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『伝説の英雄たちは田舎で静かに暮らしたい ~25年前に魔王を倒した俺たち、村の子供を普通に鍛えたつもりが全員規格外になっていた~』  作者: オレンジペコ


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第3話 4人とも、全部やる

「重いよ!」


 4人の声が重なった。


 バルクが持っている丸太は、子どもの胴ほどの太さがある。


「そうか?」


「そうだよ!」


 ルークが即答した。


「これ、俺より重いんじゃない?」


「さすがにそこまでは――」


 バルクは丸太を見た。


 ルークを見る。


 もう一度、丸太を見る。


「……同じくらいか?」


「重いじゃん!」


「まあ、持ってみろ」


「無理だって!」


「持ち上げろとは言ってない。まず持ってみろ」


 バルクは丸太を地面へ置いた。


 ルークが恐る恐る両手をかける。


「せーのっ……!」


 力を込める。


 丸太の片側が、ほんの少しだけ浮いた。


 すぐに落ちる。


「ほら無理!」


「今、浮いたじゃないか」


「ちょっとだけ!」


「最初はそれでいい」


 バルクがしゃがんだ。


「力だけで持ち上げようとするな。足を使え」


「足?」


「昨日、レイにも言われただろ。地面を踏んだ力を体に通すんだ」


「あ」


「剣も丸太も同じだ」


 少し離れたところで聞いていたレイが口を挟む。


「まったく同じではないわよ」


「似たようなもんだ」


「雑ね」


「分かりやすいだろ」


 ルークはもう一度、丸太に手をかけた。


 今度は腕だけで引っ張らない。


 腰を落とし、足に力を入れる。


「んんっ……!」


 先ほどより高く浮いた。


「おっ」


 ルークの顔が明るくなる。


「今の方が軽かった!」


「だろ?」


「もう1回!」


 バルクが笑う。


「そういうことだ」


 もちろん、その日のうちに丸太を担いで歩けるようになったわけではない。


 ルークでも片側を持ち上げるのが精いっぱい。


 エマとミナは、少し浮かせるだけ。


 ノアは何度やってもほとんど動かなかった。


 それでもバルクは気にしない。


「動かない……」


 ノアが肩で息をする。


「なら、今日は動かなくてもいい」


「いいの?」


「ああ」


 バルクは自分の足を指した。


「どこに力を入れた時に動いて、どこに入れた時に動かなかったか。それを覚えろ」


「……うん」


「力なんて後からつく。先に使い方を覚えた方がいい」


 その言葉に、ルークが食いついた。


「じゃあ、俺もバルクみたいに持てるようになる?」


「続けてりゃな」


「やる!」


 バルクが笑った。


「じゃあ毎日やれ」


「毎日!?」


「やるんだろ?」


「……やる!」


 こうして、朝の大岩までの往復に、丸太を使った訓練が加わった。


 もちろん、それだけではない。


 レイの剣も続いた。


「エマ。速く振ることばかり考えない」


「はい!」


「振った後に動けなくなったら、その間に斬られるわ」


 エマが木剣を振る。


 止める。


 すぐに足を動かす。


「こう?」


「そう。もう1回」


「はい!」


 エマは剣を振るたびに、少しずつ動きが良くなっていた。


 一方、ミナはまだ木剣に苦戦している。


「うぅ……」


「手だけで止めようとしない」


「分かってるけど……!」


 レイの木剣を受け、ミナがよろける。


 それでも倒れなかった。


「今のはよかったわ」


「本当?」


「ええ」


 ミナが嬉しそうにする。


「じゃあ、もう1回!」


「いいわよ」


 ミナが構え直した。


 アルドの魔法も続いていた。


「今日は石じゃなく、これだ」


 アルドが用意したのは小さな木の板だった。


 中央に円が描かれている。


「ここだけに魔力を流してみろ」


「全部じゃ駄目なの?」


 ルークが聞く。


「駄目じゃない。でも、必要なところだけに流せた方が楽だろ」


「なんで?」


「魔力だって無限じゃないからな」


 アルドは板を持つ。


 描かれた円だけが淡く光った。


「使う場所に、使う分だけ。余計なところには流さない」


