第33話 真似しない
翌朝、村の訓練場にはいつもより早く4人が集まっていた。
昨日、先生たちの“今”を見た。だから今日からは、それをそのまま真似するのではなく、自分たちの形に変えていく。
「まず誰からやる?」
「別々でいいんじゃない?」
ミナが言うと、エマも頷いた。
「その方が早そう」
「じゃあやるか」
少し離れた木陰では、アルドたち4人が見ていた。口は出す。ただし、答えまでは教えない。それが今日からの方針だった。
最初に動いたのはルークだ。昨日のバルクを思い出しながら、目の前の岩へ拳を打ち込む。
ドンッ!
岩は派手に割れた。
「できた!」
「できてない」
「え?」
「外に逃げすぎだ」
バルクはそれ以上言わない。ルークは少し考え、今度は力を抜いて拳を当てた。
コツン。
何も起きない。
「弱すぎた」
「そうだな」
「難しいな、これ」
「だから自分で探せ」
ルークはもう一度構えた。今度は全身を力ませず、足から腰、肩へと力を繋ぐ。
表面に小さなヒビが入る。
「さっきよりは?」
「近い」
「よし」
それだけで、ルークは嬉しそうに笑った。
エマはレイの前で、わざと体勢を崩していた。
片足。しゃがみ込み。地面に手をついた状態。
どれも最初は遅い。
「レイみたいに綺麗に斬れない」
「だから真似しなくていいのよ」
「でも強いじゃん」
「私の剣は私の身体に合わせたもの。あなたはあなたで作ればいい」
エマは少し考える。倒れそうになった体勢を戻さず、そのまま回転して下から剣を振った。
シュッ。
木の棒に浅い傷が入る。
「今のは?」
「私ならやらないわね」
「じゃあ私の?」
「まだ全然だけど」
「そこは褒めてよ」
レイが少し笑った。
ミナは1つの火球を浮かべていた。
「火から風……」
術式を変えようとして、火球が消える。
「また!」
「作り直そうとするからだ」
アルドが言う。
「じゃあどうするの?」
「作り直さない」
「そこから先教えてよ」
「そこを考えるんだよ」
ミナは火球をもう一度作る。今度は全部を変えず、外側の流れだけを変えた。
火球の周囲を風が回る。
「できた」
「早いな」
「本当?」
「うん」
嬉しくなったミナが、そのまま雷まで足そうとする。
バチンッ!
「痛っ!」
「欲張るからだ」
「……はい」
ノアは3人を少し離れた場所から見ていた。
治す前から、戦いを見る。
昨日セリアに言われたことだ。
「バルク、ルークと少しやって」
「おう」
「え?」
ルークが振り向いた時には、バルクがもう動いていた。
拳を避ける。次も避ける。
ノアはルークの足を見る。
「右足、危ない」
「え?」
次の踏み込みで、ルークの足首がわずかに崩れる。
その前に、ノアの治癒が飛んだ。
「あれ?」
「今、先に治した?」
「多分」
「多分って」
セリアが頷く。
「それでいいわ」
ノアは少し考えた。
「でも、分かるなら避けさせた方がいい時もあるよね」
「そうね」
ノアの目が少し変わる。
治すだけじゃない。
戦いそのものを崩さないために見る。
昼前には、4人ともかなり疲れていた。
「全然できない」
ルークが座り込む。
「でも朝よりはできる」
エマが言う。
ミナも頷いた。
「次にゼルガと会うまでに、もう少し形にしたい」
「同じままだと、また読まれるからね」
ノアの言葉に、ルークが笑う。
「じゃあ次は、知らない技を持っていこう」
4人はまだ完成には遠い。
それでも、もう先生たちの真似だけをしてはいなかった。
29年前の英雄とは違う。
自分たちだけの戦い方が、少しずつ形になり始めていた。




