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『伝説の英雄たちは田舎で静かに暮らしたい ~25年前に魔王を倒した俺たち、村の子供を普通に鍛えたつもりが全員規格外になっていた~』  作者: オレンジペコ


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第25話 Dランクになった日

 町へ戻ったのは、夜だった。


 救出した魔族は20人。


 右区画で9人。


 左区画で11人。


 全員、生きている。


 ギルドの治療室へ運び込まれたあと。


 少女は廊下で1人ずつ顔を確認していた。


「……本当に全員いる」


 最後の1人を見て。


 ようやく息を吐く。


「よかったな」


 ルークが言った。


「うん」


 少女は短く答えた。


 少し間を置いて。


「ありがとう」


「俺だけじゃないよ」


「分かってる」


 少女はルークたち4人を見る。


「全員に言ったの」


「そっか」


「……何であなたが照れるのよ」


「知らない」


 エマが笑った。


 翌朝。


 ルークたち4人はギルドへ呼ばれた。


「また会議?」


 ミナが聞く。


「今日は違う」


 受付嬢が笑っている。


「ギルド長室へ」


「俺たち何かした?」


「山ほどしたでしょう」


「怒られる方?」


「逆」


 4人が顔を見合わせる。


 部屋には。


 ギルド長。


 ダリオたち4人。


 そして数人の職員がいた。


「座ってくれ」


 ギルド長が言う。


 4人が並ぶ。


「今回の件について、報告は全部受けた」


 剛角兎。


 護衛。


 負傷者救助。


 Bランク上位パーティとの模擬戦。


 そして。


 旧魔王軍の拠点への2度の侵入。


 捕虜27人の救出。


 敵部隊の制圧。


「本来なら」


 ギルド長が言う。


「お前たちは、まだEランクになってから日が浅い」


「うん」


「ランクは強さだけでは上げない」


「前にも聞いた」


 ルークが答える。


「経験」


「依頼の達成数」


「判断」


「信頼」


「全部を見る」


「はい」


「だから」


 ギルド長が4枚の冒険者証を机へ置いた。


「Dランクへの昇格を認める」


「……」


 ルークたちが止まった。


「え?」


「Dランクだ」


「もう?」


 エマが聞く。


「もう、ではない」


 ギルド長が苦笑する。


「むしろ、今まで上げなかった理由の方が多い」


「どういう意味?」


「実力だけで決めていたら、もっと早く話がややこしくなっていた」


 ダリオが横で深く頷いた。


「それが正解だ」


「何で?」


 ルークが聞く。


「お前ら、自分の強さ測れないだろ」


「最近は結構強いって分かってきた」


「そこまでは進歩した」


「じゃあいいじゃん」


「その先が分かってねえ」


 ルークが首を傾げる。


 ダリオは諦めた。


 新しい冒険者証。


 Dの文字。


 ルークが何度も見る。


「Dランクか」


「嬉しい?」


 ノアが聞く。


「嬉しい」


 エマも笑う。


「私も」


「先生たちに見せたい」


 ミナが言う。


 ダリオが嫌な顔をした。


「やめとけ」


「なんで?」


「多分、『そうか』で終わるぞ」


「アルドは言いそう」


「レイも」


「バルクは肉焼きそう」


「セリアはお祝いしてくれそう」


「結局行くんじゃねえか」


 4人が笑う。


「ただし」


 ギルド長が声を戻した。


「喜んで終わりではない」


 机に別の地図が置かれる。


 古い砦。


「今朝、偵察を出した」


「砦に?」


「ああ」


「結果は?」


「敵がいない」


 4人の表情が変わった。


「いない?」


 ミナが聞く。


「ヴェルガも?」


「確認できない」


 ダリオも初耳だったらしい。


「いつ抜けた?」


「昨夜だと思われる」


「全員?」


「ほぼ」


 ギルド長が地図を指す。


「砦の地下には放棄された物資が残っていた」


「だが重要そうな物は持ち出されている」


「移動先は?」


「不明」


 ルークが眉を寄せた。


「逃げた?」


 ダリオが首を振る。


「逃げた、だけならいいが」


「違うの?」


「捕虜を全部奪われた」


「部隊も2つ消えた」


「砦の構造もかなり見られた」


「そんな場所に居続ける理由がない」


 カレンも言う。


「ヴェルガってやつ、思ったより判断が早いわね」


「負けた場所にこだわらない」


 フィンが続ける。


「厄介だな」


「残ってたものは?」


 ミナが聞く。


「ほとんどない」


「魔法陣は?」


「消されていた」