「難しそう……」


 エマが呟く。


「最初はできなくていい」


 アルドは板を渡した。


「できるまでやればいいから」


 4人がそれぞれ練習を始める。


 やはり一番早かったのはミナだった。


「あっ」


 板の中央が淡く光る。


 ただし円から大きくはみ出していた。


「できた!」


「半分くらいな」


「光ったよ?」


「光らせるだけならな。ここから漏れてる」


「じゃあ、もう1回」


「そうしろ」


 ミナはすぐに板へ視線を戻した。


 その横では、ルークが唸っている。


「光らない」


「力みすぎだ」


「でも、力入れないと出ない」


「魔力は筋肉じゃない」


「難しいな、魔法……」


「だから練習するんだろ」


 ルークも諦めなかった。


 セリアからは、治療を教わった。


 最初から人間の傷を治させたりはしない。


 葉や小枝。


 小さな切り傷を作った果実。


 そうしたものを使いながら、傷んだ場所を見つけ、少量の魔力を流す。


「治せばいいんじゃないの?」


 ルークが聞いた。


「治せればね」


 セリアが答える。


「どういう意味?」


「傷にも色々あるの。切れた傷。潰れた傷。骨が折れていることもあるし、中で血が出ていることもある」


 4人が真剣に聞く。


「だから、まず見る。触る。必要なら動かしてもらう。それから治す」


「間違えたら?」


 ノアが聞いた。


「悪化させることもあるわ」


 ノアの顔が引き締まった。


「じゃあ、ちゃんと見ないと」


「そういうこと」


 セリアが微笑んだ。


「治癒術が使えなくても覚えておいて。傷口を洗う。血を止める。固定する。できることはたくさんあるから」


「魔法がなくても?」


「もちろん」


「じゃあ、それも全員?」


 エマが聞いた。


「全員よ」


 セリアは迷わず答えた。


「自分だけ治療できても、自分が倒れたら意味がないでしょう?」


「あ、そっか」


 エマは素直に納得した。


 数か月が過ぎた。


 朝、大岩まで走る。


 戻ったら剣を振る。


 丸太を使って体の動かし方を覚える。


 魔力を操る。


 傷の見方と治療を覚える。


 それだけではなかった。


「これ、何の足跡?」


 レイが地面を指す。


 ルークたちが覗き込む。


「鹿!」


「違うわ」


「じゃあ猪?」


「違う」


 エマがしゃがみ込んだ。


「爪の跡がある」


「そうね」


 ノアも見る。


「こっちにもあるよ」


「何匹?」


 レイに聞かれ、4人が周囲を探し始める。


 別の日には、アルドが森の中で立ち止まった。


「今、村はどっちだ?」


 4人が固まる。


「……あっち?」


 ミナが指す。


「逆」


「えっ!?」


「道ばっかり見て歩くな。太陽と地形も見とけ」


「そんなのも覚えるの?」


「迷った時に帰れなくなるだろ」


「そっか……」


「あと、知らない場所では目印を残せ」


「木に傷つける?」


「それでもいい。ただし他人が見ても分からない形にした方がいいな」


「なんで?」


「追われてる時に使えないだろ」


「追われるの!?」


「そういうこともある」


 アルドは普通に答えた。


 さらに別の日。


 バルクが森の中で突然言った。


「今日はここで昼飯だ」


「やった!」


 ルークたちが喜ぶ。


「ただし火を起こすところからな」


「え?」


「飯も自分たちで作れ」


「ええっ?」


「水も探せよ」


「持ってきてないの!?」


「野営の練習だからな」


 4人が慌てて動き始める。


 バルクはその様子を満足そうに眺めていた。


 さらに季節が巡った。


 最初は持ち上がらなかった丸太を、ルークは肩まで上げられるようになった。


 エマはレイの木剣を、時々受けられるようになった。


 ミナは狙った場所だけへ魔力を流せるようになった。


 ノアはセリアが何も言う前に、傷んだ場所を見つけることが増えた。


 それぞれ得意なものが、少しずつはっきりしてきた。


 だが、だからといって他の訓練をやめることはなかった。


 ルークも魔力操作をする。


 エマも治療を学ぶ。


 ミナも剣を振る。


 ノアも丸太を持つ。


 誰か1人だけではない。


 4人とも、全部やった。


 ある日の夕方。


