日の夕方だった。
中身は大量の魔石と、戦争当時の古い魔道具。フィンが輸送指示書を確認している横で、ルークたちは荷台を覗き込んでいた。
「これ全部、魔王城跡へ運ぶ予定だったの?」
「ああ。それも今回が初めてじゃない」
フィンが紙を指で叩く。
「番号が振ってある。少なくとも、これより前に何便か出てる」
「じゃあ結構運ばれてる?」
「多分な」
ダリオが眉を寄せた、その時だった。
「待って」
ミナが別の紙を拾い上げる。
「これ、今日の日付じゃない?」
フィンが受け取る。
目が変わった。
「次の輸送隊だ」
「次?」
「この荷車とは別に、もう1隊いる。出発時刻からすると、まだ遠くへは行ってない」
ダリオが立ち上がった。
「場所は?」
「北西の旧道」
「行くぞ」
「今から?」
ルークが聞く。
「今だからだ。夜になれば追えなくなる」
「よし!」
「嬉しそうな顔するな」
「してないって」
数分後には、8人全員が町を飛び出していた。
輸送隊を見つけたのは日が沈む少し前だった。
荷車2台。
護衛は魔族16人。
その中に、明らかに他より大柄な男が1人いる。
「止まれ!」
ダリオが前へ出る。
魔族たちはすぐ武器を抜いた。
「人間か」
大柄な男が前へ出る。
「荷を置いて退け」
「断る」
「じゃあ捕まえる」
ルークが剣を抜く。
「お前が?」
「うん」
「子供が前に出るな!」
ダリオが怒鳴る。
「でも行くんでしょ?」
「行くけど順番がある!」
その間に敵が動いた。
盾役3人が前へ出る。
ルークが真正面からぶつかった。
以前なら力任せに押していた。
今は違う。
脚から腰へ。そこから肩、腕へ、一瞬だけ力を繋ぐ。
「ふっ!」
ドッ!
盾は壊れない。
だが、持っていた魔族の身体だけが後ろへ飛んだ。
「なっ!?」
ルークが自分の拳を見る。
「今の、かなり近い!」
「あとで喜べ!」
ダリオが横を抜ける。
その横では、エマが足を払われていた。
体勢が崩れる。
普通なら立て直す。
だが、エマはそのまま片手を地面につき、身体を回した。
下から剣。
カンッ!
相手の武器が跳ねる。
「よし!」
立ち上がるより速かった。
ミナへは魔術師2人。
火球。
水壁。
さらに雷。
「じゃあ、これ」
ミナは1つの火球だけを作る。
敵が水の障壁を張る。
火球がぶつかる直前、外側の術式だけを変えた。
「風」
軌道が曲がる。
「何!?」
障壁の横を抜け、そのまま足元へ着弾。
爆発。
2人の魔術師が崩れる。
「できた!」
「ミナ、左!」
ノアの声。
「分かってる!」
振り向かずに避ける。
槍が空を切った。
ノアは治癒を使っていない。
必要になる前に、3人の危険を知らせていた。
大柄な男が舌打ちする。
「何だ、こいつら」
ルークが飛び込む。
剣を受けられる。
重い。
強い。
「こいつ、結構強い!」
「遅い!」
男の拳が来る。
「右!」
ノア。
ルークが半歩ずらす。
そこへエマ。
男が避ける。
ミナの風が逃げ道を狭める。
「そこ!」
ルークの拳。
今度は鎧へ。
ドンッ!
表面は割れない。
だが。
「ぐっ……!」
男が膝をついた。
鎧の内側だけに衝撃が通っている。
ルークの目が輝く。
「できた!」
「今度は言っていい!」
ダリオが叫んだ。
戦闘は数分で終わった。
魔族16人を全員捕縛。荷車2台も無傷で確保した。
「前より使えてた」
エマが剣を見ながら言う。
「うん」
ミナも嬉しそうに頷く。
「まだ全然だけど」
「実戦で使えるなら十分だろ」
ダリオが言う。
珍しく普通に褒められたので、4人が揃って振り返った。
「何だよ」
「いや、褒めるんだと思って」
「俺だって褒める!」
その横で、フィンが荷車を調べていた。
「……ダリオ」
「何だ?」
「こっちも同じだ」
荷台。
大量の魔石。
古い魔道具。
そして輸送先。
ダリオが紙を見る。
「魔王城跡」
「ああ」
フィンはもう1枚を開く。
「しかも明日、さらに次の便が出る」
ルークたちの顔が変わる。
今日止めたのは。
ほんの一部。
旧魔王軍は今も。
次々と物資を魔王城へ送り続けていた。