「書類?」


「焼却」


「足跡?」


「複数方向に分けられている」


 ノアが呟く。


「追わせるため?」


「おそらく」


 ダリオが答える。


「本命を隠してる」


 ルークは地図を見る。


「じゃあまた探す?」


「そうなる」


「今度は俺たちも?」


「待て」


 ダリオが止める。


「Dランクになった瞬間に顔するな」


「どんな顔?」


「もっと危ない依頼行ける、って顔」


「してないぞ」


「してる」


 4人全員に言われた。


「……そんな分かりやすい?」


「かなり」


 同じ頃。


 村。


「Dランク?」


 バルクが聞いた。


 連絡用の鳥が運んできた紙を。


 アルドが読んでいる。


「ああ」


「4人とも?」


「4人とも」


「早いな」


「そう?」


 レイが薪を束ねながら聞く。


「4年教えたんだから、それくらいはなるんじゃない?」


「俺もそう思う」


 アルドが答えた。


 セリアが少し笑う。


「帰ってきたら何か作りましょうか」


「肉?」


 バルクが聞く。


「どうしてあなたはすぐ肉なの」


「祝い事だぞ」


「野菜も食べて」


「食ってる」


「肉の横に乗ってるのは食べたことにならないわ」


 いつも通りだった。


 ただ。


 アルドはもう1枚の紙を見る。


 ヴェルガが砦を放棄した。


 その報告。


「どう思う?」


 レイが聞いた。


「妥当だな」


「逃げた?」


「いや」


 アルドが首を振る。


「ヴェルガなら」


「負けたから場所を変えたんじゃない」


「もう」


「そこでやることがなくなったんだろ」


 バルクの表情が変わる。


「次へ行った?」


「多分」


「何しに?」


「それが分からない」


 アルドは紙を折った。


「でも」


「少し嫌な感じはするな」


 4人の空気が。


 ほんの少しだけ変わった。


 町。


 その日の午後。


 ルークたちは、Dランクになって初めて依頼板の前に立っていた。


「増えた」


 エマが言う。


「受けられる依頼?」


「うん」


 討伐。


 護衛。


 調査。


 探索。


 Eランクまでとは。


 内容が明らかに違う。


「これとか?」


 ルークが1枚取ろうとする。


 ダリオが後ろから戻した。


「勝手に取るな」


「何でいるんだよ!」


「お前らが絶対変なの選ぶと思ったからだ」


「普通の選ぶよ」


「お前らの普通を信用してない」


「まだ言う?」


「一生言うかもしれん」


 その時。


 ギルドの扉が開いた。


「緊急!」


 冒険者が駆け込んでくる。


「北西の街道!」


「何があった!」


「商隊が襲われた!」


 受付嬢が立ち上がる。


「魔物?」


「違う!」


 男が息を整える。


「魔族だ!」


 ギルドの空気が変わった。


「人数は?」


 ダリオが聞く。


「分からない!」


「商隊は?」


「半分は逃げた!」


「残りは?」


「連れていかれた!」


「どっちへ?」


「北西!」


 地図。


 ダリオがすぐ開く。


 古い砦は南西。


 北西とは。


 まったく違う方向。


「ヴェルガ?」


 ルークが聞く。


「まだ分からん」


 ダリオが答える。


「でも」


 フィンが街道の先を見る。


「これが偶然なら出来すぎてる」


 少女も駆け込んできた。


「聞いた!」


「知ってる魔族?」


「分からない」


「でも北西には」


 少女の顔が変わる。


「何?」


「あっちには」


 地図を指す。


「戦争中に使われた道がもう1本ある」


「どこへ続く?」


 少女は。


 少し迷ってから答えた。


「人間領の奥」


 そして。


「王都へ向かう街道にも繋がる」


 ダリオの目が鋭くなる。


 砦を捨てた。


 その直後。


 遠く離れた街道で。


 魔族が動いた。


 ヴェルガが。


 逃げたのではないなら。


「移動したんだ」


 ルークが言った。


「可能性は高い」


 ダリオが答える。


「次の場所へ」


 Dランクになったばかりの冒険者証を。


 ルークが握る。


「じゃあ」


「行く?」


 ダリオが見る。


「確認するぞ」


「これは訓練じゃない」


「うん」


「Dランクになった記念でもない」


「うん」


「人が連れ去られてる」


「分かってる」


 ルークの顔から。


 さっきまでの笑みが消えていた。


「助けよう」


 エマ。


 ミナ。


 ノア。


 3人も頷く。


 ダリオは。


 今度は止めなかった。


「行くぞ」

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