「はぁっ!」


 エマの木剣がレイへ向かう。


 レイは自分の木剣で受けず、半歩だけ動いた。


 空振り。


 エマがすぐに向きを変える。


 もう一度。


 また届かない。


「まだ踏み込みが大きい」


「はい!」


「踏み込むことが目的じゃない。斬れる場所まで届けばいいの」


「もう1回!」


「いいわよ」


 何度挑んでも、エマの剣はレイに触れなかった。


 少し離れたところでは、


「せいっ!」


 ルークがバルクへ飛び込んでいた。


 肩をつかまれる。


「うわっ!」


 次の瞬間には地面へ転がされていた。


「また!」


「来い」


 ルークが起き上がる。


「《風弾》!」


 ミナが杖を向ける。


 圧縮された風が飛び、木の標的へぶつかった。


 ドンッ!


 標的が大きく揺れる。


 後ろにあった柵まで軋んだ。


「やった!」


「力を入れすぎだ」


 アルドが言った。


「え?」


「標的を倒すだけなら、そこまでいらない」


「でも強い方がいいんじゃないの?」


「同じ魔力で2発撃てた方がいいだろ」


「あ……」


「威力を上げるのは、必要な時だけでいい」


「分かった。もう1回!」


 ミナが杖を構え直す。


「ここ?」


 ノアが葉を指す。


「そこも」


 セリアが答えた。


「え?」


「傷んでいるのは1か所とは限らないわ」


 ノアがもう一度見る。


 指先で葉脈を辿る。


「……こっちも?」


「正解」


「気づかなかった……」


「だから確認するの」


「もう1枚やる」


「ええ」


 ノアも葉を取り直した。


 日が沈み始めた頃。


 ようやく訓練が終わった。


 4人は村を見下ろす丘に座っていた。


「今日も1回も当たらなかった」


 エマが膝を抱える。


「俺なんて何回投げられたと思う?」


 ルークが草の上に寝転ぶ。


「知らない」


「17回」


「数えてたの?」


「途中から意地になった」


 ミナも肩を落とす。


「私もアルドにずっと駄目って言われた」


「僕も」


 ノアが言う。


「まだ見落とす」


 4人は黙った。


 毎日練習している。


 できることも増えた。


 それでも、先生たちにはまるで届かない。


 ルークが空を見る。


「冒険者って、すごいんだな」


「うん」


 エマが頷く。


「もっと強くならないと」


「私も」


「僕も」


 4人の中に、疑問を持つ者はいなかった。


 自分たちは、まだまだだ。


 先生たちが教えてくれることを、もっとできるようにならなければならない。


 そう思っていた。


 その夜。


 アルドたちはいつものように4人の成長について話していた。


「エマ、だいぶ剣がよくなってきたわ」


 レイが言う。


「ミナも魔力操作が安定してきた」


「ルークも体の使い方を覚えてきたぞ」


「ノアは傷を見る感覚が鋭いわね」


 セリアが微笑む。


「じゃあ、そろそろ次に進めるか」


 アルドが言った。


「そうだな」


 バルクも頷く。


「何をやる?」


 レイが尋ねる。


 アルドは少し考えた。


「実際に魔物を見せてもいい頃じゃないか?」


「戦わせるの?」


「いきなりは戦わせない。まず見分け方からだ」


「いいんじゃない?」


 セリアも頷く。


「危険度を知らない方が危ないもの」


 話はすぐにまとまった。


 翌朝。


 いつものように訓練へ来た4人に、アルドが告げる。


「今日は森へ行くぞ」


 ルークの顔が輝いた。


「魔物!?」


「見るだけだ」


「戦わないの?」


「まずはな」


「よし!」


 4人は嬉しそうだった。


 そんな子どもたちを見て、アルドは念を押す。


「いいか。魔物を見つけても勝手に近づくな」


「はい!」


「勝てそうに見えてもだ」


「なんで?」


 ルークが聞いた。


 アルドは即答した。


「勝てるかどうかと、戦う必要があるかどうかは別だからだ」


 4人が静かになる。


「冒険者になりたいなら覚えておけ」


 アルドは森へ目を向けた。


「一番大事なのは、魔物を倒すことじゃない」


 そして歩き出す。


「生きて帰ることだ」

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